J論 by タグマ!

柴崎、昌子、植田、武藤……。国際舞台での実績なき若手たち。監督問題の渦中だが、欲しいモノは一つだけ

鹿島の番記者・田中滋がアギーレ監督について思いつつ、愛すべき3人の鹿島っ子を含む日本代表の若手たちへの期待を語り尽くす。

日本代表は2015年の新年を「合宿」の中で迎えた。ターゲットは1月9日に始まるアジアカップ豪州大会。連覇を狙う日本代表は1月12日のパレスチナ戦を皮切りに、タフなスケジュールで、この大陸選手権を戦っていくことになる。アギーレ監督の八百長疑惑という騒動の中で、僕らの日本代表に願うことは何か。今回は鹿島の番記者・田中滋がアギーレ監督について思いつつ、愛すべき3人の鹿島っ子を含む日本代表の若手たちへの期待を語り尽くす。

▼もしアギーレを配役するなら……
 先日、デヴィッド・フィンチャー監督の最新作である『ゴーン・ガール』という映画を観た。個人的には、彼の代表作である『セブン』や『ファイトクラブ』に迫る素晴らしい作品と感じたが、主役を盟友であるブラッド・ピットではなくベン・アフレックに任せたことが大きな勝因だったように思う。ゴーン・ガール、つまり妻が行方不明になってしまうようなちょっと情けない夫役を演じるにはブラッド・ピットの顔では正統派過ぎで、いつも眠そうな目をしているベン・アフレックがちょうど良かったのだろう。

 少し不謹慎かもしれないが、もしハビエル・アギーレが俳優だったら、まさか正義の味方が配役されることはないだろう。マフィアのボスかFBIと対立する地元警察の署長やたたき上げの刑事がハマリ役となりそうだ。それも、一筋縄ではいかない頑固オヤジや、腹に一物抱えた腹黒そうな人物がよく似合う。黒いスーツに身を包み、サングラスをかけた筋骨隆々とした部下を引き連れて歩く姿が容易に目に浮かぶ。

 そのアギーレに率いられた日本代表が、アジアカップを戦うために開催国であるオーストラリアで準備を進めている。指揮官に対してはさまざまな見解が渦巻いたままだ。今回の紛糾劇を見ていると、アギーレにとっても私たちにとっても不幸だったのは、彼が本当はどういうキャラクターなのかよくわからないタイミングで、八百長疑惑が持ち上がってしまったということだ。失礼ながらその外見は、いかにもな”悪人面”。それを物語るような怪しげな話題が立ち上ったことで一気に色が付いてしまった。

 アギーレがどういう人物なのかもっと把握できていれば、事態は少し違っていたように思えるが、それをあえてしてこなかったのも監督自身の意思。アギーレのキャラクターはいまだによくわからないが、彼に注がれる視線は彼が予想していたよりも遙かに多いことは痛烈に伝わったはずだ。どこまで本気で日本代表監督に取り組んでいるのか不明瞭だったアギーレに対し、これ以上ないプレッシャーを与えることができたのは、一連の騒動の思わぬ副産物と言えるかもしれない。

▼欲しいのは、「自信」
 ただ、監督への疑惑は意外と選手には無関係なのかもしれない。アジアカップの重要性はFIFAのカレンダーが変わった時点でわかっていたことであり、連覇を逃すとW杯までに欧州の強豪国と対戦するのはほぼ難しくなる。アジアチャンピオンとして出場できるコンフェデレーションズカップの重要性はさらに増している。選手たちは、目の前の戦いに集中していることだろう。

 中でも注目されるのが、Jリーグでの活躍を機に代表へ呼ばれるようになった選手たちだ。鹿島からは柴崎岳を筆頭に、昌子源と植田直通の3人が参加。Jリーグで得た自信を国際舞台で発揮できれば、さらに大きな自信を手にすることができるだろう。

 誰にとってもそうだろうが自信を持ってプレーできるかどうかは、パフォーマンスにダイレクトに影響を及ぼす。昨年末、現役引退を表明した中田浩二もこう話していた。

「正直言って、俺ら(79年組)もワールドユースでああいう結果を出したからこそ、『世界で戦える』という自信がついて、五輪や海外でやっていける手応えをつかめてそうなった。実際、そこで1回戦とかで負けていたらわからないしね」

 柴崎にとってはU-17W杯以来となる国際舞台、昌子に至っては代表選手として臨む初めての国際大会となる。植田は数々の国際大会を経験してきたが、勝者とはなってはいない。Jでの自信をアジアカップで発揮できるかどうかは、それぞれの選手のメンタル次第でもある。

 それを物語るのが昌子や植田の躍進だ。FC東京の武藤嘉紀にも言えることだが、昨年の今ごろ、昌子や植田がよもや代表のユニホームをまとってアジアカップを戦うとは誰にも想像できなかっただろう。中田浩二は次のようにも語っていた。

「源なんか特別に伸びたと言われているけれど、どこがと言われれば技術は特別伸びたわけじゃない。身体能力ももともと持っていた。あいつは1年間試合に出続けたことで自信がついた。それがプレーに余裕として出ているだけ。ポテンシャルを持っている選手はたぶん一杯いるのだろうけど、それを如何にプレーするか、整理できるかどうかで、代表に入れるか、入れないかが分かれていく」

 もちろん、コンフェデレーションズカップへの出場権は大きな意味を持つ。しかし、それ以上に重要なのが、彼ら新世代が手にする「自信」。先のW杯で傷ついた日本代表が新たな力を手にするためには、結果を残して「自信」を手にすることが一番の近道となるのではないか。

田中滋(たなか・しげる)

1975年東京生まれ。上智大文学部哲学科卒。2008年よりJリーグ公認ファンサイト『J’sGOAL』およびサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の鹿島アントラーズ担当記者を務める。著書に『鹿島の流儀』(出版芸術社)など。WEBマガジン「GELマガ」も発行している。