J論 by タグマ!

完勝は相手の弱さの裏返し。ミスも目立つ日本の完成度は、言うほど高いものではない

現地で取材を重ねるベテランジャーナリスト・後藤健生は、少し違った見方をしている。

日本代表が連覇を狙うアジアカップの戦い。単にタイトルを奪うだけではない、プラスアルファの上積みも狙いたいこの大会を、さまざまな角度から解剖していく。グループリーグ第3試合で日本はほぼ完勝と言える内容を積み上げた。だが、それは本当に「日本が良かった」だけなのだろうか。現地で取材を重ねるベテランジャーナリスト・後藤健生は、少し違った見方をしている。

▼実状は模索の段階ではないか
 グループリーグの3試合はいずれも完勝だった。

 たとえば最終のヨルダン戦。後半は攻め込まれる場面も目立ったが、決定的なピンチは前半に森重のパスをカットされた場面くらいのもの。攻撃面ではなかなか2点目が奪えずに苦しんだ印象だが、イラク戦に続いて本田のシュートはまたもゴールポストに嫌われてしまったし、前半10分に乾が決めたビューティフルゴールや58分に本田が抜け出したゴールが審判によって取り消されてしまったが、いずれかのゴールが決まっていれば大量点が入っていてもおかしくない試合だった。

 いずれにしても、内容的には「完勝」と言ってよかった。

 ただし、それは「日本代表がすばらしい試合をした」ということを意味するわけではない。日本が完勝できたのは、ヨルダンとの間にはチーム力に大きな差があるからでしかない。日本にはミスが数多くあったのだ。もし、ネイマールやルイス・スアレス、ハメス・ロドリゲスのような選手がいるチームが相手だったら、あれだけミスをしたら、間違いなく3、4点は奪われていたはずである。

 特に目立ったのは技術的なミスより、判断のミスだった。たとえば、シンプルにスペースを使えばチャンスに結びつくような場面で難しいパスを選択してみたり、シュートを打つべきタイミングでさらにパスをしてチャンスの芽をつぶしてしまったり……。そんな場面が何度もあった。

 判断ミスが多発した原因としてまず考えられるのは、チームの完成度の低さだ。

 現在の日本代表の主力は岡田武史監督の下で南アフリカW杯を戦い、その後、ザッケローニ監督時代を経て現在まで共に戦ってきているメンバーである。

 だが、ザッケローニ監督時代に[4-2-3-1]で戦っていた日本代表は、アギーレ監督になってから[4-3-3]で戦うことになり、アジアカップでもこれまでずっと[4-3-3]で戦っている。そして、ザッケローニ監督時代に中央でプレーしていた本田は右サイドで、W杯までは左アウトサイドだった香川がインサイドでプレーしているなど、配置にも微妙に違いがある。選手たちは新しいシステムの習熟度が低く、現在はまだ、さまざまな試行錯誤を繰り返している段階にあるのだ。

 たとえば、初戦のパレスチナ戦では遠藤は香川の位置より多少下がり気味で、長谷部と並んでプレーする時間もかなりあった(つまり、この場合は[4-2-3-1]になる)。しかし、イラク戦では遠藤はほとんどの時間、香川と並んで高い位置でプレーしていた(また、このイラク戦では乾が素晴らしいポジショニングで相手のDFとMFの間のスペースでパスを引き出し、攻撃の起点を作っていた)。そして、3戦目のヨルダン戦では遠藤と香川が左右のポジションを入れ替え、遠藤が左、香川が右サイドでプレーする時間も長かった。

 先発メンバーも、システムも3戦目までまったく変わっていないが、中盤の構成を詳細に見ていくと、それぞれの試合で微妙にやり方が変わってきているのだ。どこまでが監督の指示で、どこまでが選手たちの話し合いによる工夫なのかは分からないが、いろいろな形を模索中なのである。

▼8強戦からは常に休養の少ない戦いとなる
 決勝トーナメントに入ってさらに強い相手との戦いが続く中で中盤の構成がこれからどのように変わっていくのか……。これが、今後の最大の注目点だろう。

 さて、ヨルダン戦で判断ミスが目立ったもう一つの原因は、選手の疲労にあった。蒸し暑いブリスベンでのイラクとの激闘から中3日。どうやら、リカバリーは十分ではなかったようだ。

 もちろん、疲労はそれほど深刻なものではなく、運動量ではヨルダンを大きく上回っていた。だが、フィジカル的に疲れていると、どうしても判断が遅れてしまうことになる。攻撃のテンポが上がりきらなかったのも、やはり疲労の影響が大きいのだろう。

 イラク戦で複数得点して準々決勝進出を確実にしていれば、最終のヨルダン戦では主力を休ませて、新しい選手をピッチに送り込むこともできた。だが、グループリーグ突破決定はヨルダン戦まで持越しとなってしまい、しかもヨルダン戦でもなかなか2点目が決まらず、メンバー交代が難しくなってしまった。

 D組を勝ち抜いた日本は、準々決勝以降はすべて対戦相手より休養日が1日少ない状態で3試合を戦わなくてはならない。とりわけ「日本が中2日、相手(UAE)が中3日」となる準々決勝はコンディション調整が大きな課題となる。2戦目までに決勝トーナメント進出を決められず、3戦目まで固定メンバーで戦ったことの影響が大きくなければいいのだが……。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。