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「歯に衣着せぬスタイルを確立したその理由とは」杉山茂樹/前編その2【オレたちのライター道】

“ライターの数だけ、それぞれの人生がある”。ライターが魂を込めて執筆する原稿にはそれぞれの個性・生き様が反映されるとも言われている。J論では各ライター陣の半生を振り返りつつ、日頃どんな思いで取材対象者に接して、それを記事に反映しているのか。本人への直撃インタビューを試み、のちに続く後輩たちへのメッセージも聞く前後編シリーズ企画。第11回は『サッカー番長 杉山茂樹が行く』の杉山茂樹氏に話を聞いた。
→前編その1「日本初のフリースポーツライターが出現したその経緯とは

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ーーW杯を現地で観てしまった杉山さんですが、日本に戻った後は現実に引き戻されたと思います。そのなかで進むべき道は見えてきたのですか?

当時はフリーのライターなんて日本にはひとりもいないんですよ。でもカメラマンにはフリーの人がいたんです。74年のドイツ大会ぐらいからフリーのカメラマンが行ってて、それもあってカメラの人たちとよく話すようになって。彼らはちゃんと食えてるわけですよ。

たぶん大儲けはしてなかったと思うけど、サッカーマガジンの仕事とかやってるわけじゃないですか。ヨーロッパにもガンガン行けてたりして、この人たちはいいなと思い始めてました。だから僕は一時カメラマンになることを検討したこともあります。

サッカーダイジェストも始まっていて、当時は日本リーグの試合を自分で撮って記事を書いたりしていました。でも機材がやたらと重たいし、カメラマンはちょっと違うかなと思っているうちに、なんか人の給料分を稼ぐぐらいのフリーでの収入があったんですよ。じゃあもうこんな感じでやっていこうかなと。

世界を見渡せばフリーの人なんていっぱいいるし、日本でもカメラマンはフリーでやってるし。当時はサッカー専門誌はマガジンとダイジェスト、そしてイレブンがありましたが、もうそれだったらフリーの立場でやっていくしかないなと思いました。

カメラマンは新聞社にもいたけど、外部のフリーの人の方が腕が良かった。ペンの方は新聞記者か専門誌の編集部員の人たちしかいなくて、完全にフリーの立場でやってる同業者はいなかったですね。

ーー日本初のフリースポーツライターが誕生しました。杉山さんのスタイルはフリーの立場であったからこそカタチになったのですか?何か特別に意識していることがあるのですか?

僕はまだ大学生の分際だった頃から、結構文句書いていたんですよ、まあ批評というか。スペインのW杯に実際に行ったというのもあったんだけど、僕らの職業っていうのはこういうことなんだと分かったんです。ただ、まだ日本は何も確立されてなくて。僕は特別なことをやってるつもりはなかったんですけどね。

ヨーロッパの記者会見とか見ると面白いじゃないですか。でも、日本では記者が食い下がるみたいなことはない。そもそもアマチュアの日本リーグだったんで、アマチュアの人に対してそこまで食い下がるのもどうかと。今の浦和レッズじゃないけど、給料かなりもらってるからこそ叩けるわけで、日本代表もあれだけの観客の中でやってるし、視聴率もあるからこそ、記者という職業も存在するわけです。

ですから、僕は若い頃からの感性のままで今もやっているだけで、辛口とか批評とか無理してやっているわけではないんです。でも、日本サッカー協会からは一度も文句を言われたことないですよ。「え?何?」みたいのはあったけど(笑)。

日本サッカー協会は特別なところで、割と批判が許されます。これはたぶんみんなサッカーが好きだからだと思います。協会の中の人も含めて、みんななんやかんや思ってるものがあるんです。あんまり批判を抑え込もうとするムードはないですね。他の競技に比べて圧倒的に。

ーー日本サッカー協会の懐の深さは理解できました。しかし、杉山さんは他の場所に行ってもそのスタイルを貫くことができるのでしょうか?

逆に地方の試合に行くと、ここで文句言ったら大変だなと感じます。Jリーグに申請して取材に行くから、別に厳しく書いても何も問題ないんだけど、クラブからすると「おい!お前!」になりそうな感じで。ずっとそこにいる番記者のような人だったらそれは難しいでしょうね。

日本の、特に地方では、まわりの人からも意地悪されたりすると思う。僕はそういうのは好きじゃないし、巻き込まれないようにしてるところはあります。長くやってるとなんとなく様子がわかるんですよ。この人たちには通じないなとか、この辺までは通じるなとか。僕は通じる人たちのところでやりたい。もし誰にも通じなくなったら、僕はやめます。

他の競技も嫌いじゃないですよ。水泳にしても冬のスポーツにしても取材したいんだけど、やっぱり体質が田舎なんですね。サッカーの世界と180度違う世界があって、連盟とかに文句言えない体質なんですよ。新聞でも叩けないし。

サッカーの世界ではみんな文句言うじゃないですか。誰かが言い始めるとついて行くみたいなずるいヤツもいるけど、日本サッカー協会はほとんど拒んでないんですよ。別にそんなのは普通のことなんで、信頼関係が構築されてるんです。

ーー杉山さんは82年のスペイン大会以降もW杯の取材をされています。以前と最近の大会では、何か景色の違いのようなものはありますか?

スペイン、メキシコ、イタリア、その次のアメリカ大会にも行った。それと98年のフランス大会との違いは、日本代表がいるかいないかです。僕はフランス大会までにもう4回のW杯を取材しています。もしかすると、フリーランスの立場で10回W杯に行ってるのは、僕ぐらいしかいない可能性があります。

日本代表が出場してない大会に行ったことは結構重要で、持っている感覚が全然違うんです。大抵の人は日本が初出場したフランス大会からで、その前のW杯を知ってるのと、98年以降の人たちは全然違ってて、残念なことに日本のほとんどの記者が日本代表に張り付いちゃったんです。

僕も日本代表の試合も観るけど、W杯というのは世界の列強が集う大会なので、現地に行ったんだったら他の試合も観なきゃダメなんですよ。日本が出られなかった場所に後から来たんだろと。それが最初から日本代表の試合だけを見始めた。これがおかしいんですよ。そういう視点の人とそうじゃない視点の人が、報道陣の中にもいる。それは悲しいことに日本代表を視点にした方がお金になるからなんです。

今はちょっと変わってきたかもしれないけど、日本代表が負けてからが本当のW杯ですよね。この前のベルギー戦は惜しかったけど、ロシア大会でも日本代表が負けるとほとんどの記者が日本に帰っちゃうんですよ。いやいやちょっと、そこから先を観ないで日本代表のことは語れないでしょと、僕は思ってるんです。

→後編その1「サッカーを伝える側に抱いているその違和感とは

[プロフィール]
杉山 茂樹(すぎやま・しげき)
静岡県出身。東京都在住。スポーツライター。スタジアム評論家。得意分野はサッカーでヨーロッパが厚め。W杯は82年のスペイン大会以降10大会連続現地取材。五輪も夏冬併せ9度取材。テーマは「サッカーらしさ」「サッカーっぽさ」の追求。タグマ!『サッカー番長 杉山茂樹が行く』主宰。