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【六川亨の視点】2022年6月22日 天皇杯3回戦 川崎フロンターレvs東京ヴェルディ

天皇杯3回戦 川崎フロンターレ0(0-1)1 東京ヴェルディ
19:00キックオフ 等々力陸上競技場 入場者数7,534人
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ジャイアントキリングによる波乱がいくらカップ戦の醍醐味とはいえ、1日に5試合は多すぎるのではないだろうか。天皇杯3回戦の16試合が開催された6月22日は、J1リーグ首位の横浜F・Mが栃木に0-2で敗れ、3位の川崎Fも東京Vに0-1で敗れた。さらにFC東京は長崎に2-3、浦和は群馬に0-1、そして札幌は甲府に1-2と敗れて姿を消した。

すべての試合を取材したわけではないので各試合の詳細は不明だが、当日取材した川崎F対東京V戦は「波乱が起きる要素」の詰まった試合だった。

立ち上がり、試合の主導権を握ったのは東京Vだった。川崎FのDF陣(松井、山村、車屋、佐々木)に東京Vの1トップ佐藤凌我が泥臭くプレスをかけてミスを誘発する。トップ下の森田晃樹(21歳)も意外性のある飛び出しで攻撃をサポートし、この日が初先発となったボランチの西谷亮は、18歳とは思えない落ち着きと視野の広さで攻撃陣をリードした。

そして前半39分、ロングボールの処理を川崎F守備陣がもたつくところ、ペナルティーアーク付近で佐藤が奪い、強烈なミドルを叩き込んだ。

この1点に応えたのがDF陣、とりわけGKマテウスだった。前後半を通じて6回の1対1という決定機をことごとく阻止。ジャイアントキリングには「奇跡的なプレー」が欠かせないが、まさにGKマテウスはゴールにカギを掛けた“番人”だった。

そして試合終盤は、攻守に上下動を繰り返した右FWバスケス・バイロンは橘田健人のショルダータックルに簡単に弾き飛ばされるほどヘロヘロの状態だった。ボランチの宮本優は足がもつれて相手を倒し、警告を受けたが、痙っているふくらはぎをチームメイトに伸ばしてもらいながらの警告だった。

こうしたチーム一丸となって90分間ファイトした姿勢は感動的ですらあった。

ほんのちょっとの幸運(こぼれ球からの決勝点)と奇跡的なプレー(GKマテウスのファインセーブ)、そしてひたむきな努力の連続――ジャイアントキリングを起こす3要素が揃ったのが等々力陸上競技場をホームにするチームと、かつてホームにしていたチームの一戦だった。

 

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。