J論 by タグマ!

「サッカーを伝える側に抱いているその違和感とは」杉山茂樹/後編その1【オレたちのライター道】

“ライターの数だけ、それぞれの人生がある”。ライターが魂を込めて執筆する原稿にはそれぞれの個性・生き様が反映されるとも言われている。J論では各ライター陣の半生を振り返りつつ、日頃どんな思いで取材対象者に接して、それを記事に反映しているのか。本人への直撃インタビューを試み、のちに続く後輩たちへのメッセージも聞く前後編シリーズ企画。第11回は『サッカー番長 杉山茂樹が行く』の杉山茂樹氏に話を聞いた。
→前編その1「日本初のフリースポーツライターが出現したその経緯とは
→前編その2「歯に衣着せぬスタイルを確立したその理由とは

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ーー日本代表の戦いぶりについて、現在の森保ジャパンも含めて気になっていることなどはありますか?

何を基準にしてモノの良し悪しを言わなきゃいけないかと言うより、日本には良し悪しの基準がないままなんですよ。何かにぶつけるモノがないと、例えばこの前のチャンピオンズリーグもあるけど、森保ジャパンの3バックと4バックを語るにも、そういうモノとぶつけ合いながらやらなきゃダメなんです。ぶつけるモノがまったくないから、結局は内々の話になっちゃうんですよ。

これは僕からすると、それだけのやり方だと全然分からないことなんだから、世界的にこれを何パーセントぐらいがやってて、どういう歴史があって、どういう経緯があって、今これが来てるのか、という認識がないと語れないものなんですよ。

さっきも言ったとおりW杯も同じで、日本代表だけ観てる人には、実は日本のことは分からないんです。他の31カ国と日本代表を比較しなきゃいけないんです。サッカーは比較対象の競技ですから。しかもそれはとても感覚的なものであって、データ的なものも若干あるけど、他の競技に比べると圧倒的に弱い。

そうすると感覚的な問題なのだから、感覚的な目線で観てる人が自分とは少し違った意見だったとしても、あの人は僕とちょっと違うけど認めるというか、君はそう捉えたのねという感じで、僕はそういった側面を感じさせる人には共感できます。

ーー最近はテレビ中継の解説者に対する視聴者の要望が多いような気がします。杉山さんが日本の解説者に求めるものとはなんでしょうか?

昔はダイヤモンドサッカーという番組があったんですよ。岡野俊一郎さんという名解説がいて、でもああいう人は今いないんですね。岡野さんのセリフを結構覚えていて、何年後かにヨーロッパに行ってみると、あれ岡野さんが言ってたのと違うじゃんというのもありました。だけど、そういうことを言いたがってる岡野さんがいいんですよ。

文化とか歴史とか地理とか、そういうのをひっくるめながらの背景的なお話にロマンがあるから行ってみたくなるわけです。今の解説を聞いてもヨーロッパに行きたいと思わないですよ。解説がウマいとかヘタとかはそんなに重要なことじゃなくて、観てる人を外に羽ばたかせるような解説が好きです。サッカーの世界の本質というのは、ピッチ上の戦術うんぬんだけじゃないんです。

解説を聞いてたらまた観に行きたくなったと、人を誘うようなのが名解説だと思います。それはたぶん選手目線だけではできないことでしょう。元選手の人が解説者になると、概してピッチ上だけの話になりがちです。観客とかスタンドとか周辺のノリとか、日本とはどこが違うとか、どういう場所なのかとか、そういうのを聞くと行きたくなるんです。

ーー杉山さんは著書のなかで戦術についても詳しく書かれています。これは何かの影響を受けて書かれているのですか?

実際に現地に行かなきゃ分からない、というのがサッカーの本質で、よくフォーメーションとか布陣のことも書いたりするんだけど、あれは現地で観て感じていることなんです。そういうのを書きたくて書いてるんじゃなくて、ただスタンドの上から観てるだけでもデザインの違いが分かるんです。目を凝らさなくても全然違うじゃんと。その違いをパッと見て一瞬のうちに感じたのがバルセロナです。全然違うじゃないかと。

他のところも色々回ってからバルセロナに来ると、これは全然違うなと。それをどう口で説明するかになるんだけど、「バルサ化」と言う人がいるけど、何をどこから見て「バルサ化」と言ってるのかと。もうとんちんかんにも程がある、恥ずかしくないのかと思いますね。

バルセロナを冒涜してる感さえします。言うのはいいとしても、言っちゃったら相当勉強しないと。どういうことが「バルサ化」なのか言ってみろと言っても、たぶんふたつぐらいしか答えられないんじゃないかな。

「ボールを保持するサッカー」とか「パスをつなぐサッカー」とか。もっと背景に潜むものとかあるんだから安易には言えないんですよ。簡単にはできないことだと分かってるんだから、本当に浅はかで薄っぺらですよ。

「バルサ化」は余程の覚悟が必要で、バルセロナのサッカーをやりたいと言って、ちょっと向こうに行ってすぐに帰って来る人たちにできることじゃない。そんな簡単にコピーできるサッカーなら誰も苦労しません。その中で僕はそれなりに頑張って、その真実が何かを追求した方なんだけど、でもだからこそあまり口にはしないです。

ーー収録を始める前に、最近のファンについて少しお話されていたような気がするのですが、もう一度お願いできますか?

以前誰かが、サッカー見たいならどこかのファンになると見やすいよ、というのがあったような気がするんです。要するに応援者として参加した方が、自分の好きなクラブを見つけて応援することが、サッカーを好きになる近道みたいなことを言う人がいたんだけど、僕はもう全然違うと思ってて、サッカー競技はパッと見てこれほど面白いものはないと思ってるんです。

バルセロニスタは世界中にいるけど、そもそも日本にいる人たちはバルセロナには縁もゆかりもない人です。だからバルセロナに実際に住んでるカタルーニャの人が、歴史的な背景とか、スペインの軍事的なこととか、マドリッドとの対立関係とか、色々あった上でバルセロナを支持してる人と、日本にいる自称バルセロニスタとは、悪いけど重みがまったく違いますね。

Jリーグだと、浦和の人は浦和レッズのサポーターでいいですよ。これがFC東京となるとちょっと困っちゃう。東京というエリアが広すぎて、東京人として生まれたとしても応援する必然性を感じない。求心力が働きにくいチーム。そこにあえてハマりたがろうとする人には無理を感じます。

自分の応援するクラブというのは、要は「宿命」なんですよ。そこで生まれちゃったらそれを応援するしかない。駒場の近くで生まれ育ったら、どんなに浦和レッズが嫌いでも浦和ファンなんですよ。そこで違うという人は余程のへそ曲がりです。でも大抵の人はそこで浦和レッズのファンになる。

→後編その2「世界を知り尽くすライターが提唱する意識改革とは

[プロフィール]
杉山 茂樹(すぎやま・しげき)
静岡県出身。東京都在住。スポーツライター。スタジアム評論家。得意分野はサッカーでヨーロッパが厚め。W杯は82年のスペイン大会以降10大会連続現地取材。五輪も夏冬併せ9度取材。テーマは「サッカーらしさ」「サッカーっぽさ」の追求。タグマ!『サッカー番長 杉山茂樹が行く』主宰。