1年間でかかった経費は○百万円!? 「サッカーは世界を繋ぐ」を体現した世界一蹴の旅
世界一蹴は自己投資の旅
▼世界一蹴は時代が早すぎた
アシシ:改めて世界一蹴の旅を振り返ると、2009年の段階でツイッターが今みたいに流行っていれば、俺らが世界中で繰り出したネタってもっとバズってたと思うのよね。
ヨモケン:例えばケーヒルに突撃インタビューした奴とかね。
アシシ:最終予選の試合の翌日にメルボルンで開催された握手会で、たった10秒くらいしかない接触タイミングで英語で質問して、ケーヒルの口から中村俊輔と中澤佑二の名前を引き出すとか、奇跡に近いよね(笑)。
ヨモケン:他にも本田圭佑に突撃した動画とか、ガーナサッカー協会に突撃したら日本語流ちょうに話せる理事が登場したり、とにかくネタ盛り沢山だった。
アシシ:今のYoutuberってすごい稼いでるんでしょ。うちらはまだYoutuberっていう単語が存在しない時代に、似たような身体を張ったネタをやっていたわけで、早すぎた(笑)。SNSの普及がもっと早かったら、世界一蹴も違った形で発展していったかもしれないよね。
ヨモケン:でもプラスに捉えるならば、仮にYoutuberになって稼いだとしても、そこに重心掛かり過ぎて、変にジリ貧Youtuberとかになったりするよりかは、今みたいに本業のビジネスに繋げられた方が結果的に良かったかな。当時はそこまで稼ぎに重きを置かずにやっていたからこそ、あれだけ旅そのものを楽しめたと思うよ。
アシシ:たしかに。出発前に書いた企画書には最終ゴールとして、「個人がメディアとなれる時代の到来を我々が身を持って体現すること」って書いてたの覚えてる?
<世界一蹴の旅の企画書>
ヨモケン:超懐かしい!書いたね、これ。
アシシ:伝える手段が「ブログ」しかないし、マネタイズのことは一切書いてないし、プラットフォームがまだ整備されていない時代だった。でも、最終ゴールはある意味、達成されたんじゃないかと。
ヨモケン:最終的には本の出版もできたしね。
アシシ:FC東京サポーターの双葉社の社員が「この世界一蹴の旅を紙の本として残すのが、出版社に勤める僕の使命です」ってすごく前のめりにメールしてきたのを覚えてる。
ヨモケン:形に残せたっていう意味では、紙の本として出版できたのは本当に良かった。7年も前の本だから、もう絶版になっちゃったけど。
▼世界一蹴最大の危機はシドニーでの喧嘩
アシシ:書籍にも載せなかったネタといえば、シドニーで喧嘩したの覚えてる?
ヨモケン:覚えてるよ。あの喧嘩を今、両側の視点から振り返るときっと面白いんじゃない?
アシシ:あのタイミングから2人の付き合い方というか、向き合い方が変わったよね。
ヨモケン:2009年の暮れだったから、ちょうど旅の折り返し地点。
アシシ:南アから10時間以上かけてシドニー着いて、クタクタで超疲れてたんだけど、ホテルまでタクシー使えばいいのに、その時はなぜか公共交通機関使っちゃってね。駅からホテルまでも重い荷物背負って20分以上歩いて、やっとこさホテル着いて、昼寝する前に吉野家食いに行こう!ってなって。
ヨモケン:超米食いてーってなったのは覚えてる。
アシシ:腹も減ったしさっさと行こう!って言ったらヨモケンがちょっと待てと。バックパックに入れてたシャンプーが液漏れして、掃除しなきゃって。そんなの後にして行くぞ!って言ったら、ヨモケンはちょっと待ってよとバックパックを大掛かりに洗い出したの。俺は飯を食いたい、ヨモケンは掃除したい、だったら別行動ね、じゃ行ってくるわってヨモケンに声かけたら、ヨモケンぶち切れ(笑)。
ヨモケン:面白すぎて涙出る(笑)。
アシシ:その前はアフリカを約1カ月旅してて、治安面の問題もあったから2人行動が基本だったんだけど、久し振りに先進国に来たし、なんも別行動でいいじゃんって俺は反論したんだけど、ヨモケンは完全に堪忍袋の緒が切れたみたいで。
ヨモケン:実際は詳細忘れてたんだけど思い出したわ、切っ掛けがシャンプーだったって(笑)。
アシシ:そこから、今までの俺のそういったドライな態度が全部ムカついてたってドバっと吐き出して。人格否定のようなことまで言われて、いや俺は単に牛丼食べに行きたいだけなんだけど、みたいな(笑)。
ヨモケン:そりゃ言われた方は覚えてるよね。俺の方は、言ってすっきりみたいな感じだったんだろうけど。俺はシャンプーを片付けたかったんですよ。俺からするとね、また自分勝手に行動すんのかよ、吉野家行くのくらい、ちょっと待てよって。
アシシ:そこまでの伏線もあってね。アフリカではめちゃくちゃストレスが溜まってたの。マラリアの予防薬を南アの病院で処方してもらって、副作用は悪夢って書いてあって、恐る恐る飲んでたし、実際コートジボワールで蚊に刺されまくって、マラリア発症の恐怖と日々隣り合わせで旅してたわけで。
ヨモケン:積もり積もったストレスがシドニーで大爆発みたいな(笑)。とはいえ、キレたことでお互い思ってることをちゃんと話すことができたし、今振り返ると、あれはあれで良かったんじゃないかなと。
アシシ:そこからお互い、あと半年あるんだから、適度に距離感持って旅をしようって方向性に落ち着いた。
