J論 by タグマ!

「世界を知り尽くすライターが提唱する意識改革とは」杉山茂樹/後編その2【オレたちのライター道】

“ライターの数だけ、それぞれの人生がある”。ライターが魂を込めて執筆する原稿にはそれぞれの個性・生き様が反映されるとも言われている。J論では各ライター陣の半生を振り返りつつ、日頃どんな思いで取材対象者に接して、それを記事に反映しているのか。本人への直撃インタビューを試み、のちに続く後輩たちへのメッセージも聞く前後編シリーズ企画。第11回は『サッカー番長 杉山茂樹が行く』の杉山茂樹氏に話を聞いた。
→前編その1「日本初のフリースポーツライターが出現したその経緯とは
→前編その2「歯に衣着せぬスタイルを確立したその理由とは
→後編その1「サッカーを伝える側に抱いているその違和感とは

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ー最近のJリーグの雰囲気などについて、杉山さんは何か感じていることはありますか?

Jリーグはもうちょっと、外からも観られていることを意識した方がいいと思います。外国に行ってダゾーンを開くと、Jリーグの試合も普通に見れますからね。日本の人はまだ気づいてないけど、今のJリーグは世界中のエンターテイメントのなかのひとつなんです。

日本国内でのダゾーン視聴者が150万人ぐらいいるという話ですけど、これを多い少ないで言えばたぶん少ないです。国内の視聴者が多い少ないという視点ではなく、外国の人たちからも見られてることが実は重要なんです。それが、ダゾーンがあれだけの大金をJリーグに払う理由です。

日本だと、Jリーグの試合を中心に海外の試合もありますと。でもその逆もあって、外国の人たちは日本の試合も見られますよと。そうするとJリーグの試合は彼らにとっては海外サッカーのひとつであって、海外サッカーとして本当に魅力のある内容なのかというところで、僕はちょっと頭が痛いですよ。

ーーJリーグも海外サッカーのひとつであって、クラブのファンの人たちだけが見ているのではないということですね?

僕は少し前のJリーグの方が健全だったと思ってます。今は以前に比べてスタンドに第三者的なファンを見かけなくなっています。対戦するクラブのファンの人たちしか来てない。それで盛り上がるのも結構なことなんだけど、以前はメインとかバックスタンドに、お目当ての有名選手を観に来たサッカーファンの人がいました。

さっきも言ったけど、今は大した必然性もないのに、どこかのファンになりたがってる人が多い。別にどちらのファンでもない中立のままでも全然いいと思うんですけどね。

逆にイニエスタとかいると、どちらのクラブのファンじゃない人も観に行きますよね。たぶん、外国からダゾーンでJリーグの試合を見てる人たちも、イニエスタのような世界的な選手がいるから見てるんです。これはもう完全に第三者の目線です。

Jリーグの外国人枠のお話は、ダゾーンを見ている外の人たちや、日本で眠っている中立のサッカーファンにはとても重要なことです。クラブがどれだけの外国人選手を揃えているか、もちろん日本人選手も大事ですけど、クラブのファン以外の人たちを呼び起こす必要もあると思うんです。

ーー地域的な「宿命」のファンだけではなく、試合を見るすべての人たちを意識するべきだとお考えなのですね?

僕も取材に行った、マドリッドでのチャンピオンズリーグの決勝もそうですが、あれはイングランドの人たちだけが見てるわけじゃないですよね。当然ながら世界中のサッカーファンからの注目を浴びてるわけで、リヴァプールもスパーズも本当に下手なことはできないんですよ。

W杯のベルギー戦だって、日本とベルギーの人たちだけじゃなくて、世界中の人たちが見てたんですよ。間違いなく対戦した両国の人たちよりも、もっともっと多くの人たちが、日本代表とベルギー代表の良し悪しを評価したわけです。

ですから、サッカーというのは出しもの、ご披露するものであって、その出しもの的な魅力としてどうなんですかと常に考えなきゃいけないもので、日本のサッカーも面白いねと世界中の人たちから言ってもらわなきゃいけないわけですよ。

日本代表が勝つこともすごく重要なことで、日本が上を目指すサッカーをするのは当然なんだけど、その一方では世界に対して娯楽を提供していかなければならないんですね。その感覚がまだ日本には欠如してると思います。

ーー私自身もずっと日本を離れていたからだと思いますが、杉山さんのおっしゃる意味がよくわかります。

ヨーロッパでは他人に見られてる感覚がすごくあって、ドイツとベルギーが対戦すれば、オランダの人が隣国でその試合を見てるわけです。すごい冷静な目で両国のサッカーを評価してるんです。そういうことに対してヨーロッパや南米の国々はもう慣れてるんだけど、まだ日本はまったく外から見られてるという感覚がないんですよ。

僕が行った最初の4回のW杯はまさに第三者の目線でした。やっぱり前からの名残りもあって、W杯はそうやって見るんじゃなくて、こうやって見るものですよ、世界からも見られてますよ、と言いたいです。

あんまり変なサッカーをすると、外国の人たちにも笑われちゃうんですよ。トルシエジャパンが、スペインのコルドバでスペイン代表と対戦した時に、日本は超守備的なサッカーで0-1で負けたんですけど、スペインの記者は呆れてました。「日本は守りの練習するためにここまで来たのか?」とね。

なんでそんなに負けるのが怖いのかと言いたいわけです。スペインと日本には明らかな実力差があるのは誰でも知ってることで、大量失点を恐れてあんなつまらないサッカーをお見せしたら、あのスタンドで観戦してた人たちに、ほぼ一生涯に渡って臆病な日本代表のイメージしか残らないですよね。

ですから自分たちのサッカーも、外の人から見られて評価されていることを忘れちゃいけないんです。最近特に思うんだけど、試合後の記者会見で監督が自分たちのファンだけに対して「今日は雨の中スタジアムにお越しいただいたのに申し訳ありませんでした」みたいなコメントが多いような気がするんだけど、これからは「世界のみなさんこんな試合をご披露してしまい申し訳ありませんでした」に変わっていかないとダメだと思います。

ーー最後に、このインタビューの掲載にあたっての〆の一言をお願いします。

サッカーならではのものとは一体何なのか、他の競技との違いとは何かと言うと、取材を通じて感じてることは、サッカーのそれが他の競技よりも明らかにいいものなんですよ。日本の社会や日本人に不足しているものが、サッカーのなかには大量に含まれているんです。すごく感覚的な違いがあることを知ってほしいですね。

ーーお忙しいところお越しいただきありがとうございました。

こちらこそ。ありがとうございました。

[プロフィール]
杉山 茂樹(すぎやま・しげき)
静岡県出身。東京都在住。スポーツライター。スタジアム評論家。得意分野はサッカーでヨーロッパが厚め。W杯は82年のスペイン大会以降10大会連続現地取材。五輪も夏冬併せ9度取材。テーマは「サッカーらしさ」「サッカーっぽさ」の追求。タグマ!『サッカー番長 杉山茂樹が行く』主宰。