【六川亨の視点】2024年3月2日 J1リーグ第2節 FC東京vsサンフレッチェ広島
J1リーグ第2節 FC東京 1(0-0)1 広島
15:04キックオフ 味の素スタジアム 入場者数32,274人
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「完成度の違い」と言ってしまえばそれまでだが、広島はスタメン11人中で新戦力はFW大橋祐紀だけ。それも去年は湘南でブレイクした実績十分の選手で、浦和との開幕戦でも2ゴールを決めている。このため攻撃のスタイルが確立されているだけに、特に左サイドのFW加藤陸次樹、MF東俊希、DF佐々木翔のコンビネーションは秀逸。前半23分の決定機にGK波多野豪の好セーブがなければFC東京は早々に失点していたところだった。
そんな広島の攻勢に対し、ピーター・クラモフスキー監督は後半18分頃からFWジャジャ・シルバとMF小泉慶を交代要員として起用し、ピッチにサイドに立たせていた。プレーが途切れないため交代できなかったが、この間に広島は右CKからPKを獲得する。CKは中央での競り合いからゴールラインを割ったものの、ここでプレーは一時中断されて主審がOFRに走った。そして場内のVTRで空中戦を競った後のリバウンドが、背後でジャンプしたディエゴ・オリベイラの手に当たっていたことが映し出された。故意ではないだろうが、ハンドはハンド。このPKを大橋が確実に決めて広島が先制したところで、前述の交代が認められた。そして直後の26分、FC東京は右サイドからの素早い攻撃で、交代により1トップにコンバートされた荒木遼太郎がすかさず同点ゴールを決める。「交代はPKの前から準備していた」(クラモフスキー監督)だけに、CKの前に交代できていれば試合展開も違っていたかもしれないが、これもサッカーの難しさだろう。
1-1で迎えた後半32分、FC東京がゴール前のプレーでクリアしたところ、その際の接触プレーで大橋がしばらく座り込んでいた。そして大橋が負傷から立ち直ってプレー再開と思ったところ、またもVARが介入する。VTRでは、左サイドからのクロスに足を伸ばした加藤の足をDF森重真人が蹴る格好となるクロスプレーが再現された。広島のサポーターは当然PKを期待したが、OFRの結果、その前にオフサイドがあったとしてFC東京のFKでプレーは再開された。その後はさらなる選手交代で攻勢を強めたFC東京が、後半39分にFW俵積田晃太のタテへの突破がファウルを誘発してPKを獲得する。今度はFC東京のサポーターが沸く番だ。しかしVARの結果、反則はペナルティーエリアの外だったことでPKではなくFKに変わった。
試合はこのまま1-1のドローで終了。試合後のミヒャエル・スキッベ監督は「普段VARは気に入らないが、今日の3つのシーンは良かったのではないか。PKと、PKではなくその前にオフサイドがあったことと、PKではなくペナルティーエリアの外だった。判定も審判の態度も良かった」とジャッジを称えた。もしも主審のジャッジ通りだったら、FC東京が2-0の勝利(PKを成功させたとして)を収めていたことになるし、オフサイドまで遡らなければ広島には2回目のPKが与えられていた可能性もある。判定に公平を期すためにVARの必要性は理解しているつもりだ。しかし試合が中断されるたびに待たされる“間の悪さ”と、ペナルティーエリア内での“重箱の隅をつつく”ようなVARはやはり馴染めないと感じた試合だった。
六川亨(ろくかわ・とおる)
東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。