ヨモケン:冷静に考えて、30を超えたおっさんが400日も一緒にいるって、やっぱクレイジーだよ。
アシシ:俺が几帳面で、ヨモケンが大雑把みたいなところはあって、洗面所の使い方とかでもめたりしたよね。
ヨモケン:お笑いコンビでも、テレビでツッコミあって仲よさそうに見えるけど、プライベートは全然一緒に行動しないとか言うじゃない。すっごい気持ちわかったもんね。旅の後半はそんな感じだったから、テレビの取材とか来たら「イエーイ、リベロでーす」みたいな感じでやって、はい終わりですってなったら「お疲れさん」ってあんまり話しない感じで。
アシシ:お互い割り切ったよね。
ヨモケン:割り切ったし、キレちゃった方も悪いと思ってるんだけど、自分が100%悪いわけではないとも思ってる。
アシシ:夫婦喧嘩みたいなもんよ。
ヨモケン:私の話をちゃんと聞いて!みたいな(笑)。
▼ベスト16でパラグアイと対戦するのは運命だった
アシシ:旅の後半は割り切って旅したと言えども、オセアニアの後に上陸した南米大陸は旅のハイライトだったと思うんだよね。
ヨモケン:南米ではNHKの密着取材を受けたし、今でもFacebookで繋がっているラテンメリカの友達もいる。
アシシ:個人的にはパラグアイがすごく思い入れがあって。南米サッカー連盟を表敬訪問したよね。写真あるわ。
<南米サッカー連盟のオフィスで当時のレオス元会長と記念撮影>
ヨモケン:このレオスさん、FIFAの汚職事件で数年前に逮捕されちゃったよね…。
アシシ:この他にも首都アスンシオンにあるナショナルスタジアムを見学させてもらったり。
<なぜかスタジアムの中に入れてもらえた>
ヨモケン:当時は世界一蹴オリジナルTシャツをインターネットで販売しつつ、その収益で世界中の貧しい子供たちにサッカーボールを届けるっていうチャリティー企画やってたよね。パラグアイでは青年海外協力隊の人たちに協力してもらって、超ド田舎の村に行ったの覚えてる。
アシシ:その時の写真あるよ。
<パラグアイの農村で裸足の子供たちにサッカーボールをプレゼント>
ヨモケン:後ろに映ってる牛が何ともシュール(笑)。
アシシ:子供たちは靴すら持ってなくて、こんな真新しいサッカーボールは獲り合いになっちゃうから村長にボールを預けようってなったの。そん時の写真がこれ。
ヨモケン:これまた懐かしい。ザ・村長って感じ(笑)。
アシシ:夕方に牛の放牧地で子供たちとサッカーした後、家族にもてなされて、夕飯をご馳走になったの。その時はまだ日本代表がパラグアイ代表とワールドカップ本戦で、しかも決勝トーナメントであいまみえるなんて全く想像してなかったし!
ヨモケン:ここまで思い出深いパラグアイと本番で対戦することになるとか、俺らにとってはまさに運命のような組み合わせだった。一緒にサッカーした子供たちもビックリしただろうね。きっとあの子たちも、ワールドカップはテレビのある場所に移動して観戦しただろうし。
アシシ:友達に「日本代表の選手がサッカーボール届けてくれたんだぞ!」とか変に誇張して自慢してたかもしれない(笑)。
ヨモケン:そういう意味では本当に貴重な経験をしたし、対戦相手への思い入れも含めて、リアルにワールドカップを32倍楽しめたよね。チャリティーTシャツには”Football unites the world”って標語をデザインしたんだけど、それこそ「サッカーは世界を繋ぐ」ってのを証明した旅だったと思う。
▼100回搭乗した航空券代は合計220万円
アシシ:話は変わるけど、俺は世界一蹴の旅をひとつのプロジェクトに見立てて、エクセルで進捗管理、課題管理、予算管理を日次で回してた。
ヨモケン:アシシは本当にマメだったよね。
アシシ:結局、ひとりあたり600万かかったからね。1年と1カ月、400日旅をして合計600万円。
ヨモケン:1日平均で1万5千円使ったのね、リッチだね。
アシシ:最後、1カ月間の南アワールドカップも含めているから。観戦チケットだけで15試合見て約30万円かかってるし、ワールドカップに総額1人100万円突っ込んでるから。
ヨモケン:でもそんなもんだよね。聞く人によって600万もかかるんですかっていう人も多かったけど。
アシシ:たしかに欧州や北米の物価高いとこを避けて、宿もドミトリーとか安い路線を攻めれば、1年間総額200万円で世界一周してる旅人もいた。
ヨモケン:うちらは発展途上国で沈没とかせずに、ひたすら世界中を飛び回ったわけだから。
アシシ:飛行機は合計100回乗ったのよ。経由便だと2回カウントするんだけど、平均すると4日に1回は飛行機乗ってる形。乗り過ぎでしょ(笑)。
ヨモケン:陸路での移動なんて、ほとんどしなかったからね。料金よりも時間短縮重視。
アシシ:管理エクセル見ると、航空券だけで220万かかってる。32カ国周遊といっても、出場しない国もなんだかんだ回ったから、合計すると40カ国くらい訪問してる。全部で13カ月の400日だから、平均すると1カ国10日間滞在。国境跨ぎの移動はほぼ9割方が空路だから、逆に航空券1路線平均22,000円で済んだのがすごい。
<会計エクセル>
ヨモケン:このエクセル見ると面白いね。ギャンブルのマイナスって何?
