J論 by タグマ!

“金沢タイム”に”サメの守備”。彼らが”最強の挑戦者”たるゆえん

『エル・ゴラッソ』で金沢の番記者を務め、つぶさにチームを取材してきた野中拓也が、大躍進の理由を探った。

第14節を終えて、8勝4分2敗勝ち点28で現在3位。今季から初のJ2リーグに参戦しているツエーゲン金沢の旋風が止まらない。一時は首位に立ち、現在は自動昇格圏・2位のジェフユナイテッド千葉と勝ち点で並び、首位・ジュビロ磐田との勝ち点差はわずかに『1』だ。なぜここまで金沢は強いのか。J2に一大旋風を巻き起こしている金沢の強さの深層を多角的に分析していく。果たして、その実力の源は? まずは『エル・ゴラッソ』で金沢の番記者を務め、つぶさにチームを取材してきた野中拓也が、大躍進の理由を探った。

▼無敗街道をひた走る
 金沢は昨季、23勝6分4敗という戦績でJ3初代王者に輝き、北陸新幹線開通と時を同じくしてJ2に昇格した。J3で優勝できた最大の要因は、強固な守備。昨季の総失点数『20』はリーグ最少で、終盤の13試合を12勝1分で駆け抜けた。

 昇格チーム・金沢が今季掲げた目標はもちろん「J2残留」。最低限にして最大のノルマを達成できるのか。それは昨季築いた守備が通用するかどうかに懸かっていた。

 ところがどうだろう。フタを開けてみれば、第14節を終えて失点数はわずかに『8』。第3節で横浜FCに敗れたのを最後に、第4節・岐阜戦から第14節・千葉戦まで、金沢は負けなし街道を突っ走っている。

 第11節のホーム・水戸戦では試合終了間際に新外国籍選手のジャーン・モーゼルが決勝点を奪って1-0で勝ち切ると、金沢がJ2リーグのトップに立った。2013年にJ1昇格プレーオフへ進出した昇格組の長崎でさえ、年間を通しての首位浮上は皆無。それはJリーグ史に残る出来事となったが、森下仁之監督は「(首位浮上は)それほど大きな意味はない」と素っ気ない。クラブの目標はあくまでもJ2残留で、それは一時の順位に左右されるものではない。

▼健全な競争原理を構築するマネジメント
 モーゼルの決勝点に象徴されるように、新たなヒーローの出現は競争原理が健全に働いている証拠でもある。金沢の練習場では出場機会の有無に関わらず選手たちはみな、ひたむきにトレーニングに励んでいる。

 金沢のトレーニングは、主力組とそれ以外を切り分けた練習ではなく、全員にチームのやり方を浸透させようとする意図が感じられる。何か意識付けたいことがあれば、頻繁にメンバーを入れ替えながら選手に落とし込む。それを理解して体現すれば出場機会に近付けるのだから、選手は必死だ。腐らない努力と腐らせないマネジメントも快進撃とは無関係ではない。

 フルタイム出場を続ける太田康介は、ハードな5連戦のときにも「試合に使ってもらっている以上、恥ずかしいプレーはできない」と語っていた。やはり競争がチームにもたらすものは小さくない。

▼まるで、サメのごとく
 もちろん、金沢の躍進の理由はJ3時代から続く堅守抜きには語れない。第14節を終えて、J2リーグ最少失点を誇る金沢は、J屈指と言ってもいい組織的な守備のオーガナイズを武器に、粘り強く守り抜き、最後まで走り抜く。そこに”迷い”や”恐れ”などない。

 第11節の岡山戦後、長澤徹監督は金沢について「バランスゲームの”ジェンガ”をやっているようなイメージで、一つ間違えばサメがガバッと口を開けて待っている」と話した。それは金沢が構築する組織的な”網”の中に、うかつに足を踏み入れた結果が容易に想像できたからだろう。

 堅守を売りにしているチームに対して、あえて”ボールを持たせる”対応策は珍しくない。だがそれがそのまま金沢に通用するかと言うと、答えはノーだ。

 第14節で対戦した千葉は、金沢相手にお株を奪うようなカウンターで先制点を挙げた。その後、千葉が望んだことかは分からないが、明らかに千葉の重心が下がった。金沢はそれまでの時間帯より、さらにボールが持てるようになり、ほぼ一方的に千葉を押し込んだ。”押してもダメなら引いてみる”精神では秋葉勝、山藤健太の両ボランチを中心に試合をコントロールされてしまうのだ。

 そして得意のセットプレーを含め、ホーム西部緑地での試合終盤のような”イケイケ、押せ押せ”の金沢タイムを許すことになる。たとえスコアはリードしていても、勝ち点を削り取られるどころか、もぎ取られるような恐怖に晒される。

 結果、前述の千葉戦は後半のアディショナルタイムに同点弾を奪い、今季3度目となる1-1のドローに終わった。そのすべてが先制点を奪われながらも追い付いたモノで、千葉戦を含めて、1-1の引き分けに終わったいずれの3試合も、終盤はいつ逆転してもおかしくない圧倒ぶりだった。先制されるのは金沢の本望ではないはずだが、取られてもタダでは終わらないところに金沢の強さが隠されている。

 相手は当初リードしていたはずなのに、終わってみれば「勝ち点1で御の字」状態で試合を終えることになる。最後の1分1秒までゴールをあきらめない姿勢は、相手に対するこの上ないほどの”嫌がらせ”でもある。

 90分の中で金沢のブロックを攻めあぐねているうちに、相手は焦れ攻め疲れるのかもしれない。そして、終盤に待ち受けるのは恐怖の”金沢タイム”だ。

 どんな試合でも相手へのリスペクトと、堅守をベースとした自分たちのサッカーに対する確固たる自信がある。2年前、JFLで7位だった金沢は、いまや”最強の挑戦者”だ。

野中拓也

フリーランスのサッカーライター。サッカー専門新聞エル・ゴラッソでツエーゲン金沢を担当。