山本一郎と村上アシシがエアインタビュー騒動について大激論!
サッカー界を賑わしたエアインタビュー騒動について語ってもらった。
▼炎上は発火の仕方で3つに分類できる
アシシ:今まではサッカー関係者とばかり対談してきましたが、今回は初めてサッカー界以外の方に来ていただきました。
山本:よろしくお願いします。
アシシ:山本さんはフジテレビの情報番組「とくダネ!」のコメンテーターや、楽天イーグルスのアドバイザーなどを務めていますが、僕のイメージはズバリ、インターネット界の炎上王、英語で言うならばキング・オブ・ファイヤーです(笑)。
山本:いやいや。キングなんて恐れ多い。歩兵レベルです。
アシシ:「火が噴くところに山本一郎あり」と言われるくらいに、炎上に精通している山本さんですが、僕もサッカー界ではそれなりに炎上に首を突っ込むキャラです。そんな火遊びが大好きな二人で、今日はインターネット界の炎上について語り尽くしたいと思います!
山本:マジですか。やけにテンション高いですね、村上さん(笑)。
アシシ:そりゃテンション上がりますよ。いつも山本さんの火の取り扱い方を観察して、勉強させてもらっています。で、今回は気合を入れて、事前にパワポ資料を用意してきました。本職の経営コンサルっぽく炎上の種類について3つにカテゴライズしてみました。こちらをご覧ください。
山本:なるほど。こういう分類の仕方は面白いですね。
アシシ:世間でよく見るのは、例えばステマとか差別発言とか、不祥事の内容で分類したカテゴリーが多いですが、僕は今回、火を付ける側、付けられる側の切り口で新たにカテゴリーを定義してみました。簡単に説明すると、「自爆型」は説明するまでもなく、世間でよく見かけるバカッター案件です。問題提起型はネット上のインフルエンサーが火炎瓶を投げ込む形で着火するパターン。山本さんが去年、AppBankの不祥事に質問状を送って騒動になったのが代表例です。
山本:あれは盛大に燃えましたね。ただ、私が燃やしに行ったというよりは、質問状を公式に送っても無視されたり、上場企業なのに動画で揶揄も含む反論をしてきたので、その立ち居振る舞いはおかしいんじゃないかと突っ込むと、先方が対応にミスして燃えてしまった、という感じです。実際、その時の役員は逮捕され有罪判決を受けているわけですが、事前にその問題を知った私が通常のIR窓口や子会社役員を通じて「どこまで事実なんですか」と聞いてもきちんと取り合ってくれなかったから記事にしたんですよね。
▼賛否両論になりやすいネタがよく燃える
アシシ:ヤフー個人の特集で読んだんですけど、山本さんは昔探偵のお仕事をされていたんですよね。AppBankを追い詰めるやり方が本当に探偵のようで、はたから見てて非常に興味深かったです。次の世代のために少しでも世の中を良くしたい、という大命題のもとに問題提起していると先ほどの特集記事で読みました。サッカー周りだと、広島のスタジアム問題も似た形ですよね。まだ白黒着いていませんが。
山本:あれは大変ですよ。今まさに中央公園案は、住民の反対の決議出ましたよね。
アシシ:これも賛否両論ですよね。そこに問題提起をして火を着けることによって、みんなが注目し大きなメディアも取材をし始めました。
山本:私に対しても時折「お前は何なんだ」と言われることはちょくちょくあるんですが、議論が必要なことに対してテーマやフックというか、呼び水ですよね。炎上の話題なのに呼び水もいかがなものかと思うんですけれども。
アシシ:問題提起型の他の具体例だと、永江一石さんや朽木(誠一郎)さんが口火を切ってWELQを批判したりしたのもここ最近の大きな騒動でした。
山本:オルタナティブですよね。僕らの話題の筆頭だと、堀江貴文さんとか西村博之さんですね。そこで「問題提起型」は正論なんだけど、賛否両論になりやすいものをわざと仕掛けるというやり方もあるんです。ある問題に対して甲乙対立した時、各々言い分があってどっちが悪いとは言い切れない。例えば、いじめ問題でいじめられる方も悪いとか、LGBTについて性癖なんだから嫌なものは嫌と言ったら燃える。そう考える人がいても世間的には公に言ってはならないポリティカルコレクトネスみたいなものでもあり、心の奥底で思っていてもそれは言ったらあかん、ということで燃えるんですね。
アシシ:最近だとベビーカー論争もこの分類ですね。
山本:その通り。そりゃ混んでる場所だと迷惑は迷惑だよね、でもないとみんな大変だよね、じゃあ線引きはどこなの? みたいな感じで、みんなが寄ってたかって赤組と白組に分かれて言い合う。これが問題提起型の炎上と言われるものだと思うんですよ。すごくカロリーが高くて燃えやすい。しかも、議論は絶対に決着せず、何年も、何十年もループしていく。サッカーメディア関連だと、エアインタビューがそうですよね。ジャーナリズムで捉えたら、そんなことはやっちゃいけませんとなる。ただ、読みものとしてフィクションっぽく読んでいる人は、それはそれで面白いからコンテンツとしてはありなんじゃないのって話になる。
