J論 by タグマ!

日常とその周縁。土屋P流、帰ってきたJ1リーグの楽しみ方

7月15日、W杯による中断期間に入っていたJ1リーグが再開された。まずはACL組同士による未消化試合2試合が実施され、週末からはJ1全クラブがリーグ戦へと再突入していく。週替わりのテーマについて複数の論者が意見を交わす『J論』では、この再開されるJ1リーグを大展望。それぞれの筆者が、自分の『イチ推しポイント』に焦点を絞って論を展開していく。四番目に登場するのは、テレビ業界の奇才・土屋雅史。独自の視点で日本サッカーとJリーグを観察し続ける”土屋P”に、後半戦の楽しみ方を語ってもらった。

▼いよいよ”日常”が戻って来た

 いよいよJ1リーグが我々の元へと帰ってきた。

 私は『J SPORTS』の中継で訪れた15日のエディオンスタジアム広島にてその再開を迎えることになったが、終了間際の2得点で横浜FMが逆転するという余りにも劇的な展開に改めて楽しい”日常”の帰還を実感させてもらうことができた。

 そんな余韻に浸りながら深夜にパソコンを開くと、某編集長から急な原稿依頼が届く。その余りにも劇的な展開からもまた、改めて忙しい”日常”が帰ってきたことを実感させてもらうことができた。せっかくの機会を戴いたので、ここは前回もご紹介した”公式”をベースに、J1後半戦の見所を皆さんと共有していきたいと思う。

 まずは前回(リンク)を知らない方もいらっしゃると思うので、”公式”の定義から説明したい。私は『J SPORTS』内にある『Jリーグブログ』というサイトで、以前からデータプレビューという企画を実施しており、J1、J2の各試合に潜んでいる人間関係を”公式”に当てはめている。例えば今週末のJ SPORTS LIVEカードでもある柏レイソルとベガルタ仙台の試合を例に挙げると、

(1)元チームメイト
鈴木大輔×石川直樹=新潟
レアンドロ×桜井繁+佐々木勇人=山形
(2)Jリーグ以前での元チームメイト
増嶋竜也×渡辺広大=市立船橋高校(増嶋が1年先輩)
(3)代表などでの元チームメイト
近藤直也×角田誠+鈴木規郎=03年ワールドユース日本代表のチームメイト

 といった具合に、その人間関係を”×”や”+”や”=”を用いた”公式”でご紹介するというものだ。この”公式”を参考に、試合前の整列時に親しく話している選手同士の関係性や、試合後に挨拶をかわす選手同士の関係性などを把握することで、皆さんがJリーグの試合を楽しむ1つの”スパイス”になれば。そんな思いから、ここ3年のJ1・J2全試合でこのデータプレビューをご紹介している。今回はJ1後半戦に浮かび上がる3つの”公式”にお付き合い頂く形で、話を進めていきたい。

▼”ガンバ・家長世代”に思う
○8月9日 J1第19節 大宮アルディージャ×ガンバ大阪@NACK5
家長昭博×東口順昭=ガンバ大阪ジュニアユース(同級生)

 紛れもない”家長世代”の同級生である。最終的に7人がJリーグの門を叩くことになる彼らの学年でも、ジュニアユース時代の王様は間違いなく家長昭博だった。ただ、7人の中からのちに3人がA代表で日の丸を付けることになるが、家長以外の2人はガンバ大阪ユースではなく、大阪府外にある高校のサッカー部へ進路を求めていたことは、日本における育成年代の多様性を証明している。

 その二人の内の一人は、もちろん今回のW杯にも出場した星稜高校出身の本田圭佑。もう一人が洛南高校出身の東口順昭である。昨シーズンの7月までG大阪でプレーしていた家長は、マジョルカへのレンタルバックを経て、大宮アルディージャへ完全移籍を果たした。一方、東口は今シーズンから古巣へ13年ぶりの帰還を果たしており、結果的に入れ違うような格好になったことも、何かの因縁を感じずにはいられない。

