J論 by タグマ!

「全勝」あるのみ。W杯予選アジアロードは、新指揮官の見せ場でもある

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6月1日、ハリルホジッチ監督はロシアW杯アジア予選に向けて日本代表メンバーを発表した。この顔ぶれから見えたものは何か。またW杯予選に期待することとは? それぞれの識者が新生日本代表を語り倒す。第2回目はベテランジャーナリスト・後藤健生が独特の要素があるアジア予選における「見せ場」を語る。

▼2次予選の内に、日本が強いことを示せ
 ロシアW杯に向けての2次予選が目前に迫り、代表メンバーも発表され、ようやく「本番ムード」も高まってきた。

 2次予選の目標は、僕はズバリ「全勝」だと思う。同組に入った4か国と日本との実力差は歴然としている。「突破」は当然のことである。

「予選に楽な試合はない」とか「アジアの実力も上がっている」などと言う人もいる。どちらも、ある意味では真実であるが、しかし、ある意味では誤った考え方だ。やはり、実力差はあるのだ。ブラジルやスペイン、ドイツと戦うのと、シンガポールと戦うのではまったく異なった戦いとなる。アジアカップならベスト4はノルマだが、W杯ベスト4は「夢」でしかない。

 アジアの中では日本の実力は突出している。準々決勝敗退となった1月のアジアカップを見ても、日本、オーストラリア、韓国と他の国々との間には大きな差があった。

「アジアの実力も上がっている」のは、ある意味で本当かもしれない。

 日本が準々決勝で敗れたのは、コンディション不良など自滅の面も大きいが、アラブ首長国連邦(UAE)も良いチームだった。だが、それでも日本とははっきりした実力差があった。

「予選に楽な試合はない」のも、ある意味では本当だ。

 サッカーというのは、かなりの実力差があっても、戦術的な工夫と強い気持ちを持って戦い、それにほんのちょっとの幸運さえあれば、実力差を克服することが可能なスポーツである。各国とも、なんとかしてアジア最強の日本に一泡吹かせてやろうと待ち構えている。日本との試合では自陣に深く引いて守りを固めてくるかもしれないし、逆に開始早々から奇襲を仕掛けてくるかもしれない。そうした相手の出方を見極めてしっかり戦わないと、あのUAE戦のようなことになる。

 だから、「全勝」は楽なことではない(しかも、気候や移動、ピッチコンディションなどアジア特有の問題もある)。しかし、可能な目標でもあるはずだ。

 アジアカップで日本が準々決勝で敗れたことによって各国の日本を見る目も変わっているはずだ。「日本はとても敵わない相手」ではなく、「やり方次第では勝てる相手」と思われているかもしれない。最近の年代別選手権での敗戦を見ると、日本と戦うための「傾向と対策」のようなものが、今では常識として各国に共有されているようにさえ思える。

 だからこそ、2次予選では圧倒的な力の差を見せつけておきたいのだ。

 もちろん、一つひとつの試合は楽ではないこともあるはずだ。「1点差の辛勝」もありうる。だが、それでもけっして負けなければいい。「日本相手にはどんなに善戦しても、やはり最後にはどうしても勝てないのだ」という意識を植え付けられる。

▼シンガポール戦を前にして
 さて、6月にはイラクとの親善試合と予選の初戦となるシンガポール戦がある(シンガポール側の都合で、初戦をホームで戦えるようになったのも日本にとっては大きな幸運)。

 6月シリーズのポイントは、ヨーロッパ組のコンディションだ。長いシーズンを終わったばかりのヨーロッパ組は、疲労がたまった状態にある。しかも、選手によっては出場機会の少なかった選手もいるし、また、クラブでの最終戦の日程もバラバラだ。合宿にしても、今日は誰が帰国して合流。そして、明日も誰かが帰国……。そんな状況では、コンディションを合わせていくことだけでも大仕事となる。

 まあ、ハリルホジッチ監督の「腕の見せ所」であろう。

 就任早々のチュニジア戦、ウズベキスタン戦では招集したフィールドプレーヤーをすべて起用しながら、同時に試合の流れも読んだ見事な交代策も見せたハリルホジッチ監督。果たして、コンディション調整の難しい6月シリーズでどのような選手起用を見せるのだろうか?

 コンディションが良いのは、リーグ開幕から3か月が経過しようとしているJリーグ組のはず。Jリーグ組をベースに、要所々々にコンディションの良いヨーロッパ組を当てはめていく。そんなイメージの選手起用をすべきなのではないだろうか。

 2次予選の目標は予選突破(そして「全勝」)ではあるが、同時に2次予選の間に、ぜひ若手選手の発掘をしておきたい。最終予選に入れば、気の抜けない試合の連続となり、どうしてもメンバーを固定せざるをえない。

 そこで、実力差があるという事を利用して、2次予選の間は代表経験の少ない選手を積極的に起用すべきだろう。実力差があるとはいえ、タイトルが懸った真剣勝負のワールドカップ予選なのだから、若い選手にとってはプレッシャーがのしかかる。厳しい国際試合で通用する選手を見極めていくには絶好の機会なのである。

 その辺りの監督の方針を見るためにも、僕は6月シリーズでハリルホジッチ監督がどのような采配(選手起用)するかという点に注目する。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。