そうそうたる顔ぶれの”ボトムズ3″。一体全体、何が起きているのか?
まずは思わぬ低迷となったクラブを含む下位チームについて、ひぐらしひなつが総括する。
▼まだ7節、されど7節
戦々恐々としながら迎えた開幕から早くも7節が過ぎた今季J2。全22チームの並ぶ順位表のところどころに、思わず二度見してしまうような箇所がある。
上位が妥当と見なされる戦力が揃う千葉と磐田が現在のワンツー。3位の長崎は昨季の第7節終了時も2位につける順調なスタートを切っており、この勢いを持続することが今季の課題になる。特筆すべきは4位・金沢。昨季J3最少失点のチームはカテゴリをひとつ上げてもブレないスタイルで現在4連勝、しかも第7節ではタレント居並ぶC大阪に17本のシュートを浴びながら無失点に抑え、この強豪に今季初の苦杯を舐めさせた。
開幕前の順位予想に反して苦戦しているチームも見られる。骨太かつ堅実なサッカーで優勝候補のひとつと目される大宮が現在9位。敗れた相手はC大阪と千葉で、優勝や昇格を争うライバルとの直接対決は制しておきたかったところだ。ナザリトや都倉賢ら強靭なストライカーを擁する札幌は、意外にロースコアが多く、まだ12位に沈んでいる。
まさかと思わせるのが、20位・徳島、21位・大分、22位・岐阜の3チーム。徳島は1年でのJ1復帰を誓い、大分は昨季7位の雪辱を期してJ2優勝を目標に掲げた。岐阜も10位以内を目指し、チームの改革に取り組んだはずだ。彼らはいま何故この位置にいるのか。
まだ7節、されど7節。現在首位・千葉と最下位・岐阜との勝ち点差は『14』にまで開いている。目標達成へ向け一刻も早く軌道修正したい。
▼上位陣とほぼ対戦なしで沈む徳島
まずは徳島。昨季J1降格決定後すぐに続投が発表された知将・小林伸二監督の4季目は、G大阪に完全移籍していた佐藤晃大の4年ぶりの復帰をはじめ、08年に小林監督とともに山形をJ1昇格へと導いた長谷川悠と石井秀典ら11人の新戦力を獲得してスタートした。J2降格したことで高崎寛之(鹿島)やアドリアーノ(甲府)といった主力は抜けたが、バランス良く、全ポジションで層に厚みを持たせた戦力補強をほどこした印象だった。
特に複数ポジションをこなす木村祐志は、第6節・岡山戦でもシステム変更に柔軟に対応し、後半からはトップ下で起点となって相手を押し込んだ。セットプレーのキッカーとしても活躍し、第3節・岐阜戦では自ら得点も挙げている。
気になるのは、ここまでいわゆる”強豪”と呼ばれるチームとの対戦がないにもかかわらず、まるで勝ち点を伸ばせていない点だ。
第5節・熊本戦では26分と30分に立て続けに得点し2点のリードを奪いながら、前半アディショナルタイムと後半立ち上がりに失点し、引き分けた。第6節・岡山戦でも17分に先制したが、35分に追いつかれ、41分に逆転を許している。
百戦錬磨の指揮官の引き出しの豊富さにも関わらず踏ん張りきれないのは、その指示に応え得るだけの戦術浸透がまだ十分には為されていないのだろうか。むしろバランス良く見えた補強が裏目に出ているのだとしたら、小林監督の狙いが自在に機能するようになるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。
▼5年目・田坂監督の下での波乱
こちらも予想外の順位に焦りを隠せない大分。就任5季目となった田坂和昭監督の取り組みが、現時点でまだ実を結ばずにいる。
昨季終盤には[4-1-4-1]システムで組織としての完成形を見せたが、その戦術の主軸を中心に戦力が大幅に入れ替わり、積み上げた経験値をリセットしての今季となった。徳島と同様、バランス良く全体に層を厚くした印象だったが、新戦力のタイプを細かく見ていくと、ビジョンの見えづらい補強であるようにも思える。
