J論 by タグマ!

「2ステージ制」。このレギュレーションに注目せずしてセカンドステージは語れない

今のところCS(チャンピオンシップ)出場を決めているのは浦和のみ。したがってセカンドステージは、その浦和への「挑戦権」を争う闘いと見てもいい。

7月11日からいよいよJリーグ・セカンドステージが開幕を迎える。今回はこのステージ開幕に焦点を合わせ、「セカンドステージ、私はあえて○○に注目する」ということでお送りする。第2回目は広島の熱血記者・中野和也が今季採用された特殊なレギュレーションへ思いを馳せる。

▼どこが浦和と当たれば面白いのか
 浦和がファーストステージの優勝を決めたことは、「チャンピオンシップ」への出場権を得たという意味でしかない。ステージ優勝を「タイトル」というのであれば、広島は2012年のJ1制覇が「初タイトル」ではなくなるし、清水は既にリーグ優勝を経験していることになる。浦和のJ初優勝も、2006年ではなくセカンドステージ制覇の2004年なんてことになってしまう。

 とはいえ、今のところCS(チャンピオンシップ)出場を決めているのは浦和のみ。したがってセカンドステージは、その浦和への「挑戦権」を争う闘いと見てもいい。もっとも、浦和にしてもまだ年間1位の座が約束されたわけではなく、シード権を得たわけではない。なので本来「挑戦」という言葉はまだ早いが、ここでは便宜上、そういう表現を使わせていただく。

 ただ、戦力的なことや戦略的なことを語るよりも、ここは「どのチームと浦和がCSで戦えば面白いか」を考えてみたい。ここで言う「面白い」とは、サッカー的な文脈は外れる。むしろ、「プロレス」的な視線だと感じてもらった方がいい。

▼広島との深き因縁
 対浦和との決戦で、もっとも「書きやすい」材料がそろっているのは、もちろん広島である。1999年11月23日の「世界一哀しいVゴール」=浦和のJ2降格時の対戦相手が広島だったことから、もしかしたら「因縁」は始まったのかもしれない。

2004年、闘莉王が浦和へ移籍。

2010年、柏木陽介が浦和へ移籍。

2012年、ペトロヴィッチ監督が浦和で指揮をとる。槙野智章、浦和へ移籍。

2013年、森脇良太、浦和へ移籍。

2014年、西川周作・李忠成、浦和へ移籍。

2015年、石原直樹、浦和へ移籍。

 ペトロヴィッチ監督が広島の財政難によって契約延長を見送られて浦和に「移籍」して以来、広島と浦和のリーグ戦対戦成績は、ペトロヴィッチ監督が対広島戦用にスペシャルな対応策を準備したこともあって5勝1分1敗と圧倒的に浦和が勝ち越している。ただ、タイトルは監督と多くの選手が広島から移籍した浦和は2007年のACL以来遠のいており、広島は2012・13年とJリーグ連覇を達成。昨季もリーグ戦では浦和が連勝しているのに、ナビスコカップ準々決勝ではアウェイゴールの差で広島に勝ち抜けを許してしまった。それでもリーグ戦で柏木が移籍した2010年以降、初めて広島を順位で上回りながら、優勝までは辿り着けなかった。

 広島を率いる森保一監督は「リアリストと呼ばれたい」と語っているが、正確にはサッカーのロマンとリアルの融合をバランスよく構築することに長けている。リアルだけでは求心力が落ちるし、ロマンだけでは勝てない。ただ、現役の頃からリアリズムに満ちた守備をストロングポイントとしてきた森保一にとって、「ロマン」の部分は明白にミハイロ・ペトロヴィッチから学んでいるし、現実に今も練習方法のベースはペトロヴィッチ式を踏襲している。

 つまり、広島の若き名指揮官は浦和の天才的監督の直系の弟子と言えるだろう。彼は今も「ミシャさん」と呼んで尊敬の念を隠さない。その弟子の挑戦を、直接対決ではことごとく跳ね返してきた師・ペトロヴィッチだが、タイトルには弟子に先んじられてきた。

 そんな複雑に絡み合った人間模様が織りなす因縁の物語が、どんな結末を迎えるのか。浦和と広島とのチャンピオンシップでの闘いが現実化したならば、様々な角度、様々な視点で切り取ることができる。正直、個人的にはあまり実現してほしくはない対決だが、CSで優勝するには広島は浦和との対決を避けるわけにはいくまい。

