セクシーな遠藤保仁から正直者の柴崎岳へ? 自然かつ競争的な世代交代を前に、協会に言っておきたいことがある
果たしてこの敗戦から読み取るべきこととは何か。ミスター観戦力・清水英斗は遠藤保仁の言葉に注目した。
▼UAEの「奇襲」に思う
「想定内ですよ。だいたい分析を見れば、そういう形だったので」
アジアカップ準々決勝。UAEは[4-4-2]システムで、10番アブドゥルラフマンを右サイドハーフに置き、中盤を自由に動き回らせた。開始10分のみ、とはいえ、日本は彼に引っかき回され、ハマらないプレスを無理に行ったことで、前線と最後尾が分断された。UAEの前線のスピードが活かされる展開になってしまった。
この10分間だけはUAEの思い通りにやられたので、遠藤保仁に質問してみたのだ。「10番があのポジションを取る形は想定していたのか?」と。その答えは、前述したとおり「想定内」だった。
うーん。ちょっと納得がいかなかったので、もう一言聞いてみた。「どういう対応策を立てた?」と。
「いや。普通にマークするっていう。近いやつが行くっていうだけで、特に誰かが行くわけではなく。中に入れば、もちろん受け渡したりもありますけど、基本的には対面の選手が見るという、普通のポジショニングのやり方でしたけど」
それはつまり、特に対応策はなかった、ということだろう。
「だいたい分析を見れば、そういう形だったので」という口ぶりも、UAEの戦い方を想定したのは遠藤個人の話であって、チームとしてのミーティングで話題に出たとは考えづらいニュアンスだ。また、「ディフェンスラインが寝ていた」「あの時間帯に何が起こったのかは説明しづらい」という長谷部誠の口ぶりからも、やはりチームとしてのUAEの戦い方の予測は、ほぼなかったことがうかがえる。
▼二人の差と世代交代
でも、それを「想定内」と言っちゃうところが、遠藤はカッコいい。
あれは岡田ジャパンの頃だっただろうか。ある女性記者が、「ヤットってセクシーだよね」と不意に言ったことが印象に残っている。まあ、印象に残っているわりには、その女性記者が誰だったのか、覚えていないのだけど…。当時は『ガチャピン』とか、『ムッシュかまやつ』とか、そんなふうに言う人が多かったので、『セクシー』目線で見たことがなかった。でも、よくよく見ると、これほどセクシーな男はいない。年々、色気が増している。
なぜ、この男はセクシーなのか?
それはやっぱり、出で立ちが”哲学”を匂わせるからじゃないだろうか。
UAEの戦い方が「想定外」であったことを認めたくないわけではなく、それを認めることで、哲学を反するサッカー、すなわち相手をものすごくリスペクトする守備的サッカーに方向性が傾くのが、嫌なんじゃないだろうか。そもそもその場合、今野泰幸が出場できるコンディションなら、遠藤はベンチに置かれる可能性が高いわけで……。
ミックスゾーンで話す内容は、どことなくシャビ・エルナンデスに似ている。シャビのように相手を攻撃するような言葉を用いることは全くないが、しかし、自分の哲学に反することは、ウソをついてでも認めない。いや、辛うじてウソにならないギリギリの範囲で、うまく話を逸らしている、という表現のほうが正しいだろう。
遠藤の雰囲気、話し方は、すごくやわらかいし、適度に笑いを誘う。しかし、その根底には、ものすごく頑固なサッカー観、すなわち哲学がある。外面は癒し系に見えて、実は死ぬほど頑固者。その謎めく二面性が、セクシーでたまらないのだ。
その辺りは、まだ若いだけかもしれないが、柴崎岳とはだいぶキャラクターが違う。遠藤は「答えられない」とは滅多に言わない。適当に煙に巻く。柴崎のほうがもっと正直者で、彼は「メディアの方にはここまでしかしゃべりません」という境界線をきっぱりと引く。植田直通もそのタイプなので、もしかすると鹿島アントラーズのメディア教育なのかもしれない。昌子源もペラペラしゃべっているようで、戦術的なことはほとんど言わない。
そんな性格の違いもあり、プレースタイルの違いもあり、遠藤から柴崎への世代交代は、思った以上にチームががらりと変わるような気はしている。そうなると、そこをベースに、周囲でセッションできる選手も変わってくるのではないか。そして、自然かつ競争的な世代交代へと。
「J論は妄想を書いても構わないメディア」と勝手に思っているので、ずらずらと書いてみた。
▼協会は明瞭な意思表示を
話は変わるが、今回は諸般の事情で、日本が敗退した時点で帰国するつもりだったので、すでに日本に帰ってきている。
アギーレが4試合連続で同じスタメンを並べたことには、「中2日の日程がわかっていたのに、マネージメントが間違っている」と批判が多いようだ。一理あるが、そこには八百長疑惑問題の影響も少なからずあったのではないか。
僕は大会前の『サムライサッカーキング』の原稿で、「この大会は先行逃げ切りにせざるを得ない」と書いた。前回のように、悪いながらも尻上がりにチームが良くなるという展開を、雑音の大きな状況では考えづらいからだ。グループリーグで引き分けや敗戦があれば、さまざまな外部要因に結びつけた言論が増えただろう。まあ、結果的にはレフェリングや本田発言で、変わらず騒がしくはなったのだけど……。アギーレとしては、確実にベテランメンバーを並べ続ける以外に選択肢がなかったのではないか、と想像する。
コンディションだけでなく、同じメンバーで戦いすぎたことで、相手に読まれやすいチームになったことも問題だ。初戦のパレスチナ戦から、長谷部が吉田麻也や森重真人のマーカーをブロックするといった、セットプレーの手の内を見せていることにも驚かされたし、我々が思う以上に、アギーレには余裕がなかったのではないかと思っている。
そんなわけで、JFAに求めるのは、ハッキリしてもらうこと。
アギーレを支持するにしても、1996年以来のベスト8という不振結果を重く見て解任するにしても、いずれにしろ、ハッキリしてもらいたい。
「そのときになったら、その都度考える」という原専務理事らのコメントは、一見、正論のようで、実は誰も幸せにならない。みんなが不安を抱えながら仕事をするだけではないか。対外的には多少のウソがまじってもいいから、「自分たちが選んだアギーレを信じ、全力で支持する」とコメントすればいいのだ。あとは沈黙を貫く。
その後、有罪になってしまったら、「状況が変わったので解任することにした」、それでいいのでは? 選手のほうが、まともなメディア対応をしているように僕には思える。
清水 英斗(しみず・ひでと)
1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。著書に『日本代表をディープに観戦する25のキーワード』『DF&GK練習メニュー100』(共に池田書店)、『あなたのサッカー観戦力がグンと高まる本』(東邦出版)など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。