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命運を左右する新潟戦を前にドゥドゥが復帰。甲府は強力2トップ・プラスαで生き残る【ヴァンフォーレ甲府編/”ラスト3″・J1残留争い特集】

黒木聖仁という新たな武器

日本代表の欧州遠征により、中断期間に入っているJ1リーグ。優勝争いは鹿島アントラーズか川崎フロンターレに絞られた一方で、残留争いも佳境を迎えており、残留争いの渦中にあるチームにとって、”ラスト3″の段階でのインターバルはトップリーグに生き残るための貴重なチーム作りの期間となった。そこでJ論では残留争いを戦っているチームが、J1に生き残るための”秘策”をどう準備してきたのか。各番記者がレポートするミニ特集を展開。第3回は残留圏・15位に位置しているヴァンフォーレ甲府の番記者・松尾潤氏がレポートする。

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(右から)リンス、ドゥドゥ、黒木聖仁のFWが3枚いることが攻撃面での強みになる

▼インターバルのチーム状況

 中断期間における最大のグッドニュースは、ひざの痛みで前節のヴィッセル神戸戦(2●3)の出場を回避したドゥドゥが復帰したこと。昨年末に手術をした個所ではないものの、同じ左足の痛みであったため、ドゥドゥも少しナーバスになっていたが、11月14日から練習に合流している。ドゥドゥは「(中断期間に)休んで治療をしてひざの状態はだいぶん良くなった。チームの集中力は高まっているし、新潟戦はわれわれにとって、決勝戦と同じ気持ちで挑む。ここで取る勝ち点3は残留にとって大きい」と話すなど、気持ちもグッと入っている。

 現在のチーム状態については、例えば中断期間に行った山梨学院大とのトレーニングマッチ(11月11日、45×3本、2○1)では主力組で臨んだ1本目が0-1という結果に終わったが、甲府の生命線であるオーガナイズは保てていたため、大きな問題はない。ただ、ここ最近はセットプレーからの失点や試合内容で勝っても結局は試合に負けるという失点の仕方が課題として残っている。シーズン序盤から夏の終わりごろまでは圧倒的な”貧打”に苦しんだが、守備の堅さという点では一定以上の手ごたえがあった。しかし、ドゥドゥのコンディションが戻り、途中加入のリンスがフィットした9月前後からは”貧打”が解消されたものの、失点が増えている。

 その点について、ディフェンスリーダーの新井涼平は言う。

「点を取るという課題が克服されつつあるが、しっかりと守れているのかというと守れていない。それを”点が取れるようになったから”ということにはしたくない。最後に体を張るところで戦い、しっかりと試合を終わらせるという部分が個人としてはそう思いたくはないけど、少し抜けかけている。もう一度引き締めて最後は体を投げ出してでも守り切るということをチーム全体で取り組みたい」

 推進力があるドゥドゥとリンスがいることでチーム全体のバランスとして前に行く勢いが出ていることもあるが、失点シーンを振り返るとカウンターではなく、人数がそろっているのにちょっとしたボールのはね返りから隙を突かれていることが少なくない。また、セットプレーからの失点も気になるため、中断期間中はセットプレーの攻守を何度も確認。吉田達磨監督は攻撃では迫力と熱を持って入ることを求めていた。

▼黒木聖仁という新たな武器

 甲府は第31節を終えて、16位のサンフレッチェ広島にわずか勝ち点1差とはいえ、順位は15位で自力残留ができる立場にある。メンタル面において、残留争いを戦うチームはどこも強いプレッシャーを受けるが、降格圏と残留圏では少々違いはある。甲府としてはまず目先の対戦相手であるアルビレックス新潟に勝つことが重要だと考えており、ライバルが負けることには期待はしていない。なによりも甲府としては”一戦必勝”のスタンスで試合に臨み、少しでもメンタル面の優位性を保ちながら戦いたい。

 ”ラスト3″を戦う上で甲府にとっての大きな武器は、ドゥドゥとリンスの2トップがそろう攻撃陣。その一方でドゥドゥが不在だった神戸戦で今季途中からFWにコンバートされた黒木聖仁がフィットしたことも強みとなりつつある。黒木はヘディングの強さ、キープ力や展開力というドゥドゥにはない武器を生かして、リンスとの良好なコンビネーションを発揮。神戸戦ではリンスの先制ゴールをアシストしている。ドゥドゥのような決定力はまだ発揮できていないものの、周囲を生かすという点ではドゥドゥの不在を感じさせない存在感を示したと言っていい。ドゥドゥのひざの状態に不安が少し残るため、黒木の存在は大きい。

 また、日程面に目を移せば、残り3節の対戦相手が18位・新潟、17位・大宮アルディージャ、12位・ベガルタ仙台と、ライバルとの直接対決が2試合あることもポイントになる。今季の甲府は上位に勝つこともあるが、下位に負けることも少なくなく、直接対決となれば残留圏の15位にいるという勝ち点の優位性やメンタル面の利点を生かしやすい。特に第32節・新潟戦は、新潟が大量得点差での勝利が必要なだけに、開始直後からアグレッシブにプレーしてくることが想定される。この新潟をいなし、先制点を決められるか。それが試合の大きなポイントになる。新潟に勝つことができれば、さらに有利な状況で第33節の大宮戦を戦うことができるため、今節の新潟戦はJ1残留の可否の50パーセント以上を占める試合だと言ってもいい。

 新井は「チームとして残留争いをしている感覚になると慌てるプレーが増えるが、甲府は5年間の経験でそういうときでも慌てないで普段通りのプレーが出せるようになっていると思う」と話している。吉田監督がもっと危機感を出してほしいと思っていることを練習で感じるが、同時に「ウチの選手はこれだけ残留争いをやってきているから、その経験値は高い。(残留争い中でもサッカーをやることが)ハッピーなんですよ。これはすごいことでポジティブに使いたい」と話しており、メンタルコントロールが成功すれば、望む結果を手にできる可能性は高い。それだけに、新潟戦で勝利という結果を得ることが非常に重要になる。

山梨フットボール