キングコング西野亮廣はなぜ燃えたのか? 山本一郎が語る炎上商法の危険性
炎上商法のメリットとデメリットについて語ってもらった。
(前編「山本一郎と村上アシシがエアインタビュー騒動について大激論!」)
▼炎上商法は段々みんな飽きてくる
アシシ:ここまでは「問題提起型」の炎上案件についてお話を伺ってきました(前編の記事はこちら)。次は「炎上商法型」について意見を聞きたいなと。
アシシ:最近だと、お笑い芸人の西野(亮廣)さんが絵本をウェブ上で無料公開した件が盛大に燃えました。フリーミアムと呼ばれるビジネスモデルを土俵にした議論であれば彼のやり方は正論なので、すごくよくできた炎上のステージだったと思います。
山本:作戦は彼なりにちゃんと考えていると思うんですよ。彼の場合、不思議と人の心に入っていく力があるんだと思います。極論で言うと彼の持つやさしさというか、どこか悪人になりきれない部分もあると思うんですよね。ただ、ちょっと今回は身内の人たちが傷つきすぎた。そこは、反省するところかなと思うんですけどね。
アシシ:炎上は基本的に喜怒哀楽の「怒」を引っ張ってくる。「喜」だと炎上じゃなくて、昔は祭りと表現されていた。最近はバズると表現しますね。バズ職人として有名なヨッピーは、炎上否定派ですよね。ポジティブなバズりはすごくいいことなんですが、炎上はやっぱりネガティブな影響が出てしまうのが問題ですし。
山本: 西野さんのあのやり方を僕は焼き畑と表現しています。
アシシ:「糞ダセー」とか「お金の奴隷」とかすごい煽り方でしたよね。でも巧みなのは、奴隷と比喩しているのは他のクリエイターではなく、子供のことなんですよね。子供がお金の奴隷になっている件について、絵本を無料にすることで解放してあげるという意味。お金を稼いでいるやつが奴隷であるとは、直接的には言っていない。奴隷はタイトルにも入れたし、そこに釣られた人たちがすごく多かった印象があります。
山本:タイトルしか読んでいない読者は一定数いますよね。語感が腹立つとか西野に言われてムカつくとか、そういうレベルなんですよ。燃えている側も燃やされている側も、お前らちょっと冷静になれよと言いたくなる部分もありますが、タイトルに刺激的な言葉をもってきて、売り言葉に買い言葉になってしまったら、これはもう仕方がない。ネット炎上には鎮火させる技術、燃やし続ける技術、両方あって、どちらもそれなりに技術が必要なんですよ。
アシシ:なるほど。
山本:私だって、書いたことや言ったことが理由で物言いや言いがかりがついて炎上することはあります。ただ、言いがかりがボーッと燃えているところで無理に反論したところで単なる燃料になるだけですから、いちいちそんなものは見ないで放置して置けばよいのです。ああ、私が目障りで嫌いなんでしょ、はいはい、で終わりです。ただ、西野さんの場合はむしろ自力で可燃性の高い言葉を投げて燃やしに行くというスタイルを取るわけですから、そりゃ挑発されたらみんなわいわい言いますよね。
アシシ:西野さんの場合は鎮火させるのではなく、「ほら!アマゾンで1位になった!」とブログに上げて、更に燃料を投下する方を選択しました。それで「結局、金のためにやってたんかい」と盛大に延焼する。でもフリーミアムの成果は出ているので、ビジネスの観点で言うと彼の炎上商法は大成功なわけです。
山本:「美味しんぼ」の雁屋哲さんがやった炎上に近いですよね。本人は正しいと思っている、もしくは確信犯でやっている。それは、彼自身の考え方に依拠するものなので、撤回はしない。アパホテルの炎上の件も同じ。百田尚樹さんもそうですけど、本人の作家性に寄与するものが炎上の火種になるんですよ。作家ってどこか人間的に変わってないといけない。変わっているから差別化されて、作品や言説が持てはやされる。でも、変わってる人間性を生で出したら、不快を買って批判を受ける。最初は目新しいからボンって炎上するんですけど、段々みんな飽きてくる、カロリーが減ってくるんですよ。そうすると次のネタは前回よりも大きくなきゃ注目されない。一口に炎上商法と言っても「あいつ、またこんなことやりやがった」っていう燃え方じゃないとだめです。西野さんも次、更にデカい規模の炎上をうまくやらないと、今度は彼自身が消費される側に回る。私はそういうのを「炎上の引き出し」って呼ぶんですけど、それがあるかどうかですね。
▼炎上は時代を越えてループする
