下から目線で紐解くJ1再開。夏の怪談を乗り越え、安堵の吐息を漏らすのは?
▼今年もいるか、”意外な降格者”
夏の怪談が怖いといっても、所詮はフィクションだ。降格の恐怖に比べたら、子供だましに過ぎない。
編集部から与えられたテーマは”J1再開大展望”だったが、私はあえて”下から目線”で後半戦を考察しようと思う。念のため説明するとJ1からJ2へ降格するクラブは三つ。つまり降格の可能性は優勝の3倍だ。大半のクラブにとってより現実的な争いは、空の上でなく足元にある。
「ウチは降格争いと関係ないでしょ」と軽く思っている方もいるだろう。しかし近頃のJ1リーグは、そんなに甘いものではない。いま降格圏にいる3チームはガンバ大阪、大宮アルディージャ、徳島ヴォルティスだが、このまますんなり行く予感はまるでない。16位・ガンバ大阪の勝ち点は14試合を終えて「15」。実は9位・清水エスパルスとの勝ち点差は『3』しかないのだ。J1は後半戦を前にして、1試合でひっくり返り得る幅に8チームがひしめき合っている。
もちろんそれぞれの地力に違いはある。12位・横浜F・マリノス、13位・セレッソ大阪のACL参加組は、ここからコンディション調整が楽になる。サポーターからしてみると「ボトムズと同列に扱うな」という思いがあるかもしれない。
ただ、最近のJ1リーグを振り返ってみると、「まさかあのクラブが…」という”サプライズ降格”が定番になっている。昨年のジュビロ磐田、一昨年のG大阪がいい例だが、開幕前は「優勝候補」に挙げる人さえいたクラブが現実としてJ2に落ちていくのだ。チームで大きな内紛があったとか、戦術的に崩壊しているという状態でないのにもかかわらず、下のカテゴリーへと沈んでいく。J1は実力が接近して、ちょっとのズレが致命的な結果を招くリーグなのだ。
2012年のG大阪は勝ち点『38』でJ2に降格している。浦和レッズは現在勝ち点『29』で首位を行くが、彼らとて去年の大宮レベルの大失速(第16節からの16試合で勝ち点を『3』しか取れなかった!)を起こせば、残留争いに巻き込まれかねない。それが現実だ。
▼現実的に展望してみよう
残留戦線でもっとも苦しい位置にいるのは徳島だ。14試合を終えて稼いだ勝ち点は『4』に止まり、全体として混戦のリーグにあって、1チームだけ大きく水をあけられている。内容的な上積みはできているし、小林伸二監督のコメントを聞く限りではポジティブな部分もあるようだが……。降格の可能性がもっとも高いことは否めない。
一方、17位から上の順位は、実に混沌としている。どのクラブも現状維持が死を意味することは百も承知。この中断期間に精力的な補強を行い、戦力を底上げしている。17位・大宮は外国人の入れ替えを行い、セルビア代表FWドラガン・ムルジャと元韓国代表MFチョ・ウォニが既に合流。その定評ある”残留力”も含めて、このままということはなさそうだ。16位・G大阪はFWパトリック、15位・名古屋は元MVPのレアンドロ・ドミンゲスを獲得した。前者であれば遠藤保仁や宇佐美貴史、後者ならば闘莉王、楢崎正剛の名を挙げるまでもなく、この両クラブは日本人にも実績豊富な選手が揃っている。ここから持ち直してくる可能性は高い。
そして、筆者が主な取材対象としている甲府は、現在14位に踏み止まっている。第14節では柏を3-0で一蹴し、ヤマザキナビスコカップも含めて3連勝を飾るなど、手ごたえを得ての中断期間入りだった。経営規模的にはJ1最少レベルで、補強も小規模にならざるを得ない。東京Vで活躍し、2年連続でJ2の得点ランク2位に入ったこともあるFW阿部拓馬の加入は濃厚だが、ドイツではベンチにいた時間が長く、その試合勘には疑問符が付く。加えて合流も再開ぎりぎり。下との差が無きに等しいことを考えれば、まったく楽観できない。
そして密かな”サプライズ降格候補”が13位・C大阪ではないだろうか。若手の有望選手を揃え、4年前のW杯得点王を擁するクラブであることは百も承知だ。しかしここには2つの大きなリスク要因がある。一つはもちろん監督交代。ポポヴィッチ監督を更迭し、マルコ・ペッツァイオリ新監督を迎えたことで、チームは間違いなく変わる。しかし変化はチャンスであると同時にリスク――。賭けが悪いほうに転ぶ可能性はある。加えて、柿谷曜一朗のバーゼル移籍は純粋にマイナス要素だ。南野拓実、杉本健勇と次代のセレッソを担う有望株はいるが、一朝一夕に埋まる穴ではあるまい。
12位・横浜FM、11位・ベガルタ仙台、10位・FC東京、9位・清水エスパルス……くらいまでは、現実に”サプライズ降格”が有り得る範囲だろう。繰り返しになるが、16位・G大阪と9位・清水は勝ち点差が『3』しかないからだ。
▼波瀾万丈なJリーグライフが帰って来る
再開を前にして気味の悪い話をしてしまったが、こういう「恐怖」もまた、喜びと裏腹の要素だ。降格制度があるからこそ、Jリーグは消化試合がほとんどなく、サポーターはクラブの強弱を問わず平等にスリルを味わうことができる。そして緊張と緩和の連続で、僕らはサッカーから抜け出せなくなる――。
恐怖や絶望、悲嘆という”スパイス”が効きすぎることはあっても、波乱万丈なJリーグライフには、無味乾燥な日常と違う美味が含まれているはずだ。