J論 by タグマ!

数字が語るACL。Jリーグ勢最大の敵は広州恒大にあらず。

普段のJ1リーグでさえ、観客動員数や注目度が十分とは言えないが、ACLはその十分とは言えないJ1リーグよりもさらに下である。

▼ラウンド16に至る過密スケジュール
 今年のACLは「広島と川崎FとC大阪の3チームがベスト16、ベスト8に進出したチームはゼロ」という結果に終わった。広島と川崎Fはアウェイゴールの差に泣く形の敗戦で、本当に「紙一重の全滅」だったと言える。

 日本勢全滅の理由はいくつか考えられるが、今季に関しては過密日程の影響がまず大きかった。W杯イヤーなので仕方ない面もあるが、ACLのグループステージを突破した広島と川崎FとC大阪の3チームは4月11日(金)と4月12日(土)に行われたJ1第7節から、5月17日(土)と5月18日(日)に行われたJ1第14節まで、J1の試合が7試合で、ACLの試合が4試合。ミッドウイークも休みなしで11連戦を戦い、選手はヘトヘトになっていた。

 ACLでグループステージを突破すれば、超・過密日程になることは最初から分かっていた。そして、広島も、川崎Fも、C大阪も、J1の中では選手層の厚いチームではあるが、サブ組中心でJ1の試合やACLの試合を勝ち抜けるほどではない。結局、一部の主力はリーグ戦・ACL共に出ずっぱり。4月上旬に行われた日本代表候補合宿に参加した選手に至っては、3月下旬からほぼ休みなしで試合や合宿をこなすことになった。

「日程に関して、もっとJリーグ側が考慮すべきだった」という意見も耳にする。だが、配慮はされている。移動を楽にするためにキックオフ時間を調整する、あるいは「原則土曜開催」という決まりから外れて、ACL組に関しては金曜日や日曜日に試合を行うようになった。数年前と比べると、「ACL組に頑張ってほしい」という思いが感じられる日程になっており、融通も利くようになってきている。協力体制は築かれていると思うし、現状ではこれが精一杯なのだろう。

 そうは言っても、グループステージの終盤戦とラウンド16付近の試合くらいは、J1の試合を延期できなかったのか?という思いはある。例えば、ACLのグループステージ第5節と第6節の間に行われるJ1第8節の試合を延期し、中6日程度でACLの第6節を戦うことができたら、勝てるチャンスは大きくなったはず。同様にACLのラウンド16の1戦目と2戦目の間に行われるJ1の第11節の試合が延期になったとしたら、ラウンド16の2試合目は幾分マシな状態で戦うことができたに違いない。

▼4クラブ中3クラブは平均で1万人未満
 最終的にお金の話につながってしまうのは寂しいところであるが、単純にACLの試合はお客さんが入らず、注目度も低い。そこにも大きな問題がある。普段のJ1リーグでさえ、観客動員数や注目度が十分とは言えないが、ACLはその十分とは言えないJ1リーグよりもさらに下である。この状況で、「もっとガンバレ」「もっとACLに力を注ぐべきだ」「ACLに本気で立ち向かっているとは思えない」と評するのは酷というもの。リーグ戦とACLと日本代表の3つが並存する中で、どうしてもプライオリティーが低くなってしまうのがACL。ハイリスクでローリターンという現実があるのだ。

 ACLの観客動員の少なさは、はっきりと数字に表れている。日本から出場した4チーム(広島・横浜FM・川崎F・C大阪)のグループステージの3試合ならびにラウンド16のホーム戦(※グループステージで敗退した横浜FMは除く)における観客動員数を表にまとめると、【表1】のようになる。日本から出場した4クラブで、平均1万人を超えているのはC大阪だけ。広島と横浜FMと川崎Fの3チームは1万人に届いていない。