アシシ:これは経費エクセルだから、マイナスの経費=勝ち分。世界のカジノで合計6万円儲かったってこと。
ヨモケン:なるほど。宿泊費と飲食代がそれぞれ、1日平均2,500円いってないのは意外。結構節約してたね。
アシシ:ツインルームの相部屋によく泊まってたし、飯もふたりでシェアすると安く済んだ記憶ある。
▼世界一蹴は自己投資の旅
アシシ:それにしても600万円もかけて、人にはよくもまあそんな遊びにお金使ったねって言われるけど、うちらは浪費じゃなくて投資だと思ってる。
ヨモケン:まさにそれ。完全にペイしてるからね。人生経験という意味でも、あれは明らかに600万円以上の価値があった。
アシシ:俺も既にサッカー回りの稼ぎでは、投資分の回収は済んでるし。セルフブランディングって言葉、俺は嫌いだけど、世界一蹴をやり切ったからこそ、今サッカーの分野で文章を書く仕事ができていると思っているし、自分のブランドを確立する旅だったよね。
ヨモケン:俺もグローバル人材を育成する研修をビジネスとして今やってるわけだけど、その時の説得力の観点でいうと、世界一蹴の話は鉄板なわけですよ。
アシシ:たしかに客にはウケるよね。
ヨモケン:うちのクライアントはいわゆる大手企業が多くて、研修講師が一体どういう経歴を持っているのかってのをまず見てくるわけだけど、そこで世界一蹴の話を出すと、とりあえず掴みはオッケーみたいな感じにはなる。もちろん、元々同じような大手企業で働いていたり、海外で働いていたことも大事なのだけど。
アシシ:世界一蹴の旅を終えて7年経ったけど、ヨモケンは今後どうしていきたいとかビジョンみたいなものはある?
ヨモケン:ズバリ、日本サッカー界におけるサッカーファミリーのグローバル化に取り組んでいきたいと考えてるんだよね。今Jリーグの何個かのクラブと提携して、海外研修のプログラムを展開しているところ。Jリーグのクラブの社員はやっぱりまだドメスティック志向が強くて、アジア戦略の話とかしても、大半のクラブは良いリアクションがない。これは一般の企業のそれと大した差がないと思ってて、状況はすごく似ていると思う。
アシシ:週末のホーム戦の集客とか運営で手一杯で、視点をひとつ上にあげた新しいビジネスの創出とかに、まとまった工数を捻出できないんじゃないの。
ヨモケン:それはどのクラブも同じでね。目先のことにどうしても追われてしまうし、それはそれですごく大切なことだから、それを否定しようとは思わないよ。ただ、じゃあ長期的に見て、それで本当にいいの?というと、おそらくみんなダメだって分かってるわけ。これもまた一般企業と同じ状況ね。ただ、Jリーグの場合、クラブがそういう状態だったら、リーグ自体が人材教育や人脈提供でサポートしたりできるよね。僕自身は外の存在だけど、そんな形で力になれればいいなと。
アシシ:なるほど。
ヨモケン:Jリーグのクラブって、サッカーの本当の価値をまだわかってないところが多い。Jリーグのコンテンツバリューはアジアでは徐々に高まってきてるんだけど、じゃあ東南アジアでどうやってビジネスを展開していくかって話になると、ポカンってなるスタッフが多い。
アシシ:じゃあヨモケンはそこの橋渡しを今後頑張りたいと。
ヨモケン:まずは日本サッカー、もしくはJリーグのアジア進出、グローバル化の手助けをしたいなと。
アシシ:だったら、「北海道とともに世界へ」っていうスローガンを掲げてるコンサドーレのスポンサーやるところからまずは始めよう!
ヨモケン:またコンサドーレの営業の話ですか(笑)。検討しとくよ。
アシシ:長々と話してきたけど、来年のロシアワールドカップは行くの?
ヨモケン:何試合かは行くとは思うけど。
アシシ:お互い別路線を歩むことになっても、なんだかんだ4年に1度の世紀の祭典で再会するからね俺たちは。
ヨモケン:俺にとってワールドカップは人生のマイルストーンですから。
アシシ:今日は、日本出張の限られた時間の中、ありがとね。
ヨモケン:次はロシアで会いましょう!