「インスタント」から「コンスタント」へ。大宮が探る脱皮への道
今季からJ2を戦う大宮アルディージャ。序盤戦のつまずきを含め、片村光博が現状を語る。
▼「期待外れ」の序盤戦
7試合を終えて、大宮アルディージャの成績は3勝2分2敗の9位。昨季までJ1の舞台で10年間を過ごし、予算的にもJ2トップクラスのチームが出遅れたのだから、「期待外れ」と言われても仕方ない。
ここで「危機的状況だ」と煽り立てるのは簡単だが、リーグ戦の6分の1を終えた段階でなされるべきは感情的な批判ではあるまい。チームの取り組みと進捗を精査し、冷静な評価を下すべきだ。
大宮は決して無為に7試合を消化してきたわけではない。
▼カルリーニョスの適応
「インスタントではなくコンスタント」
開幕前のキャンプから渋谷洋樹監督が掲げる今季のコンセプトだ。昨季は監督就任後の6試合こそ5勝1敗と”インスタント”な処置によって駆け抜けたものの、その後の5試合は1分4敗。明らかに”コンスタント”ではなかった。42試合の長丁場で優勝を狙うのならば、しっかりと地力をつけて戦い抜くという判断は妥当と言える。
では、現在のチームのどこに”コンスタント”の萌芽があるのか。答えはここまでの歩みを丹念に追うことで見えてくる。
一つの好例が、高精度の左足という絶対的な武器を持ちながらポジショニングに難があったボランチのカルリーニョスを守備戦術に順化させたことだ。
ボール中心のゾーンディフェンスは昨季から変わりないが、今季の大宮はボールに対してより厳しくプレッシャーを掛けることをテーマとして意識の部分から再構築を図っている。王国産クラッキは「われわれの指揮官を信じて、求められていることをピッチで表現したい」と語るように、相手の動きに引っ張られてポジションを空ける”悪癖”が今季から影を潜め、元より持っていたフィジカルコンタクトの強さを生かし、テーマである”ボールへの厳しいプレッシャー”を体現。守備組織のレベルアップに一役買い、金澤慎や横山知伸のようなバランサーのパートナー役として完成度を高めつつある。
昨季はカルリーニョスの適応を待つだけの時間がなく、出場機会も徐々に減っていった。鈴木淳氏、ズデンコ・ベルデニック氏という歴代の指揮官も、最終的にカルリーニョスのボランチ起用をあきらめている。しかし今季は欠点のある武器を「使いにくい」と切り捨てるのではなく、より使い勝手の良い武器に鍛え上げた。まさに”コンスタント”に力を発揮するための取り組みと言える。
▼再現性ある攻撃を求めて
そして、攻撃組織にも”コンスタント”の芽は生まれている。
現在の大宮は「再現性のある攻撃」(渋谷監督)を繰り出すことを理想として掲げ、「攻撃時のポジショニング」を土台に組織構築を進めている。第4節・コンサドーレ札幌戦(1△1)では、1.5列目の富山貴光と右サイドハーフの横谷繁が相手DFとMFのライン間でクサビを受けて起点を作り、高い位置を取った右サイドバックの渡部大輔、左サイドハーフの泉澤仁を使いながら迫力ある攻撃を実現。「意図的に崩そうとしたところはかなりの回数で崩せた」(金澤)という手ごたえも得た。
攻撃時のポジショニングには、「相手を見た上での工夫」という側面もある。相手の守り方、陣形によってポジショニングを事細かに修正し、意図する形=再現性のある攻撃に持ち込む。相手の守備はハイプレッシャーなのか撤退戦なのか、中央に追い込むのかサイドに追い込むのか。試合ごとに対応し、最も効果的なポジショニングで攻撃を繰り出すことが理想になる。
だからこそ、多様な相手との対戦を重ねることで得る蓄積が重要だ。前述の札幌戦や第5節・ファジアーノ岡山戦(0△0)のように勝ち切れなかった試合、相手のハイプレッシャーに屈した第7節・千葉戦(0●2)なども、攻撃組織を進化させるための貴重な糧になるということ。うまくいかなければ「なぜ」を見つけ出し、「なぜ」に対する自問自答を繰り返しながら対応力を上げていく。
幸い、開幕戦で負傷したムルジャと家長昭博の2枚看板はすでに戦列復帰を果たしている。彼らがいることで攻撃の選択肢が広がるのは確かで、さまざまな事態への対応力は自然と上がる。依存するのではなく、効果的に組織に組み込みたいところだ。
▼インスタントスタイルからの脱却を
総じて言えるのは、ここまでの7試合でチームの目指す形が明確に見えてきたということ。基盤となる守備が整備され、攻撃も進むべき方向は示されている。
もちろん、現在の成績が示すように”コンスタント”の芽を開花させるための戦いは容易ではないが、何事にも生みの苦しみはともなうもの。苦しみの先にある可能性に懸ける理由が、大宮にはある。
振り返れば、大宮は昨季まで過ごしたJ1で”コンスタント”なチーム作りに失敗してきた歴史がある。結果として毎年のように残留争いに巻き込まれ、昨季はついにJ2降格を味わうことになった。
J2からの再出発となった今季。”コンスタント”の実現こそ、大宮というクラブに課せられた最重要課題だ。
片村 光博(かたむら・みつひろ)
1989年1月26日生まれ。東京出身、東京育ち(途中、豪州キャンベラで5年半)。2002年の日韓ワールドカップを機にサッカーにのめり込み、約10年後の2012年、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』のインターンとしてサッカー業界に身を投じる。編集手伝いから始まり、2013年には栃木SC担当で記者として本格的にスタート。2014年は大宮アルディージャとジェフユナイテッド千葉の担当を兼任し、2015年からは大宮に専念している。効率的で規律のあるサッカーが大好物。