“史上最大”の日本代表は誇り高く狡猾な”弱者のサッカー”を志向するのか?
▼平均身長181.8cmの先発布陣
ウルグアイ戦のスタメン発表を見て、頭に「ハテナ」の湧いたサッカーファンは少なくなかったはずだ。日本サッカー協会のポジション登録によれば、DFが5名(長友佑都、森重真人、坂井達弥、酒井宏樹、吉田麻也)、MFが2名(細貝萌、田中順也)、FWが3名(本田圭佑、岡崎慎司、皆川佑介)という構成になる。アギーレ監督は事前に[4-3-3]の採用を公言していたが、この面子だとCBタイプが3名もいる。
いざ試合が始まると、森重真人がCBでなくアンカーに入っていた。ピッチ上の11名を見ると、170cm台の選手は長友佑都、細貝萌、岡崎慎司の3名だけ。スタメンの平均身長が181.8cmという”史上最大”の日本代表である。
▼ごく真っ当な「0-2」
そんなメンバーを並べた日本の試合運びは、とにかく慎重だった。両SBの位置取りが低く、本田圭佑はFWながら最終ラインのカバーへしばしば下がってくる。前から奪うよりしっかり戻る、穴を空けないことを重視した方向性が見て取れた。
ハビエル・アギーレ監督は、前からボールを刈るというより、最終局面での強さを生かした守備を志向しているのだろう。「大型選手がいないから別の守り方を模索しよう」ではなく、「大型選手を探そう」というところから始まっているのが、今回の選手選考だ。凡ミスから2失点を喫したし、リードを奪っていたウルグアイが無理をしなかったことも事実だが、”崩された”場面はほぼなかった。
一方で、多少なりともアギーレ色が見えた守備と違い、攻撃面はあまりポジティブな兆候が見えなかった。強いていうなら球離れの良さとバックパスの多さ。ピッチの”幅”を使う意識も強く、クロスの本数もザッケローニ監督時代よりは明らかに増えていた。
しかしボールを大事にしようという意識が裏目に出て、34分の失点は生まれた。酒井宏樹のバックパスから坂井達弥のコントロールミスが生まれ、それをエリア内で相手に奪われたという形である。
選手同士の距離感、パス回しのテンポといったポゼションの質はまだ「お粗末」と言わざるを得ない。ボールを足元に付けて、ブロックの外でじっくり動かすのはメキシコ流のスタイルなので、そこは予想通りだった。ただ、どう崩すかという部分には手を付けられていない。例えばSBがボランチの脇に入るなり、CBが外に開いてSBを押し上げるなり、中盤の枚数を増やす工夫は必須だろう。そしてそういう流動性、連係は4、5日で身につくはずもない。
もちろん前半17分には岡崎の左クロスから皆川佑介が惜しいヘッドを合わせたし、後半43分には武藤嘉紀の左ミドルがポストを叩いている。崩し切れない中でもそういうチャンスを演出できたことは、ポジティブに捉えていい。特に皆川は後半早々に交代してしまったが、ボールキープ、ゴール前に飛び込む動きと持ち味を出していたと思う。
さらに言えば、ウルグアイはW杯ブラジル大会でベスト16入りした主力を、そのまま残したメンバー構成だった。彼らが皆川、坂井と初キャップの選手を二人も先発させた日本を連係面で上回っていたのは必然だ。0-2というスコアは、両チームの現在地を考えれば、ごく真っ当なモノだろう。
▼”弱者”という立ち位置から
確かにカタルシスのない、ストレスフルな90分だった。大胆な攻めに出て返り討ちに合う展開ならともかく、慎重な試合運びで自滅的に失点するという展開はどう考えても”楽しくない”。一方であの”謙虚さ”は、ザックジャパンが欠いていたものだった。粘り強く、タフに戦うという部分は、日本が世界で結果を出すためには不可欠な部分だろう。
あらためて思ったのは、アギーレ監督のスタイルは”弱者のサッカー”なのではないかということだ。
決して低レベル、消極的という意味ではない。W杯でコスタリカが見せたような、南米予選でウルグアイが見せるような、”誇り高く狡猾な弱者のサッカー”という意味である。相手にボールは持たれるし、奪う位置は低くなる。しかしそれを”臆病”とネガティブに受け止めてしまうのは違う。むしろ自分の足りなさを受け止める勇気を欠いていたのが、ブラジル大会の日本代表だった。”弱者のサッカー”という表現は使ったが、それはアグレッシブさを発揮する場所やプレーが違うということ。日本がドイツやアルゼンチンに勝とうとするなら、それは必ず必要になる発想だろう。
今の日本では馴染みのないスタイルかもしれないし、導入には間違いなく大きな摩擦が起こるだろう。新指揮官のトライが最終的に成功するという保証もない。しかし日本サッカーが経験値を高め、前進するために必要な要素を、アギーレ監督が志向する”弱者のサッカー”は含んでいるのではないか。
大島和人
出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。ヴァンフォーレ甲府、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。