 さらに言うと、前述した7人の内、現在Jリーグで”プレー”しているのはこの二人だけなのだが、”ベンチ”に入っている同級生が1人いる。ここまで2位と好調をキープしているサガン鳥栖で、尹晶煥監督の片腕として躍進の一端を担っている金正訓通訳がその人。韓国代表として2003年のU-17W杯にも出場していた経歴を持つ彼との対戦も、二人にとっては正真正銘の”同級生対決”である。試合前や試合後に、ちょっとした交流が観られるかもしれない。

○10月18日 J1第28節 大宮アルディージャ×FC東京@NACK5
渡邉大剛×渡邉千真=国見&兄弟(大剛が2年先輩)

 Jリーグの20年を超える歴史の中でも、兄弟選手による対戦というのはたびたび行われてきた。古くは言わずと知れた泰年と知良の三浦兄弟(今では監督と選手としてやり合っている!!)や、幸一と哲二の柱谷兄弟(今でも監督同士としてやり合っている!!!)。彰弘と保仁の遠藤兄弟、幹夫と靖夫の真中兄弟、慶治と幸治郎の海本兄弟など、数々の血を分け合った二人が、どちらのチームを応援するかで両親や親族一同を悩ませてきた。

 現在のJリーグにおいて、リーグ戦で対戦する可能性のある兄弟プレイヤーは全部で4組。陸と力の松田兄弟、テジュンとテソンのファン兄弟、宏希と宏矢の風間兄弟、そして大剛と千真の渡邉兄弟である。学年の違う兄弟というのは、双子とはまた違った雰囲気があり、少し微妙な関係性にも映る。とりわけ大剛と千真は、国見高校でも同時期にサッカー部へ在籍した”先輩・後輩”でもあるから尚更だ。

 二人は既に何度も対戦しており、今シーズンの松田兄弟のように、よもやユニフォーム交換をするとは思えないが、どういう形で交流するかというのは親族ならずとも気になる所であるのは間違いない。ちなみに渡邉家の三男に当たる三城も、J3のY.S.C.C.横浜でレギュラーとして活躍していることは、忘れずに付け加えておきたい。

○11月22日 J1第32節 鹿島アントラーズ×川崎フロンターレ@カシマ
中田浩二+本山雅志+小笠原満男(+曽ヶ端準)×稲本潤一
=99年ワールドユース日本代表のチームメイト

 過去に日本代表が臨んだFIFAが主催する国際大会の中で、2001年のコンフェデ杯と並んで、いまだに最高順位となっている準優勝に輝いたのが、1999年ワールドユースを戦ったU-20日本代表だ。いわゆる”黄金世代”と呼ばれた彼らも、当時のメンバー18人にバックアップメンバーとしてナイジェリアまで帯同していたGK曽ヶ端準を加えた19人の内、現在もJ1でプレーしているのは上記の5人と播戸竜二、遠藤保仁の7人のみとなった。

 今年で35歳を迎える彼らは、大半が五輪代表を経てA代表まで辿り着いており、ある意味では日本で最も育成年代とのリンクを有機的に果たしていた世代でもある。彼らが持つ経験は日本サッカー界においても大きな財産であり、その経験から来る1つ1つの妙技を見るだけでも、スタジアムへ足を運ぶ価値があると私は思う。”アラフォー”に差し掛かったベテランたちの再会にも、ぜひ注目してほしい。

▼日常と、その周りにあるものを思って
 今回ご紹介した3つの”公式”は、あくまでも無数の関係性の上に成り立っているJリーグという氷山の”超一角”に過ぎない。新たな”公式”が突如として生まれる瞬間も、きっとここから12月の最終節までには待ち受けていることだろう。

 中学時代の同級生がぶつけ合う意地から、兄弟を取り巻く家族模様に、”アラフォー”世代の格闘まで。様々な関係性に想いを馳せながら、皆さんと一緒に全力で楽しむことのできるエキサイティングな日々が、後半戦のJ1リーグにも訪れることを願って止まない。


土屋 雅史(つちや・まさし)

1979年生まれ、群馬県出身。群馬県立高崎高校3年で全国高校総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。早稲田大学法学部卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。同社の看板番組「WORLD SOCCER NEWS 『Foot!』」のスタッフを経て、現在はJリーグ中継プロデューサーを務める。近著に『メッシはマラドーナを超えられるか』(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。