J論 by タグマ!

「守備的」キャッチコピーに要注意! その真相を川島、吉田、岡崎の証言から読み解く

どうやら「守備的」と解釈されつつあるアギーレ・スタイルだが、その実態はどこにあるのか? この問題を考えることは、攻守を分けて考えることのできないサッカーの本質に迫ることでもある。

9月5日、アギーレ監督率いる新生日本代表がその初陣を迎えた。「4年後」を意識させるメンバー構成の中、日本はウルグアイに0-2で敗れた。この「最初の90分」で見えてきたもの、あるいは見えてこなかったものとは何なのか。第4回目となる今回は、七色の蹴球文化論・吉崎エイジーニョが再び注意を喚起する。どうやら「守備的」と解釈されつつあるアギーレ・スタイルだが、その実態はどこにあるのか? この問題を考えることは、攻守を分けて考えることのできないサッカーの本質に迫ることでもある。

▼とりあえず、言っておきたいこと
 まだ1試合でしょ? or 本心を言えば、代表を観るのは少し休みたい……そういったところから、いま新生日本代表について暑苦しく語ることにどれほどの必要性があるのか定かではありません。

 しかし、現時点で一つだけ、このチームを見る観点として重要なご提案を。

 たった一つ、重要なボタンの掛け違いの心配についてです。

 アギーレのチームについてもはや常識として浸透しつつあるキーワード、「守備的」。5日のウルグアイ戦では、本来CBの森重真人がアンカーに起用され、さらに1列前にはボランチの細貝萌が起用された。当日販売された試合の公式パンフレット(JFAがチェック済みの文章)にもはっきりと「守備的」という表現が記された。ましてや彼がスペインリーグで率いたチームの戦い方を見ても「守備的」というのは明らか……。

 しかしこの「守備的」という内容について、少しだけ考えてみる必要がある!

 先日、SNSを通じてとあるサッカーファンの貴重なブログの存在を知った。そこには数年間スペイン語圏に(スペイン、メキシコ、アルゼンチン)に留学し、JFAのC級コーチライセンスを保有される方のある訳が紹介されていた。8月11日のアギーレの監督就任会見での言葉だ。なんと「守備を固めて勝利を目指す」とは語っていないという。

 会見で「とにかく守備に力を入れる」と訳された言葉がじつは「全員ができるだけ素早くボールを奪い返す良い守備をする」という内容だったという。

 自分自身も他の言語で通訳をするから、「しっかりと言葉を起こし直すと、ニュアンスが変化する」という事はどうしても起きてしまう。あの日現場で通訳をされた方は、サッカー用語の熟知よりも、公の場で瞬時に分かりやすい日本語で訳するところにストロングポイントがあった。その点はしっかりとリスペクトすべき。

 その一方で「守備的」というキーワードに対し、弾力性のある理解が必要だということが明らかになった! こちらも素晴らしい指摘です。なぜなら、「チーム全体的が守備的になる」ということと、「個々人の選手に守備意識を求める」ということはニュアンスが違うからだ。

 後者はややもすれば 「攻撃的」という意味にすらなる!

▼ズバリ、聞いてみた
 就任時からのキーワードの解釈の違いは、悪い事態を引き起こしかねない。

 ちょうど4年前、ザッケローニ前監督はその就任会見で 「バランス」と言っているのに途中からまるで伝言ゲームのように「攻撃的」というキーワードにすり替わってしまった。  現時点で分かったから良かった。そのへん、選手はどう思ってる? 果たして一般的に想像されるような「守備的」なやりかたを目指しているのか。

 9月5日、札幌ドームに出向いてずばり聞いてきました。試合は少なくとも日本が「攻撃的」には見えない試合展開だった。そりゃそうだ。それは相手との力関係もあって決まるもの。0-2の敗戦後、海外組にターゲットを絞って話を聞いた。「日本では恐らくヨーロッパに暮らす選手が想像する以上に”守備的”と思われています」と話を切り出しながら……。

GK川島永嗣
「2日間しか試合に向けての準備期間がないなか、実際のところ、最初に練習したのは攻撃に関することでした」
――ブラジルW杯のときには「バランス」を志向したチームのはずが、いつの間にか「攻撃的」ということになっていった。
「たしかにW杯では自分たち(チーム内)もそこにとらわれ過ぎていたところがあった。攻撃をするからといって守備をないがしろにするということではない。逆もしかり。W杯でもそうだし、今回のウルグアイもそう。高いレベルの相手との戦いから、その経験を生かしていかないと」
――チーム全体が守備的に戦うということと、個人戦術で高い守備意識を要求されるということ、二つは違う意味でしょう?
「そうですね。違う意味です」

DF吉田麻也
「まだ1試合です。守備的か、攻撃的かという判断を下すのは早い。今日の試合に関して言えば、世界レベルの選手がいて、しかもW杯前から成熟した相手との対戦だった。失点に関しては、個人のミスも絡んだ。そういう点からも、チームとして守備的かどうかという判断を下すのには少し早いでしょう」

FW岡崎慎司
他の記者の質問に対して。
「試合開始時には高い位置からプレッシャーをかけていこうという話になったが、開始後5分ほど試合の様子を見て、監督が判断し、それほどは行かないという指示に変わった」

 岡崎に対しては、多くの記者が囲む中でミックスゾーンの去り際に一つだけ質問することができた。個人の守備意識、という話を切り出したところ……

「『守備でぶつかりに行くところで、やられるなよ』とは言われました!」

 かく言う岡崎は、前半38分にFWの位置からかなり自陣に戻って相手に猛烈なタックルを仕掛けていたが、選手もまだまだ手探りというところ。まあ1試合、2試合で「チームの戦術がどうか」と血眼になっても仕方ない。

▼真の見所は「ボール奪取」にあり
 だとしたら、次のベネズエラ戦では何を見るべきか。

 先日のウルグアイ戦と比べて、多少は「攻撃的」になると予想される。その場合、攻撃はどこから始まっているか。つまりどこのポイントでボールを奪っているか。そこで選手個々人の守備意識をうかがい知ることができる。

 このポイントこそが、現状での最大の見所です!

 まずはチームを大枠でぼんやりと捉えるところから始めるのはどうでしょう。選手個々人の能力に関しても、これまで攻撃的な選手に関してはあまりスポットライトを浴びてこなかった「ボール奪取力」が見所です。それが「守備的」という意味だったりして。いやいや、攻撃的な選手も高い守備意識を持つことは実は攻撃的だったりするわけで。

 少なくとも「攻撃的」「守備的」と一元的な理解をしてしまった結果、前回大会と同じ轍は踏むまい。もちろん『J論』の読者諸兄には釈迦に説法でしょうが……。だったらW杯を通じて新たなサッカーファンになった周囲の方にぜひこの点をお伝えいただきたい! このサイトの、この原稿くんだりにアクセスいただいている時点で、すでにサッカーファンのなかのリーダーなのですから。


吉崎エイジーニョ

日韓欧。洋の東西との比較で見える「日本って何だ?」を描く。74年生まれ、北九州市出身。大阪外大(現阪大外国語学部)朝鮮語科卒。05年にドイツ在住歴あり。 近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書/2014年5月16日発売)、翻訳書に「ホン・ミョンボ」(実業団之日本社)などがある。 韓国ガールズグループ「RAINBOW」の熱烈ファン。本名は吉崎英治です。