さらに3節終了後にC大阪からFW永井龍を夏までの期限付きで獲得し、今季新加入のムリロ・アルメイダを長野にレンタルすると同時に、新加入当初からヴェルスパ大分に貸し出していたフェリペを呼び戻し、U-18から昇格させたばかりの佐藤昂洋と姫野宥弥を夏までヴェルスパにレンタルするなど、シーズン開幕後に見せた戦力の出し入れにも、ドタバタ感は否めなかった。
ゼロからのスタートとなったことを鑑み、他クラブより早く始動して戦術浸透に時間を割いていたが、厳しい今季J2での戦いを見据えた田坂監督のプランが、まだ成果を上げるには至っていない。新戦力の戦術理解が予想以上に時間を要するなかで複数オプションを準備したことも、方向性は間違っていないながらチームの輪郭をあやふやにしているようだ。
即戦力として獲得した永井が2度にわたって微妙な判定でゴールを取り消されているという不運もありつつ、得点力不足が守備の足を引っ張っている。狙いどおりの好機は作れているだけに修正しづらいところだが、思い切って戦術やメンバーを変更することも一考の余地ありかもしれない。
▼沈黙するラモス岐阜
昨季61失点を喫したことから守備陣を強化して臨むも、組織が定まらず不安定な戦いを続けているのが岐阜。最終ラインはよく体を張っているが、起用されるメンバーによって前線や中盤でのプレスのかかり具合がまちまちで、第5節・大分戦のように前半だけで5失点を喫したり、第7節・東京V戦のように3点リードしておきながら84分から続けざまに4失点して逆転負けしたりと、ジェットコースターのような展開に選手たちが振り回されているように見受けられる。
ボランチの位置でボールの刈り取り役として機能しているヘニキだが、かなり自由に動き回るので、バランスを取れる相方が必要になる。ラモス瑠偉監督は後方からビルドアップするスタイルを確立したいようだが、それならばなおさら、中盤に安定したゲームメーカーを置きたいところだ。ここ何節かは高地系治がそれを務めているが、ヘニキも高地も一列前で使ったほうが怖さも増すように思える。
そのような嵐のなかで、いかなるときも勝利への意欲をあらわに、最前線で仲間たちを牽引し続けているのが32歳のFW難波宏明だ。献身的に走り回ってプレッシャーをかけ、スキあらば敵の背後を突き、クロスへと飛び込んで得点を狙う。難波はつねに難波としてここにいるという信頼感が、岐阜の最も大きな希望のひとつであることは間違いない。
失点の多さを改善するためにも、今一度、組織的守備の構築が必要だ。最終ラインの問題ではない。前線から連動する意識付けを、早急に求めたい。
▼心折れずに奮起できるか否か
いまは下位に沈む3者だが、浮上のきっかけさえつかめばまだ十分に挽回できる時期だし、それを成し遂げるだけの戦力も揃っている。そもそもサッカーというスポーツで真の強さを求めるならば、組織構築にはそれなりの時間を要するもの。積み上げのないチームが苦戦するのは当然だ。ただ、その間にも泥臭く勝ち点を拾っていかなくては、このJ2の荒波を乗り切ることはできない。
重要なのは、この段階での戦績に心折れずに戦い続けることだ。
人生波瀾万丈、リーグもまた然り。この順位がシーズン終盤にはどんな様相を呈しているか、プレーオフ決勝で歓喜の涙にむせぶのはどのチームか。いま上位にいるチームが失速しないとも限らない。
戦国J2は、まだ6分の1を終えたばかりだ。
ひぐらし ひなつ
大分県中津市生まれ。福岡や東京で広告代理店制作部に勤務し、いつしか寄る辺ない物書きに。07年より大分トリニータの番記者となり、オフィシャル誌『Winning Goal』などに執筆。12年シーズンよりサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』大分担当も務める。戦術論から小ネタまでの守備範囲の広さで、いろいろとダメな部分をカバー。著書『大分から世界へ~大分トリニータ・ユースの挑戦』(出版芸術社)。