▼2ステージ制が生む特殊な可能性
 では広島以外なら、どんなチームが「面白い」のだろう。

 たとえば、ファーストステージ最下位の清水がセカンドステージで逆襲を果たして優勝し、そのままの勢いでCS決勝に進出するといったストーリーはどうだろう。かつてプロ野球では千葉ロッテがシーズン3位から日本シリーズ優勝を果たして「史上最大の下克上」と話題になったが、清水がもし浦和などを破ってリーグ優勝を果たしたら、まさに「史上最大」である。

 当然、「それはさすがに……」と思う向きもあるかもしれないが、清水はもともと個々のタレントは豊富。鄭大世が加入し、ピーター・ウタカや大前元紀らといいコンビネーションが構築できたとしたら、十分に巻き返しは可能。そして、2ステージ制の「醍醐味」があるとするならば、こういう「大逆転」が可能になることだ。そのレギュレーションが正しいかどうかは別として。

 もっとも過去の事例から考えれば、そこまでの「大逆転」はさすがにない。だが1994年の平塚(現湘南)はファーストステージの12チーム中11位から、セカンドステージは2位にまで躍進している。2001年は広島がファーストの13位(16チーム)からセカンドは3位に這い上がった。

 1997年はファースト6位の磐田がセカンドで優勝し、そのままCSも制した。2000年はファースト8位の鹿島がセカンド・CSで優勝。その鹿島は2001年にはファースト11位からセカンド・CSを制してもいる。一方で、1999年の磐田はファースト優勝を果たしたもののセカンドは11位。年間勝点でも6位に沈んだのに、CSで年間勝点1位だった清水に勝利し、タイトルを手にしている。

 こういうドラマ性がないのなら、正直、2ステージ制などやる意味もない。メジャーリーグベースボールでは、ワイルドカード(地区2位以下のチーム中勝率の高いチーム)でプレーオフに進出、そのままワールドステージ優勝を果たしたチームがある。失敗のリカバリーがなかなか難しい日本社会にあって、「失敗しても次がある」というセカンドチャンスをスポーツの場面で用意することが、悪いことなのかどうか。それはもちろん「最強とは何か」という議論につながる。

 あえてこのプレーオフ制度の味方をするならば、2003年のセカンドステージ、横浜FMと市原が勝ち点で並び、得失点差4の差で横浜FMが優勝を果たした。だが、得失点差4という差は、果たして優勝と2位ほどの絶望的な大差をつけるべきものなのか。得点がとりにくいというスポーツ上の性質から当たり前のように順位づけに使われるが、大量得点・大量失点の試合には多分に運の要素が強くなる。むしろ、勝点が並んだ場合は得失点差関係なくプレーオフを戦った方が、「最強」を決められるのではないのか。

 筆者は2ステージ制賛成論者では決してないのだが、一方で「レギュレーションに完璧なものはない。だったら、楽しんだもの勝ち」という感覚もある。セカンドチャンスが用意されているレギュレーションであれば、清水だけでなく、新潟や山形にも、浦和以外の全てのチームにCS出場のチャンスがあるわけだ。ドラマチックな可能性があるのならば、いっそのこと、そのドラマ性を思う存分楽しみたい。

 よく「2ステージ制はわかりづらい」という評判を聞く。確かに、CSのシステムはそうかもしれない。ただ、「ステージ優勝か年間3位以内のチームがCSに進出する」という定義そのものはわかりやすい。ここ最近、当たり前のように言われていた「リーグを圧勝するビッグクラブの存在がACL勝ち抜けに必要」という主張も、今季のACL東アジア地区ベスト4(全体のベスト8)をいまだビッグクラブの誕生していないJリーグ勢が半分占めた(G大阪と柏)ことで、その主張の信頼性は失った。

 同じように、2ステージ制の議論はこれからの実績次第によって変わっていく可能性もある。まずはセカンドステージ。シーズン半分の時点で全チームに優勝のチャンスがある新しいレギュレーションを素直に楽しんでみたい。

中野 和也

1962年3月9日生まれ。長崎県出身。居酒屋・リクルート勤務を経て、1994年からフリーライター。1995年から他の仕事の傍らで広島の取材を始め、1999年からは広島の取材に専念。翌年にはサンフレッチェ専門誌『紫熊倶楽部』を創刊。1999年以降、広島公式戦651試合連続帯同取材を続けており、昨年末には『サンフレッチェ情熱史』(ソルメディア)を上梓。今回の連戦もすべて帯同して心身共に疲れ果てたが、なぜか体重は増えていた。