50歳からの現役ライフ。O-50大会に観た日本サッカー文化の進化と浸透

毎週、週替わりのテーマについて複数の論者が自説を語る。それが『J論』――なのだが、今回からは新設のコラムを用意させてもらった。一意専心コラムと題し、週のテーマにとらわれることなく、それぞれの書き手が自由に一つの記事、取材テーマを掘り下げていく。その第1回で語るのは、全国シニア(50歳以上)サッカー大会。遠く北海道の地にて先日まで行われていた、おっさんの、おっさんによる、おっさんのための大会。なぜか取材に行ってしまった古都の超奇人・森田将義が、この不思議な大会に観たものとは......?



20140703_1.jpg4度目の出場で初の決勝進出を決めたアルフット安曇野シニア。この大会はおっさん達の「成長」を示す場でもある

▼全国シニアサッカー大会にて
「ドーピングに引っかからないよね?」

 そう言って笑いながら、ぽっこりお腹のおっさんが、値が張りそうな栄養ドリンクを流し込み、勢いよくグラウンドへ飛び出していく。これまでさまざまなカテゴリーを目にしてきた筆者だが、初めて観るような姿に少し面喰らってしまった。先月28日から30日かけて、北海道帯広市と中札内村で行われた「全国シニア(50歳以上)サッカー大会」での光景だ。

 日韓W杯が行われた2002年に産声を挙げ、今年で13回目を数えるこの大会は、そんな"おっさんたち"の晴れ舞台だ。全国9地域の予選を勝ち抜いた15チームと開催地・北海道代表の計16チームによって、50歳以上の日本一を争う。参加チームは近所のサッカー好きなおっさんが集まった単独チームと、各都道府県で開催されるシニアリーグの選手から選ばれた猛者たちが集う選抜チームと大きく2種類に分類される。

 そんな各チームの選手の立ち位置は実に多様だ。福井フェニックスFCシニアの"いぶし銀ストライカー"宗本義則さんの本職は、外科主任部長。「『みんな、お願い!』という感じで仕事を部下に任せて、練習や試合に参加しています(笑)」。前回大会の覇者、トヨペットクラブ(東京)のDF菅又哲男さんは、日本サッカーリーグ(JSL)の古豪・日立製作所(柏レイソルの前身)でプレーし、国際Aマッチ23試合に出場した華麗な経歴を持つ。一時は柏レイソルでチーム統括部長を務めるなど多忙を極めたためにチームを離れたが、仲間とボールを追いかける喜びがどうにも忘れられず、ピッチに戻ってきてしまったのだという。

 ほかにも、都道府県サッカー協会の各種委員長や、商工連合会会長など、その肩書きは様々。いずれも「遠征に行くたびにお土産を買って、家族の機嫌をとっている(笑)」(狭間京次さん/鳥取シニアSC50)と工夫をこらしながら、サッカーに打ち込んでいる。今年1月に50歳を迎え、ついに参加資格を得た福岡UNITEDのDF千疋美徳さん(読売クラブ、浦和レッズなどでプレー。引退後はサガン鳥栖の監督も務めた)を筆頭に1993年のJリーグ創設直前までJSLでプレーしていたような選手の参加が増えきているのも特徴の一つ。日本サッカー界の成熟と比例するように、年々大会のレベルも上がっているという。

20140703_2.jpg優勝を決める得点を奪ったトヨペットクラブのMF大貫啓一選手。熟練のテクニックが光った。

▼おっさん→スター選手
 試合前までは"どこにでもいるおっさんの集まり"にしか見えないが、選手の一人が「50歳を過ぎたら大人しくしないとダメなのは分かっているんだけど、ピッチに入ったらそうはいかないんだよ」と苦笑いしたように、ブラジル代表FWネイマールを思わせる華麗な足技を披露する選手、オランダ代表FWロッベンばりの驚異的な快足を飛ばす選手、ポルトガル代表DFペペのごとく荒々しいプレーで相手FWを止める選手など、試合が始まると、各人がスター選手のように豹変する。さすがに寄る年波には勝てず、思ったように体が動かない選手や、あっという間にバテている選手も多かったが、それもまたご愛嬌。ぽっこりお腹や白髪交じりの選手たちが格好良く見えるのだ。そして、20分ハーフの戦いを終えると、"おっさんたち"に戻り、「夜のミーティング」と称して、嬉しそうに飲み会に繰り出していく。そんな姿も、敵を倒した後のヒーローみたいで、また格好良い。

 そんなおっさんたちの最高峰の大会は、トヨペットクラブの連覇で幕を閉じた。「毎週試合を入れると皆、ブーブー言うので、集まるのは公式戦くらい」(中野茂監督)というチームだが、元・全日空(横浜フリューゲルスの前身)のMF大貫啓一さんを筆頭にDF大重真一さん、MF渡沼光章さん(ともに浦和南高で選手権を経験)ら技巧派が繰り出す華麗なサッカーで他を圧倒。加えて、東京都選抜(Lazos27)の一員として、今年の「全国シニア(60歳以上)サッカー大会」でも優勝した元日立のDF熊谷信彦さんら控え組が献身的にチームをサポートするなど雰囲気の良さも光っていた。5試合14得点無失点という圧倒的な差で大会を制したのも納得の好チームだった。

 表彰式を終えると、トヨペットクラブの選手たちはそそくさと着替えを済ませて足早にグラウンドを去っていった。訊けば、近くのスーパー銭湯で汗を流し、優勝祝賀会をするという。一方、準優勝・アルフット安曇野シニア選手たちも足早にグラウンドを立ち去る。こちらは残念会ではなく、翌日から仕事があるために一時間後の飛行機へ乗らなければならないのだという。3日間の熱戦をこなした選手たちは、こうしてまた"普通のおっさん"に戻っていくのだ。

「また、来年ね。俺が生きていたらだけど(笑)」

 大急ぎで会場を飛び出す選手の一人が飛ばした、実に"おっさんぽい"冗談を耳にしながら、日本サッカー界が刻んできた歴史が間違いではないと確信した。この大会は、日本のサッカー文化の成熟を、確かに示していた。


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