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モンテディオ山形、厳しい戦いは覚悟の上。24番目のチームが打ち続ける残留への布石

J1昇格プレーオフを勝ち抜いてJ1復帰を果たしたモンテディオ山形の今後の青写真を、山形の番記者・佐藤円が斬る。

今季から2ステージ制が採用されたJ1リーグだが、残留・降格のラインはあくまで年間成績で決定される。全34節の内15節を終えた段階で、サバイバルレースの行方も見えてきた。今回は下位に沈む4チームと監督交代により最下位から残留圏に急浮上してきた甲府にスポットを当てていく。第3回目は、J1昇格プレーオフを勝ち抜いてJ1復帰を果たしたモンテディオ山形の今後の青写真を、山形の番記者・佐藤円が斬る。

▼現在16位は想定内中の想定内
 石﨑信弘監督が事あるごとに口にしてきたフレーズがある。「ワシらはJ2・6位で昇格した24番目のチーム」。その前提に立ち、4シーズンぶりに戻ってきたJ1で掲げた目標は「J1残留」。まったく欲目・色気のかけらもない、”そのまんま”の目標だ。

 ただし、目標設定が消極的なわけではない。J2の3番手で昇格したクラブがJ1でどれだけ厳しい目に遭うかは、石﨑監督自身、2012年の札幌時代に嫌というほど味わっている。また、過去にプレーオフを勝ち上がり昇格したクラブが2勝(13年、大分)と3勝(14年、徳島)だった前例もある。シーズンを通して厳しい戦いが続くことはすでに折り込み済み。覚悟は十二分にできている。

 ゆえに、現在の16位という順位は想定内中の想定内。むしろ、今後この順位が上がっても不思議ではない手応えは、ベーシックなデータを見ただけでも確認できる。

 15試合を終えて3勝5分7敗。勝ち点は先の大分、徳島が年間で記録した14にすでに並んでいる。敗れた7敗のうち、1点差が5試合。残り2試合もスコアは0-2。「どの試合、どの相手でも勝てない試合はなかった」という石﨑監督の言葉は、決して虚勢を張ったものではない。

 総シュート数154(10位)、被シュート数150(8位)という数字にも、戦えている実態が表れている。

 シュート数は、先制した相手が攻撃の蛇口を絞るケースがいくつか見られ、結果として相手よりもシュート数で上回るパターンも多いが、反撃に打って出てしっかりシュートチャンスを作れていることは事実。また、被シュート数8位も、自陣にリトリートしての結果ではなく、積極的にボールを、しかもできる限り高い位置で奪いに行くスタイルを貫いた上での結果だ。

 さらに、喫した失点の総数は16で、順位は6位タイまで上がる。ほぼ1試合1失点、安定したペースで守備が実践できていることが分かる。守備陣に長期離脱者が相次いだ中では予想以上の成果と言える。ただし、総得点となると12得点で17位といきなりのワースト2。自分たちのスタイルで競った試合に持ち込み、安定した守備で試合が壊れることもない。あとは得点が取れれば……というのが現状だ。そして、それこそが残留のボーダーラインの下に順位が位置している理由とも考えられている。

▼安定した守備と少ない得点数の関係性
 そもそも、安定した守備と得点の少なさは無関係ではない。第9節以降先発に定着し、現在2得点のFW林陵平が語る。

「(前線の選手も含めて)前からプレスをかけることによってパスコースを限定しているというところはある。守備が失点0だから守備の人だけということでもないし、攻撃が0点だから攻撃の人(の責任)だけじゃないと思う」。

 チームのスタイルとして前線からの守備が求められているが、1トップ2シャドーで連動してプレスがかかっている場合は大きなピンチは少なく、逆に前線からの守備が機能しないと自陣で危ないシーンが増える傾向にある。守備面でも大きな役割を求められていることが攻撃面の負担になることを林も否定はしないが、「守備の部分を見てもらいたいというのはあるが、自分はFWなので、得点を決めないといけないという部分はしっかり自覚している」と、その中でも得点を奪っていかなければいけないことも自覚している。