 C大阪の場合、ラウンド16初戦の広州恒大戦(ホーム)がゴールデンウィークの最終日となる5月6日(火)だったので、その点で少し有利だった。それでも、17,612人である。ACLがなかったら、(恐らく)ヤンマースタジアム長居で川崎Fと対戦することになったはずだが、この試合は「柿谷 vs 大久保」という感じで煽ることもできただろう。天気さえ問題なければ、3万人以上は楽に動員できていたのではないか。17,612人というのは、本来動員が伸びる時期であるゴールデンウィーク中ということを考えると、実に寂しい数字と見るべきだ。

【表1】
ACLの平均観客動員数(グループステージ+ラウンド16)

1戦目 2戦目 3戦目 ラウンド16 平均
広島 6,021 6,281 9,778 8,423 7,626
横浜FM 12,230 7,395 7,110 8,912
川崎F 9,609 10,943 9,338 9,161 9,763
C大阪 11,865 11,259 12,037 17,612 13,193

▼根本的な敗因は「関心の低さ」にある
 では、他国のクラブはどうだろうか?

 中国の4チームはかなりの動員数だ。【表2】は東地区16チームのホーム戦における平均観客動員数を多いチームから順番に並べたものである。1位から4位までを中国のクラブが独占しており、日本勢は6位のC大阪が最高で、川崎Fは9位、横浜FMは11位、広島は14位という結果だった。そして、【表3】のように国別で比較すると、韓国勢よりも1000人以上多くなっているが、中国勢と比べると1/3以下となる。

【表2】
東地区16チームの平均観客動員数(ホーム戦)

1 2 3 ラウンド16 平均
1 広州恒大 中国 39,841 39,987 39,874 38,431 39,533
2 北京国安 中国 33,813 32,198 36,738 34,250
3 山東魯能 中国 26,365 32,817 26,379 28,520
4 貴州人和 中国 21,184 16,120 25,161 20,822
5 全北 韓国 8,328 18,974 12,891 19,327 14,880
6 C大阪 日本 11,865 11,259 12,037 17,612 13,193
7 ブリーラム タイ 10,610 14,029 14,266 12,968
8 ワンダラーズ 豪州 11,212 9,292 11,099 10,639 10,561
9 川崎F 日本 9,609 10,943 9,338 9,161 9,763
10 FCソウル 韓国 6,491 8,897 9,562 12,287 9,309
11 横浜FM 日本 12,230 7,395 7,110 8,912
12 メルボルン 豪州 6,128 6,357 13,120 8,535
13 浦項 韓国 10426 5,368 3,714 13,155 8,166
14 広島 日本 6,021 6,281 9,778 8,423 7,626
15 CCマリナーズ 豪州 2,168 3,316 4,118 3,201
16 蔚山現代 韓国 2,535 3,150 2,500 2,728

【表3】
国別のホーム戦の平均観客動員数(グループステージ+ラウンド16)

試合数 平均
中国 13 30,781
タイ 3 12,968
日本 15 9,873
韓国 15 8,771
豪州 10 7,432

 普段からこれくらいの観衆しか入っていないのであれば、これはどうしようもない。しかし、そういうわけではない。

【表4】にあるとおり、C大阪は今シーズンのJ1のホーム戦では平均25,034人を動員しているが、これは平均34,427人の浦和(=リーグ1位)、平均25,222人のFC東京(=リーグ2位)に次ぐJ1では3番目の多さ。だが、ACLの4試合では平均13,193人となって、リーグ戦の52.7%となる。リーグ戦に対する率に着目すると、日本の4クラブの中でもっとも高かったのは川崎Fで61.6%。C大阪が52.7%で、広島が48.1%で、横浜FMが38.4%なので、日本の4チームのトータルでは49.4%となる。

 一方、韓国のクラブはどうか。平均では日本が9,874人で、韓国が8,771人となるので、数的には日本が上回っているが、率では、全北が141.4%で、浦項が91.8%で、FCソウルが62.4%で、蔚山現代が42.9%で、4チームのトータルでは86.2%となる。韓国のクラブも平日開催中心のACLの集客で苦労しているのは間違いないが、落ち込み率は日本のクラブより小さく、全北のように「ACLの試合の方がたくさんのお客さんを集めている」というチームもある。