▼エアインタビュー騒動はどちらの言い分も正しい
アシシ:エアインタビュー問題は、昨年の9月にカンゼン社のフットボール批評の告発がトリガーです。田崎(健太)さんの特集記事がいきなりヤフートップを飾って、大問題になった。サッカーキング、サッカーダイジェスト、フットボール批評と分かれたサッカー批評の3誌を標的にして書かれた告発記事でした。海外のサッカー選手、監督のインタビュー記事はほぼねつ造だと。それに対して、ダイジェストとサッカー批評は静観を決め込み、サッカーキングのフロムワンだけが反論記事を繰り出したんですね。フロムワンの岩本(義弘)さん曰く、マンツーマンのインタビューをした上で、試合や練習が終わった後の10分15分の囲み取材の内容を追加して、ちゃんと本人から聞いたもので構成していると。そこから、インタビューの定義の話に論点がずれていきました。
山本:ジャーナルの観点だと、田崎さんの言い分は正しい。取材したことをそのまま展開して初めてそれはジャーナルですよというのはまったくその通りです。でも、サッカーメディアは慣例上、そういう継ぎはぎがアリだったと思うんですよ。今まで許されてきたんだから悪いことだとは思っていない。だから、フロムワン側も正しい。どちらも正しい。ただ、受け手としてはそれのどちらが正しいと思うか、ということですよね。
アシシ:それはジャーナリズムなのか、エンターテイメントなのか、という話になる。
山本:それは外部の人間から見たらエンターテイメントじゃなくて、フィクションですよ。サッカーが好きな人や、サッカーメディアにいる人はエンターテイメントだと思っていても、それ以外の世界にいる人たちは「それってインタビューのでっち上げ、フィクションじゃない?」と思ってしまうわけです。田崎さんは丁寧にそこを突いて論じたわけでして、むつかしい。
アシシ:それこそが、インタビューの定義の認識齟齬と言えます。僕は、別のところで発言していた内容を補足として継ぎ足すのは、編集の範囲内だという意見です。で、去年の年末に更に進展があったんですよ。サッカーキング側が、レアル・マドリーの広報から出してもらったインタビュー証明書をニコ生の番組で出したんです。それ以降のフットボール批評側のカウンターパンチはまだ出ていない、という状況です。
(編集部注:インタビュー収録後の2月6日発売フットボール批評の紙面で証明書に対する検証記事が掲載されました。)
山本:えー、ニコ生でやるのは汚いでしょ、観てないし。なんで、サッカーキングはウェブ上の記事でやり返さないんですかね?
アシシ:ネット上の炎上って制御効かないじゃないですか。業界外の人の目にも止まって、また内輪揉めしてるのかってサッカー界の風評被害を更に広める危険性もある。そういう意味で、これ以上関係者に迷惑をかけたくないとか、そういう背景があるんじゃないかなと。フットボール批評側も9月の騒動以降は徹底して紙面での批判しかしてなくて、ネット記事への転載はないです。
山本:この問題の背景としては、雑誌の誌面を埋めたいとか、読者の興味をうまく喚起したいとか苦心してやってきた結果、そういった継ぎはぎ記事がある意味、常識になっちゃった経緯があるように思います。
アシシ:でも、年末にサッカーキングがニコ生で出してきた証明書は、座りでマンツーマンインタビューを行ったことをレアル・マドリー側が証明する書類でした。
山本:そうなってくるとまた話は変わりますよね。ただ、それなら外部から検証しやすいように普通に画像付きでテキスト記事出してほしいとは感じます。やっぱりニコ生でやるのは卑怯でしょ。
アシシ:単純にカンゼン社の炎上商法に乗りたくないだけなんじゃないですか? ちなみにカンゼンの告発に対して無視を決め込んだ残りの2誌は、あれ以降インタビュー記事そのものが減ったらしいです。
山本:サッカーキングに関しては、情報を追えてないので何とも言えないですが、業界全体としては、自浄作用が働いたと思えば良かったのかもしれないですね。
(後編「キングコング西野亮廣はなぜ燃えたのか? 山本一郎が語る炎上商法の危険性」)
村上アシシ
1977 年札幌生まれ。職業は経営コンサルタント・著述家。外資系コンサルティング企業・アクセンチュアを2006年に退職し、個人コンサルタントとして独立して 以降、『半年仕事・半年旅人』のライフスタイルを継続中。南アW杯出場32カ国を歴訪した世界一蹴の旅を2010年に完遂。Jリーグでは北海道コンサドー レ札幌のサポーター兼個人スポンサー。
ウェブサイト:http://atsushi2010.com/
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近著:海外旅行のノウハウ本『ロジ旅』