対戦相手も驚愕? J2の常識を覆した金沢の進撃をどう見るべきか?
Jリーグを幅広く取材する郡司聡が、ここまで対戦した各チームの番記者の声を拾いつつ、強さの秘密を探った。
▼他チームも認める堅守
2014シーズンの昇格組であるカマタマーレ讃岐がJ2・J3入れ替え戦に回ったように、下部カテゴリーからのJ2に昇格してきたチームは、残留争いに巻き込まれやすい。それが近年の光景だった。ところが、どうだろう。今季の昇格組・ツエーゲン金沢は、そうした前例を覆そうとしている。
J2のオープニングマッチで初めて金沢と対戦したJ1からの降格組である大宮アルディージャの選手たちは、試合後のミックスゾーンで「相手の守備が堅かった」と口をそろえた。試合終盤の86分に中央から強引にこじ開ける形で、最後は家長昭博が決勝ゴールを奪ったものの、前半の決定機の数は金沢が優勢。内容面でも決して引けを取らなかった。
「みんなある程度はやれるという自信が付いた」
J1通算75試合出場を誇る経験豊富な辻尾真二がそう話したように、金沢にとっての大宮戦は1シーズンを戦い抜ける礎を築けた試合でもあった。
その拠り所は、J3でリーグ最少失点(20失点)を誇った堅い守備。「あの試合は大宮がボールを保持する展開だったが、素直に攻めていては崩れないなというほど、コンパクトに守っていたし、リスクマネジメントも徹底されていた。単純に切り替えのスピードも速かった。守備のメカニズムも整理されていましたね」(大宮番記者)。チームの規律を11人が忠実に守り抜く守備は、大宮を大いに苦しめた。
▼図抜けた清原のクオリティー
なお、大宮戦での清原翔平は、何度かあった決定機を逃していたが、裏を返せばそれだけゴールチャンスに絡めていたということ。現在得点ランク2位の実力の片鱗を開幕戦から見せ付けていたと言っていい。
「整備された組織力の下で、清原の個の力はチームの中でも抜けていた。守備もしっかりとこなしながら、攻撃のワンピースとして一人だけクオリティーが高い。それがチームのストロングポイントになっている」(岐阜番記者)
清原の怖さは対戦相手も認めるほどで、PKの数の多さを指摘する声もあるが、それは「ドリブルで抜いてPKを取っている。それが個を象徴している」(岐阜番記者)結果でもあるだろう。第7節で金沢に今季初めて土を付けられたC大阪戦は、その清原にゴールを奪われている。「たとえ組織ができていても、最後は個で差をつけられないと勝ち点を取れない。そういう意味で清原は大きな存在」(C大阪番記者)であることを、J2屈指のタレント軍団相手にも証明している。
▼チームの最大値を引き出す組織力
金沢の実力は”フロック”なのか?
もはやそんな議論をするのも失礼な話で、金沢が対戦相手に強烈なインパクトを与えていることは間違いない。
「2014年の岐阜vs湘南を見ていて心の底から強いチームだなと思ったのが湘南だった。湘南は11人全員が同じ方向を向いていて、一人ひとりのプレーにまったく迷いがなかった。金沢にも14年の湘南を彷彿とさせるものを感じた」(岐阜番記者)
第4節・岐阜戦での金沢は、相手ボールを引っ掛けてカウンターをしかけると必ずと言っていいほど、フィニッシュで終わっていたという。状況判断が肝といわれるスポーツで、11人が不変の意思統一の下、「いまはこう攻めて、いまはこう守ろうと、チームのみんなが同じ絵を描けている」(岐阜番記者)チームの実力が”フロック”のはずはない。
「監督と選手の個性がバラバラになるとチームの最大値は出ないものだけど、その点金沢はまとまっている」(C大阪番記者)
強固な組織をベースとした守備と攻撃、そして清原という個の力――。一巡目の対戦では相手を震え上がらせてきた金沢が、今季のJ2でいかなる足跡を残すのか。シーズンの終わりまで目の離せないチームと言えそうだ。
郡司聡
茶髪の30代後半編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』編集部勤務を経て、現在はフリーの編集者・ライターとして活動中。2015年3月、FC町田ゼルビアを中心としたWebマガジン『町田日和』(http://www.targma.jp/machida/)を立ち上げた。マイフェイバリットチームは、1995年から1996年途中までの”ベンゲル・グランパス”。