これぞ”おっさん力”。気が付けば完勝している、百戦錬磨の日本代表
今回の日本代表からは少々の苦戦で動じない、確固たる「力」が感じられる。
▼各ポジションに歴戦の勇者
圧倒的ではないが、気がつけば確実に勝利をおさめている――。
3試合を通しての安定した戦いぶりを演出しているのはアギーレ監督だが、経験ある選手たちに過度の指示を与えない彼のスタンスを思えば、それを支えているのは、成熟したプレーを披露している選手たちだろう。ザックジャパン、さらに言えば、4年前のアジアカップから大きく変わっていない主力選手たちの力だ。
「チームは成長していると思いますね。2011年の時より攻撃のバリエーションが多いですし、選手個々も成長していると思いますし、まあ余裕をもってゲームができているというのはあります」
ヨルダン戦後、勝利に浮かれる様子もなく、そう語ったのは長谷部誠だ。キャプテンとして代表最多キャップを達成した彼も31歳の誕生日を迎えたが、ブラジルW杯前の負傷など苦しい時期を乗り越え、クラブでも代表でも充実期を迎えている。
イラク戦で代表150キャップを達成し、今月28日には35歳となる遠藤保仁も、アギーレ体制初期に代表メンバーから漏れたものの、「クラブで高いパフォーマンスを見せられれば必ず呼ばれると思っていた」という言葉通り、ガンバ大阪を3冠に導く活躍で代表復帰を果たし、すっかりチームの重鎮に返り咲いている。
この平均年齢ほぼ33歳の熟練コンビを中心に、背後からしっかりとチームを引き締める31歳のGK川島永嗣、国際経験が豊富で貫禄十分な28歳の本田圭佑、前線から相手のラフプレーにも怯まず闘争心を押し出して攻守を引っ張る、同じく28歳の岡崎慎司、実年齢は26歳ながら百戦錬磨の風格が漂う吉田麻也――。
彼らを軸とした11人、さらに交代の選手たちが厳しくも冷静に試合を運び、着実に勝利を積み重ねてきた結果が3連勝、7得点無失点という結果を導いたと言える。
▼試合運びに感じる熟練
表現としては少々失礼かもしれないが、あえて強調するなら”おっさん力”とでも言おうか。終わってみれば完勝だが、試合の流れの中で厳しい時間帯もあれば、相手のラフプレーで一触即発になりかける場面、味方のミスからピンチになりかける場面もあった。しかし、そこで慌てることなく事態を処方してしまう試合運びは熟練を感じさせる。
4年前は最終的にアジアカップを制覇したが、振り返ればドタバタ劇のようなところもあった。しかし、今回は当時を経験している選手たちがアジア予選や残念な結果に終わったブラジルW杯を経験し、クラブでも厳しい戦いをくぐり抜け続けてきたことで、選手としてより成熟していることは間違いない。
中長期的な視点に立っての批判や不安の声があがるのは仕方ないが、最初の公式戦で結果が求められる中、今の日本で最も結果を導けるイレブンを送り出すのはある意味、正当な判断だ。そもそもアギーレ監督はその時のベストメンバーを選出する実戦型であり、彼らを脅かす選手が出てくれば競争も世代交代も生まれてくる。しかし、今は何よりアジアカップを連覇することが大事だ。
アギーレ監督は成熟したメンバーを信頼し、決勝トーナメントを戦っていくだろう。豊富な経験を持つ選手たちはその落ち着きと確かな判断で、若手を引っ張るパワーも備えている。ここから総力戦になってくる状況で、途中出場でチームの勝利に貢献している清武弘嗣や武藤嘉紀はもちろん、ヨルダン戦の終盤にようやく登場した柴崎岳、まだ出番のない選手たちも”おっさん力”に導かれる形でラッキーボーイ的な活躍ができるかどうか……。
恐らくそれこそが、アジアカップ連覇、そして日本代表のさらなる進化のためのキーファクターになっていくに違いない。
河治良幸(かわじ・よしゆき)
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCFF』で手がけた選手カードは5,000枚を超える。 著書は『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)、『日本代表ベスト8』(ガイドワークス) など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。サッカーを軸としながら、五輪競技なども精力的にチェック。