アシシ:炎上商法型で自分に火を付けるのは、そういう意味でハイリスクハイリターンですよね。でも、問題提起型は自分が火炎瓶を投げる側に回るので、より戦略的だと思います。返り血を浴びるリスクはありますけどね。
山本:中川(淳一郎)さんも書籍で書いてましたけど、ウェブは基本的にすごい人もいれば、どうしようもないバカもいるんですよ。そのどうしようもない人たちから標的にされるリスクがあるんですよね。何を言っても聞く耳持たないバカとか、あまり理詰めで考えない人や立場や思想の異なるものを容認できない人たちから叩かれるようになる。その対応に時間を取られるのはマイナスですよね。
アシシ:山本さんはAppBank騒動の時に、マックス村井さんのファンである中高校生からの罵声リプの数々にバンバン答えていましたよね。
山本:あれは楽しかったですね、一晩中返していました。
アシシ:100本ノックかよって突っ込みも入ってましたよね(笑)。あれはすごかった。
山本:昔、それこそ中学生時代に自分も好きなものが否定されたとき、むきになって反論してた時期があったことと思い出したんですよ。なので、返さないのは人が育ってきた道として反するんじゃないかと思って、がんばって返そうと。同じ道を通ってきた、大人の責務として。
アシシ:炎上は条件反射で返すのか、しっかり時間をとって熟考して意見するのか、人の本質が見えると思うんです。僕はアクセンチュアの新入社員時代に、何か文句を言うなら常に代替案を出せと耳にたこができるくらいに言われて育っているので、誰かを批判する時は別の解決策を提示するように心がけています。
山本:でも、そんなに世の中きれいごとでは回らないじゃないですか。例えば、サッカーや野球の論評で、なんであいつだめなのと話題になる。野球選手でもなければ日々努力もしていない人が、野球の試合をテレビで見てああだこうだ言う。それが、ツイッターやネットを放流して、選手の耳に届いて反論されて論争が起こる。ダルビッシュ有さんがその典型です。彼は本当に優れているから、書いたものには重みがあるんですけど、でもテレビで観ている人はその価値が分からないわけです。でも言う側にも権利があるし、言われる側もある意味受け止めざるをえない状況が発生すると思うんですよ。野球やったこともないのにメジャーリーグのトップ5に入るピッチャーの言うことに何文句たれているんだよって話だけど、それもひとつの社会の形だと思うんですよね。
アシシ:それはSNSが世に普及したここ10年ぐらいの話ですよね。今までテレビのブラウン管の中にしかいなかった有名人に対して、世界がフラット化したことで、気軽にツイッターでリプを送れるようになった。人によってはレスを返してくれる。これは結構なパラダイムシフトだと思います。
山本:これが本当のウェブとテレビの融合。そういうレベルの話になるぐらい重要な変化だと僕は思います。
アシシ:そんな劇的な変化の中、まだインターネット上のお作法やルール、法律などの整備が追い付いていないから、今これだけ炎上が起きて、消費され続けている現状があります。しかも、数年前の似たような炎上事例が、プレーヤーを変えて繰り返し行われている感があります。
山本:ループするんですよ。まだインターネットになる前、自分がパソコン通信をやっていた時代から同じことをやっている。題材が違うだけでこんなにも人間は同じことを繰り返し、消費できるんだなと感心するくらいですね。
アシシ:そして数カ月経てば、ちょっと昔の炎上ネタなんてみんな忘れていくんでしょうね。このコラムがアップされるタイミングでは、西野氏の炎上なんて忘却の彼方かもしれません(笑)。
山本:その可能性は大いに有り得ますね。
アシシ:今日は色々とためになる話、ありがとうございました。
山本:今度は一杯やりましょう。ボイスレコーダーで録音とかしないで、オフレコトーク全開で(笑)。
村上アシシ
1977 年札幌生まれ。職業は経営コンサルタント・著述家。外資系コンサルティング企業・アクセンチュアを2006年に退職し、個人コンサルタントとして独立して 以降、『半年仕事・半年旅人』のライフスタイルを継続中。南アW杯出場32カ国を歴訪した世界一蹴の旅を2010年に完遂。Jリーグでは北海道コンサドー レ札幌のサポーター兼個人スポンサー。
ウェブサイト:http://atsushi2010.com/
ツイッター:https://twitter.com/4JPN
近著:海外旅行のノウハウ本『ロジ旅』