 ACLは基本的には火曜日か水曜日の平日に行われるので、この点は大きなハンディなのだが、日本の場合、落ち込み率が大きすぎるし、ラウンド16のC大阪がそうだったように、たとえ休日に試合がめぐってきても、やはり動員は悪い。ACLになると、普段のリーグ戦の半数程度になってしまうのだ。これは頭の痛い話で、普段のJリーグの試合のときに感じる華やかさもなくなり、閑散としたスタジアムでACLの試合が行われることも珍しくない。

【表4】
日本の4クラブのACLとリーグ戦の平均観客動員数の比較 (2014年)

ACL リーグ戦
川崎F 9,763 15,858 61.6%
C大阪 13,193 25,034 52.7%
広島 7,626 15,860 48.1%
横浜FM 8,912 23,202 38.4%
9,874 19,989 49.4%

【表5】.
韓国の4クラブのACLとリーグ戦の平均観客動員数の比較 (2014年)

ACL リーグ戦
全北 14,880 10,525 141.4%
浦項 8,166 8,893 91.8%
FCソウル 9,309 14,908 62.4%
蔚山現代 2,728 6,361 42.9%
8,771 10,172 86.2%

【表6】
日韓の8クラブのACLとリーグ戦の平均観客動員数の比較 (2014年)

ACL リーグ戦
全北 韓国 14,880 10,525 141.4%
浦項 韓国 8,166 8,893 91.8%
FCソウル 韓国 9,309 14,908 62.4%
川崎F 日本 9,763 15,858 61.6%
C大阪 日本 13,193 25,034 52.7%
広島 日本 7,626 15,860 48.1%
蔚山現代 韓国 2,728 6,361 42.9%
横浜FM 日本 8,912 23,202 38.4%

「Jリーグのクラブにもっと頑張ってほしい」、「ACLで好成績を残してほしい」と思うのであれば、サポーターもしっかりとバックアップしなければならないと思う。一般の人がACLに対して総じて無関心で、(J1のリーグ戦と比べて)魅力的なコンテンツになっていない。これはJリーグの試合と比べてはるかに少ない、ガラガラのスタンドが如実に物語るとおりだ。

 結局のところ、ACLは注目度が低くて、お客さんも集まらなくて、お金にもならない。結果、日本サッカー界にとっても、Jリーグにとっても、各クラブにとっても、最優先させるべきコンテンツにはなっていない。それが現実だ。11連戦など選手に過度な負担を強いるのも、結局は何かを犠牲にしてまで獲りにいく価値をACLに見出せていないからだろう。「好成績を要求するが、支援はしない。結果が出なかったら、鬼の首を取ったかのように精神論で批判する」という人が多いのが現状である。

「なぜ勝てないのか?」というのが今回のテーマであるが、問題や理由がたくさんあることは、誰しもが理解していると思う。となると、「どこから手を付けるべきか?」というのが悩みどころになるが、コアなファンであっても、+αのお金を払わないと、ほとんどACLの試合を観ることができない点をまず改善しなければならないと思うし、そうでなければ、スタジアムに集まるお客さんも増えてこないだろう。

 対戦相手についても、ACLという大会自体に関しても、「全然、馴染みがない。」という人が、余りにも多すぎる。結局のところ、Jリーグ勢の根本的な敗因は、ACLを重視し切れない「関心の低さ」にあるのではないだろうか。


藤本雅幸(ふじもと・まさゆき)
1980年3月生まれ。福井県出身で、滋賀県在住。「サッカーコラム J3 Plus+(http://llabtooflatot.blog102.fc2.com/)」というサイトの管理人で、「たくさんJリーグの試合を観ること。」をモットーに活動している。電子工学科卒で、電源トランスをつくることが特技。バリバリの理系だったが、先日、文系に転身した。【J論】にて、本格的なライターデビューを果たす。