 前線の1トップ2シャドーはユニットを3つ作れるほど人材が多く、競争も激しい。しかし過去にJ1で確たる実績を残しているのはディエゴ、山﨑雅人くらいであり、その二人も”最盛期”から数年のブランクを経ている。個の能力で勝負するには厳しいというチーム事情も、「全員守備」を目指さなければならない背景にある。石﨑監督も「あれだけディフェンスして点を取れというのも酷かもしれないな。それだけのディフェンスをした上で点を取らないと、ウチでは試合に出られない」と明言している。

▼ライバルには勝ち切れない現状
 ここまで複数得点の試合は3試合。つまり、先に点を奪われるとその時点で勝つことが相当に難しくなる。そうした事情も「まずは守備」の大前提につながっている。前節・鹿島戦は先制されたあとに逆転した初めてのケースだったが、終盤の86分に追い付かれてドローに終わっている。この終盤での失点も、チームが抱えている大きな課題の一つだ。

 石﨑監督は攻守においてハードワークを求め、攻撃に関しても得点力を高めるため、奪ったあとは相手が守備の陣形を整える前に攻め切ることを目指している。どの時間帯、どの状況であっても、ボールを保持することそれ自体を目的とするポゼッションを好まない。試合の終盤には多少なりとも疲労が蓄積するが、そうした状況で相手がフレッシュな選手を投入してきたり、得点を奪いに前がかりに攻撃をしかけてきたときに、それをはね返すだけの力がない。

 15分ごとの失点数を見ると、31分以降は0が続いているが、76分以降に7と突如総失点数の半分近い失点をこの時間帯に喫していることが分かる。この時間帯に耐えきれれば川崎F戦や横浜FM戦のように1-0の試合が実現できるが、その確率をより高める必要に迫られてる。

 チームの傾向をもう一つ挙げれば、下位のチーム、つまり残留争いのライバルとなるチームから勝ち点を奪い切れていないことがある。

 ここまで3勝した相手は、現時点での順位で5位・横浜FM、6位・川崎F、15位・柏。その一方で、現在ともに降格圏の清水、新潟、14位・松本とはドローとなっている。

 ハイプレスを狙う山形にとっては、つないでくるチームは与しやすく、逆にロングボール主体のチーム相手では、プレッシャーをかける前に蹴られることで、最終ラインを下げさせられ、間を使われ、奪ったあともゴールから遠いという戦術的なマイナス要素は確かにある。しかしそれ以外に、下位との対戦では切り替えの速さやカバーリングのポジションなどでやるべきことをやり切れていないケースも多い。石﨑監督が「強いチーム相手だとあれだけ頑張れるのに…」と漏らしたこともあった。

▼得点力アップという不可避の課題
 残り19試合。ここまでの方向性は間違いではなく、残留の可能性も十分に残されているが、「頑張って競った試合をしている」状況を一つでも多く勝ち点3につなげるには、得点力のアップは避けて通れない課題だ。登録ウインドー再開をにらみ、補強をすることになれば得点力が期待できる選手ということになりそうだが、その場合でも、攻守にアグレッシブなスタイルを維持・発展させ続けることが大前提となる。

 5月に負傷した伊東俊の今季中の復帰は難しいが、それ以外のメンバーはリーグ戦再開までには大方そろうメドが立っている。「ワシは試合よりも練習が好き」と公言する石﨑監督の下で、選手たちが明るく、激しくトレーニングを続けることこそが、山形の何よりの秘策だ。

佐藤 円(さとう・まどか)

1968年生まれ、山形県鶴岡市出身。山形のタウン情報誌編集部時代の1995年に、当時旧JFLのNEC山形(モンテディオ山形前身)を初取材。2005年より「J’s GOAL」、06年から「EL GOLAZO」でモンテディオ山形を担当している。