得点力不足解消へ。残留への秘策は、アンデルソン・ロペスの1トップ!?【サンフレッチェ広島編/”ラスト3″・J1残留争い特集】
スコアラーは誰なのか?
▼”スコアラー”は誰なのか?
誰が得点を取るのか、ハッキリしない。サンフレッチェ広島が波に乗れない理由は、そこに尽きる。
ヤン・ヨンソン監督就任以降、ジュビロ磐田戦や清水エスパルス戦で3得点、ガンバ大阪戦で2得点を記録しているが、ほかの10試合での得点はすべて1得点以下。無得点試合は6試合もある。平均得点は0.92。個人で見ても、アンデルソン・ロペスが4得点、パトリックは3得点を記録しているものの、ロペスはベガルタ仙台戦以降の10試合でPKの1得点のみ。パトリックやセレッソ大阪、清水と連続得点を記録したフェリペ・シウバも、4試合ゴールがない。
平均シュート数は10.3本と決してチャンスを作っていないわけではないが、とにかくゴールが遠い。その傾向に危機感を感じたのか、ヨンソン監督は第29節の鹿島アントラーズ戦から2試合、[4-2-3-1]から[4-1-3-2]にフォーメーションを変化させた。第30節の川崎フロンターレ戦ではこの形が功を奏し、ボール支配率でも、パス総数や成功率、チャンスの総数でも川崎を圧倒。「自分たちの(パス)サッカーができなかった」と鬼木達監督を嘆かせた。ミスが連続して3失点を喫してしまったが、攻撃面では明らかな手ごたえをつかんだ。しかし、鹿島、川崎との2試合で計5失点という現実が指揮官の方向性を転換させるに至り、浦和戦ではシステムを[4-2-3-1]に戻した。ただ、確かに守備は安定したものの判断ミスから失点を喫し、一方の得点機は終了間際のパワープレー時くらい。攻撃の手詰まり感がまた、戻ってしまった。
[4-2-3-1]を採用した11試合で平均失点は0.91。守備の安定こそ勝ち点の積み重ねにつながるという意味では、指揮官の”修正”は正しい。だが得点が取れないという現実が変わっていないこともまた、事実である。前述したようにチャンスは決して少なくはない。4試合で1得点という現実の中でも、そのすべての試合でビッグチャンスは存在した。一方で相手にはそれほど多くのチャンスを与えていないのに、少ない決定機を決められてしまう。勝てないチームの典型と言えば、その典型だ。
結局、サッカーは決めるべきときに決め、守るべきときに守るというシンプルなスポーツである。シンプルであるがゆえに、複雑系にも陥るという側面もあるが、いずれにしてもチャンスをきっちりと決めないと勝ち点は積み上がらない。鹿島には金崎夢生、川崎には小林悠、浦和には興梠慎三、C大阪では杉本健勇。広島の黄金期には、佐藤寿人(現・名古屋)、石原直樹(現・仙台)、ドウグラス(アルアイン)、浅野拓磨(シュツットガルト)とストライカーがしっかりと存在した。決めるべきときに決めるストライカーがいるチームは、やはり上位にいる。サッカーのシンプルさからすれば当然のことだ。
▼チームメートの評価
いま、広島にストライカーは誰がいるのか。工藤壮人や皆川佑介、宮吉拓実、そしてパトリック。実績や可能性を持った候補はいる。だが、今季の現実を考えれば、10得点を記録しているアンデルソン・ロペスしかいない。
彼は間違いなくストライカーである。10得点のうち、ペナルティーエリア内でゴールを決めたのは6得点。エリア外からドリブルで運んでのゴールは2点でミドルシュートが1点、PKが1点。このゴール内容の構成はMFではなくFWのそれだ。左足のシュートは強烈だが、ミドルレンジでは枠内に飛ぶ確率は低い。しかしエリア内では実にコントロールされたシュートで、しっかりと決め切っている。
「ボールを運べるロペスは前を向いてプレーさせたい」
森保一・前監督もヨンソン現監督も、そういう発想でポジションを決めてきた。だがこのブレイク期で指揮官は一つのオプションを試した。先週末に行われたG大阪との練習試合でロペスを1トップで起用したのである。
機能したかどうか。記者がそれを語る前に選手のコメントを紹介しておこう。
「ロペがFWに入ったことで、前線でシンプルにボールが動くようになった」(千葉和彦)
「センターFWでの彼はシンプル。足下につけても圧力を受けつつボールを保持できるし、簡単にプレーすることで(フェリペ)シウバや(柴崎)晃誠さんが生きてくる」(青山敏弘)
「ロペはキープもできるし、個人技もある。簡単に彼を使うところ、自分で行くところをハッキリとさせることも含め、近くでプレーすることを心がけた。良い距離感でできた」(柴崎晃誠)
特に千葉や青山の「シンプル」という言葉がキーワードだ。2列目の彼は、とにかくドリブルが好き。ボールを前に運び、DFをはがしてスペースを作り、最後はシュートで終わりたい。そういう意識が強過ぎてボールを失うシーンも少なくなかった。守備も必死で頑張るのだが、ボールを奪い返した後にボールロストしてしまい、逆にカウンターを食らうシーンも。だが、ゴール近くになると彼はむしろ、シンプルなプレーを選択する。G大阪戦でも、彼が前を向いてドリブルをしかけるシーンはほとんどなかった。簡単にボールをさばき、2列目の選手のクオリティーを発揮させた上で、最後は裏を狙う。自分でゴールを狙いに行くが、そこまでは簡単に周りを使うことでコンビネーションを作り出していた。
ロペス個人にしても「サイドハーフのときよりは守備に参加する時間も少なくなり、シンプルに攻撃に力を注ぐこともできる」と手ごたえを感じている。実際、G大阪戦は開始当初の時間帯を除いて広島が主導権を握り、特に2本目はビッグチャンスを次々に演出した。決めてはいない。だが、チャンスの数は明確に増幅していた。ヨンソン監督も試合後、「守備は堅くできたし、攻撃もクリエイティブだった。トレーニングでやってきたことを表現できていた」と一定の評価を下していた。
だが、G大阪戦でゴールしたのは柴崎であって、ロペス自身がこの形からゴールを決めたわけではない。「すべてのボールを自分につけてほしい」と自信を口にした44番は、一方で「この9番の位置でプレーするのであれば、何があっても決めないといけない」と責任も感じている。
誰が、決めるか。サッカーの原点であり、常に課題となるこのテーマに対する解決策が生まれれば、残留に向けて大きな一歩を踏み出すことができる。それがアンデルソン・ロペスなのか、パトリックなのか、それとも他の選手なのか。週末のヴィッセル神戸戦で、一つの答えが出る。