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脱・一本調子へ”つかみ”はOK。アギーレ・ジャパンは千変万化のチームを目指せるか?

情熱の分析家・河治良幸が戦術面から初戦を紐解く。[4-3-3]から[4-4-2]への変更にアギーレ監督が込めたメッセージとは何だったのだろうか?

9月5日、アギーレ監督率いる新生日本代表がその初陣を迎えた。「4年後」を意識させるメンバー構成の中、日本はウルグアイに0-2で敗れた。この「最初の90分」で見えてきたもの、あるいは見えてこなかったものとは何なのか。第2回目となる今回は、情熱の分析家・河治良幸が戦術面から初戦を紐解く。[4-3-3]から[4-4-2]への変更にアギーレ監督が込めたメッセージとは何だったのだろうか?

<写真>試合中にフォーメーション変更を指示するアギーレ監督

▼唐突な布陣変更の真意
 後半23分ごろ、交代で左に入っていた武藤嘉紀が右に回り、本田と岡崎が前線に並んだ。左のインサイドにいた田中はさらにワイドのポジションを取り、細貝が森重とダブル・ボランチを形成した。[4-3-3]から[4-4-2]への布陣変更だ。

「相手にリードされている状況で、本田を守備に回すのを少なくするためのシステム変更だった。彼をより前で、よりフリーでプレーさせるという意図があった」とアギーレ監督はそう振り返る。その直後にミスが出て失点したが、引いた相手に対して攻撃に人数をかけ、ポイントを高くするという狙いは理解できた。

[4-3-3]は攻撃時にCBの間にアンカーが入ることでビルドアップの起点を確保し、守備ではバイタルエリアに縦のボールを入れさせないメリットがある一方で、全体の重心が後ろに下がる傾向がある。アギーレ監督はポゼッションを意識したシステムとして考えているはずだが、[4-4-2]はより効率よくサイドを突き、最後は2トップをシンプルに活かすという速攻志向の強いシステムとなる。

 もちろんシステムは対戦相手とのかみ合わせで意味も効果も違ってくるが、この試合に関してはウルグアイのプレッシャーが強く、攻守のバランスが重視されるノーマルの時間帯は[4-3-3]、ウルグアイが引き気味になり、しかもリードされているスクランブルの時間帯は[4-4-2]にシフトしたということになる。

 フレキシブルな戦い方という方向性は就任会見でも語っていたが、「今日の試合で初めてやりました」と細貝。終盤に出た森岡も「練習では1回もやってないです」と語るように、選手にとっては予期しない変更だった。練習でやらなかったのは単に時間がなかったのか、選手の対応力を観るためにわざとやったのか。あるいはその両方だったのかもしれない。

 スタートの[4-3-3]にしても、アンカーがビルドアップ時にCBの間に入ることなど基本的な動きは指示されていたものの、どの位置からプレッシャーをかけるかなど、ディテールは選手に任されていたようだ。現時点で伝えるべきことと、選手たちで判断させることをハッキリ線引きしていたのだろう。

▼相手ありきのサッカーへ
 ザッケローニ前監督は初戦でアルゼンチンに1-0と勝利したが、”4年間でのベストゲーム”と評する記者もいるほど、いきなり組織的に整理された戦い方でアルゼンチンの個を封じた。それと比較すれば、アギーレ監督は最初から多くの情報を与えない中で、選手がどれだけやれるのか、どこで判断を迷うのかなどのチェックに重きを置いたように見える。

 同時に選手たちにも、新しい日本代表が一つのシステムや戦術を極めていくチームではないことを意識させる狙いもあったのではないか。それは[4-3-3]から[4-4-2]にシフトするという分かりやすい変更によって明確に表されたが、実はもう一つ、アギーレ監督のコンセプトを表す現象があった。それはポゼッションの考え方だ。

 アギーレ監督がアンカーを置く[4-3-3]をベースに置く理由の一つとして、このシステムがポゼッションを狙いやすい布陣であることは想像に難くない。ただ、ポゼッション=ボール支配率を高めることではなく、ボールを奪った時にしっかり保持し、チャンスの起点につなげていくことだ。言い換えれば、そこで保持できないのに無理につなぐ必要はない。

「相手チームのプレッシャーがかかっている状況で余計なプレーをしてはいけない。皆川佑介が前にいるので、プレッシャーのかかっている状況ではそこに入れるようにした。毎回、同じプレーすると相手に読まれることもある」

 前線にボールを当てるシーンが目立った理由について、アギーレ監督はこう説明した。要するにポゼッションかカウンターか、遅攻か速攻かの二者択一ではなく、相手の守備や状況を考えながら決断していく。そういうチームを目指したいということだろう。

▼”つかみ”はあった
 ここから本格的に強化していくにあたり、[4-3-3]のディテールや[4-4-2]の意図に関しても、より明確な形で選手に伝えていくのだろう。「カメレオンのように戦いたい」と公言しながら、システムも戦術も固定的になった前任者よりコンセプトは明確だ。

 そして、アギーレ監督が初戦から明確に示そうとしたのは形ではない。勝負への心構えだ。

 最終的に真剣勝負の場でウルグアイのような強豪と”90分の勝負”をしていけるチームになるのかどうか。それは監督の指導力に加え、選手の成長にもかかってくるだろう。そのためのポジティブな材料をこの試合から見出すなら、選手が対戦相手を意識し、「90分の中でどう戦うか」を考えようとしていることだ。

「1-0や0-0で戦い方も違うと思うし、逆に前からみんなである程度プレスをかけに行くのか、リトリートしてポジションを作ってというのが重要なのか、それをチーム全体で見極めたい」(細貝)

 こうした発言が初戦から出てくるだけでも、”つかみ”としてアギーレ監督の大事なメッセージが一つ、選手たちに伝えられたことは確かだ。


河治良幸(かわじ・よしゆき)

サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCFF』で手がけた選手カードは5,000枚を超える。著書は『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『日本代表ベスト8』(ガイドワークス)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。サッカーを軸としながら、五輪競技なども精力的にチェック。