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アギーレに危急の解任の必要なし! このアジアカップでの経験は日本代表の糧になる

アギーレ監督の八百長疑惑という騒動の中で、僕らの日本代表に願うことは何か。まずはベテラン記者・後藤健生が、アギーレ監督と日本代表について語り切る。

日本代表は2015年の新年を「合宿」の中で迎えた。ターゲットは1月9日に始まるアジアカップ豪州大会。連覇を狙う日本代表は1月12日のパレスチナ戦を皮切りに、タフなスケジュールで、この大陸選手権を戦っていくことになる。アギーレ監督の八百長疑惑という騒動の中で、僕らの日本代表に願うことは何か。まずはベテラン記者・後藤健生が、アギーレ監督と日本代表について語り切る。

▼アギーレ問題は、むしろ明快な状況だ
 いよいよ開幕が間近に迫ったアジアカップ。日本代表は、その大事な大会を「八百長問題」で揺れるハビエル・アギーレ監督の下で戦うことになる。

 日本国内では「八百長」という言葉が独り歩きし、またマスコミがスキャンダラスに取り上げたこともあってダーティーなイメージを持たれてしまったアギーレ監督だが、報じられている限り、問題は単にアギーレ監督の口座にクラブから入金があったということだけのようだ。

 要するに、クラブが買収資金を捻出するために監督や選手へのボーナスという名目で出資し、それをすぐに回収したということだ。

 とすれば、これだけでアギーレ監督が八百長に直接関わっていたということにはならない。検察当局とすれば、クラブ関係者の捜査をするために口座が利用された監督や選手から参考人として事情を聴取したいのだろう。告発されたと言っても、参考人聴取程度なのであれば、アギーレ監督を解任する必要はまったくない。まして、これから捜査が始まる現段階では解任の理由はまったくないわけで、もし日本サッカー協会が現時点で監督を解任したとすれが、契約に基づいて巨額の違約金を払わなければならないし、アギーレ監督が地位保全あるいは名誉棄損で日本サッカー協会を提訴することだって可能になるだろう。

 スペイン当局の捜査によってさらに新たな事実が判明し、アギーレ監督が起訴されて裁判が始まったら、その時点で解任を決めればいいのではないだろうか。

 協会は、大仁邦彌会長が正式に会見を開いて、そういった事情をきちんと説明すべきだろう。あるいは、もしスポンサーサイドの意向によって解任する必要があるのなら、自らの責任で断を下さなければならない。協会が(あるいは大仁会長が)いつまでも曖昧な態度を取り続けていることが、事態を一層混乱させているのだ。

▼アギーレ流で培う「経験」が重要だ
 さて、日本代表はそのアギーレ監督の下でアジアカップを戦うことになるが、万が一、将来アギーレ監督が解任されるような事態になったとしても、日本代表にとっては決して無駄にはならないのではないだろうか。

 アギーレ監督は、勝負にこだわる指導者だ。だからこそ、予選敗退の危機に直面したメキシコ代表を任されたり、降格の危機にあるスペインのクラブの立て直しを委ねられたりしてきた。おそらく、就任後初のタイトルマッチとなるアジアカップでも、そうした勝負に拘る戦いを展開するだろう。

 これまでほとんどの試合を[4-3-3]のシステムで戦ってきたアギーレ監督だが、それは選手の見極めのためにそうしていたはずだ。実戦に入れば、試合によって、試合展開によって、相手によって、さまざまなシステムを使いこなすことだろう。実際、12月29日に始まった国内合宿でもアギーレ監督はいろいろなシステムを試しているという。

 これは、メンバーを固定して、システムも(特に[3-4-3]をあきらめてからは)[4-2-3-1]にこだわり続けた前任者のアルベルト・ザッケローニとはまるで違うやり方だ。いや、歴代の日本代表の監督を見ても、さまざまなシステムを使いこなす監督はあまりいなかった。つまり、アギーレ監督の下での戦いは選手たちにとっては新しい経験だし、われわれもそういう勝負にこだわった戦い方を大いに楽しめるはずだ。

 もし、アギーレ監督がロシアW杯まで指揮を執り続けるのなら、そういう戦いを繰り返した日本代表はブラジル大会とはまったく違うチームに変化を遂げることだろう。

 逆に、もし、将来アギーレ監督が解任されて、全く違うタイプの指導者が就任したとしたらどうだろう?

 たとえば、再びザッケローニ型の監督が日本代表を率いることになって、メンバーやシステムを固定して戦って予選を突破してロシアに乗り込んだとする。そして、ブラジル大会のギリシャ戦のようにどうしても相手を攻め崩せない状況に陥ったとする。そうなった時に、選手たちがさまざまなシステムを駆使して、勝負に拘って戦った2015年アジアカップのことを思い出したとしたら、それが何らかの突破口を生み出すかもしれない。

 もう一度、言おう。

 アギーレ監督が将来も日本代表監督の地位を保つにせよ、あるいは解任されてしまうにせよ、アギーレ監督の下でのアジアカップは日本代表にとって貴重な経験の場になるはずだ。

 まあ、特別な戦術変更などまったく必要とせず、楽々と優勝を決めてしまったのなら、それはそれでとても嬉しいことではあるのだが……。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続けており、74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授。