J論 by タグマ!

強いジェフが序盤戦の首位に立つ。今季こそJ1へ帰って行けるのか?

西部謙司が語るのは、当然ながら首位・ジェフ千葉。なんだか強い気もする今年の千葉をあらためて分析した。

予算規模の大きなクラブがひしめく2015シーズンのJ2リーグ。そこに殴り込みをかけるツエーゲン金沢の存在もあり、早くも白熱してきた。J2全42節の内7節までを消化したところで、この戦国リーグにフォーカス。序盤戦を振り返りつつ、今後についても占ってみたい。西部謙司が語るのは、当然ながら首位・ジェフ千葉。なんだか強い気もする今年の千葉をあらためて分析した。

▼パウリーニョが強い
 関塚隆監督の下、ロンドン五輪のスタッフが集結した今年のキャンプは守備の整備から始まった。ジェフ千葉としては珍しい。J2降格以来、攻撃力で相手をねじ伏せることばかり考えていたからだ。

 守備力の向上と接戦を制する勝負強さが好調の要因だ。

 ただし、戦術を整理しただけで守備力は上がらない。中盤でボールを奪えるパウリーニョの加入が大きかった。相手がボールを見た瞬間に一気に間合いを詰め、鋭くタックルして奪う、パウリーニョのような守備の技術を持った選手はジェフにはいなかった。現在はパウリーニョを中心に攻守の戦術が成立しているといっていい。例えば、森本貴幸の献身的なチェーシングでパスコースを限定しても、中盤の奪いどころで奪えなければ空回りになってしまう。

 正確なパス、的確コーチングの数々(日本語!)、パワフルなシュート……。ここ数年探し求めていた本格的ボランチの加入がチームを変えた。

▼センターバックが強い
 守備の重鎮だった山口智が退団(京都へ移籍)、穴を埋めるべく即戦力の補強も狙ったが上手くいかなかった。開幕当初について言えば、センターバックは不安材料だった。ところが、キム・ヒョヌンと大岩一貴のコンビはここまで非常によく守れている。

 二人ともはね返す能力が高い。J2はロングボール+セカンドボールで攻撃を仕掛けてくるチームが多いのだが、キムと大岩は空中戦に強く、単純にヘディングではね返せる距離も長いので、相手にとって都合のいい位置でセカンドボールを拾わせていない。

 課題はビルドアップだった。韓国でのキムの評価はテクニカルなセンターバックだったそうだが、千葉加入時はボールを持ったときこそ弱点で、実に危なっかしかったものだ。しかし、黙々と基礎練習を重ねてきた成果が出てきている。ビックリするようなミスはなくなった。大岩も山口智ばりのロングサイドチェンジを披露するようになっている。弱点が目立たなくなり、元来の”壁特性”が十分に発揮されている。

▼接戦に強い
 今年のジェフは「強いフリ」をしなくなった。降格以来、J1昇格後のことも考えて、しっかりパスをつなげるチームを目指してきたのだが、それ自体がJ2を戦ううえでのハンデになってしまった感がある。

 予算の限られているJ2の多くのチームは、まず守備を固めてカウンターを狙う戦術をベースにしている。J2では恵まれた戦力といわれる千葉の攻撃陣だったが、サッカーでは往々にして守備の組織は攻撃の組織に優るのだ。むしろ相手にとって、千葉は少なくても戦いにくいチームではなかったと思う。

 理想を追うより、まず目の前の現実。その姿勢がいまのところ好調につながっている。ただ、好調といっても圧勝した試合はない。常に接戦といっていい。その接戦の状態を大事に戦えるようになった。1点ずつしか入らないサッカーにおいて、大半は同点か1点差の状況だ。先制したら、失点しない程度に攻めて2点目を狙う。そうした試合運びが身についてきた。千葉に引かれてしまうと多くの相手が攻め手を失うのもJ2の現状である。

▼左サイドが強い
 谷澤達也と中村太亮の左サイドのコンビは昨季からのストロングポイントだ。左サイドハーフの谷澤がキープしてタメを作り、左サイドバック中村のオーバーラップからのクロスボール、これが主な得点源である。

 スピードがあって真横に回転して沈む中村のクロスの質は、ゴール前に詰める森本、ネイツ・ペチュニクにとって実にオイシイ。クロスが入ってくる以前にタメを作っているので、ゴール前に人数を揃えられるのも利点だ。

 左攻めはジェフの武器である半面、守備時の弱点にもなる。対戦相手は中村のところに強力なアタッカーをぶつけてくるようになってきた。そのときは、谷澤のポジションに本来右サイドの田中佑昌を投入して守備を強化。田中は2試合連続アシストを記録するなど攻撃面でも貢献し、関塚監督の采配が当たっている。

▼昇格の可能性は高い
 まだ始まったばかり。現在の順位は関係ない。とはいえ、昇格の可能性はかなり高いとみている。

 プレーオフが導入されてから、千葉は毎年そこに参戦するところまでは行けている。明らかに出来が良くないシーズンでも参戦できているから、このままの状態を維持できるなら間違いなくプレーオフには出られる。昨季まではプレーオフで勝ち切れる力がなかった。ボール支配力はあるので見た目は優勢なプレーができるのだが、カウンター狙いの相手を圧倒するほどの力はなかったからだ。一発勝負となれば守備の集中力は尋常ではない。相手の必死さが違う。それを崩せるほどの力が不足していた。

 今年の特徴はむしろ接戦での強さである。隙のない守備、カウンター、セットプレーを駆使して接戦をモノにできるようになりつつある。”プレーオフに強い体質”に変わっているわけだ。

 懸念されるのは主力の負傷欠場。とくにパウリーニョが長期欠場にでもなれば、戦術的にも根本的な見直しが必要になるかもしれない。トップ下の選手ばかり集めていた昨季より選手のバランスは良くなったとはいえ、センターバックなど層の薄いポジションもある。

 昨季J2で3位だった。J1から数えれば21位である。昨年までは昇格後に一気にACL圏内を狙うような、いわば強者のサッカーを志向していた。今年はずっと謙虚に、昇格しても待っているであろう厳しい戦いに耐えうるようなサッカーを目指している。それがJ2にも合っているというのが、いまのところの状況ではないだろうか。

西部謙司(にしべけんじ)

1962年9月27日、東京都生まれ。「戦術リストランテⅢ」(ソル・メディア)、
「サッカーで大事なことは、すべてゲームの中にある2」(出版芸術社)が発売中。ジェフユナイテッド千葉のマッチレポートや選手インタビューを中心としたWEBマガジン「犬の生活」を展開中。http://www.targma.jp/nishibemag/