八百長疑惑は「空気先行」。期待するのは、頼れるベテランに加わる「+1」
大ベテランカメラマンの六川則夫氏が、現在の「空気」の中で感じること、そしてアジアカップに期待する「+1」とは?
アギーレ監督は日本社会独特の「推定有罪」の空気感の中で大会に臨む (C)六川則夫
▼「推定有罪」の空気の中で
12月27日、JFAハウスで行われたアギーレ監督の会見で、「自宅謹慎の考えは」と記者に問われ、これまでに冷静に対応していた監督は、急に早口でまくし立てた。
これは質問した本人も無理があることを承知の上での問いかけである。いわゆる確信犯的挑発というやつだ。アギーレ監督は自身も含めて、「聴取のリストに上がった選手、審判は今もプレーをしたり、笛を吹いている、なぜ私だけが自宅謹慎しなければならないんだ」と気色ばみ、「推定無罪」であると自らを語った。
けだし正論である。
日本では、メディアが率先して「推定有罪の空気」を作り上げるのは、今に始まったことではない。ジャーナリストとして本来あるべき正論より、「アギーレ・ブランド」に見切りをつけた一部メディアの実態がそこにあった。疑惑が生じたら、それが真実かどうかを追究するのが、メディアに求められる役割であるが、一度「色の着いた人間」は、その時点でメディア的にはアウトなのである。
ただでさえ注目度が高い日本代表監督である。たとえ結果を出しても、万が一のことを考えてヨイショしづらくなってしまうからだ。加えて、さまざまな思惑も絡んでくる。つまるところ、見たいものしか見ようとしない、日本はメディアも含め、すべて自分たちの都合が優先されるようにしか思えない。
マドリード在住の日本人ジャーナリストに現地の様子を聞くと、「まだ幕は開いていない状態」と語った。過去幾度となく繰り返された八百長ゲームに対して、新任のスペインプロサッカーリーグ会長が摘発に乗り出し、その対象になったのが「レバンテvsサラゴサ」だった。
アギーレ監督が実際に八百長へ手を染めていたかどうかは今後の捜査に委ねるしかないが、大相撲の無気力相撲同様(日本では、火をつけたのは記者クラブではなく『週刊ポスト』)、スペインやイタリアでは、「あって当然」と見られている悪しき慣習だった。果たしてこの裁判が抑止力になるのか否か。日本ではアギーレ監督の関与にのみ注目が集まりそうだが、世界のサッカー界からしても裁判の行方は注目されることだろう。
アギーレ監督の今後の処遇に関しては、任命に関わった技術委員長や技術委員会を通り越して、トップレベルの専権事項になったと言える状況だ。早い話が、大仁会長の決断次第というわけだ。まさかこんな形で、会長としての存在感が問われることになるとは、「日々これ無事」の処世訓でトップに登りつめた本人も思ってもみなかったのではないか。
遠藤らベテラン勢の復帰は、現在の喧騒を思っても頼もしい (C)六川則夫
▼ベテラン力「+1」
アジアカップを戦うアギーレ・ジャパンの内訳を見ると、Jリーガーが13人、海外でプレーをする選手が10人と、国内外のバランスがとても良い。就任当初はどうなることかと、期待半分、不安半分だったが、結果的にザックジャパンを継承する選手構成をベースにしつつ、ベストのミックスとなった。アギーレ監督の周辺がざわついていることを考えても、経験あるベテランの復帰はチームにとって好材料以外の何ものでもない。
ザッケローニ監督は、システム優先で、理詰めで細かい約束事を選手に求めていたが、ラテン気質のアギーレ監督は、そこまで厳密ではないようだ。[4-3-3]をベースにしながらもシステムにこだわらないということを逆説的に捉えると、これまで以上に選手の対応力が必要となってくる。ブラジルでできなかった「自分たちのサッカー」の「自分」が、同じ南半球のオーストラリアで再び問われることになる。
グループリーグでは、日本のポゼッション率が高くなる分、攻撃に人数を費やし前がかりになったところを、一気にゴール前までボールを運ばれるシーンが予想される。そこがアジアで苦戦する所以であるが、高温が続く中で、結果とともに日本の試合運びにも注目していきたい。
そういった意味でも、長谷部誠、遠藤保仁、今野泰幸ら前回の経験者が、中盤に顔をそろえているのは心強い。あとは武藤嘉紀、柴崎岳らの代表ニューカマーがどこまで台頭し、結果を残せるか。「ポスト・アジアカップ」のことを考えると、彼らの伸びしろこそが、W杯アジア予選突破の重要なキーファクターとなる。
熱い指導を見せるアギーレ監督。視線の先には武藤の姿が (C)六川則夫
六川則夫(ろくかわ・のりお)
1951年、東京都生まれ。1964年東京五輪でサッカーと出会うこととなり、決勝戦も国立で観戦してこのスポーツの虜となった。1973年、早稲田大学第2文学部卒業。1982年スペインW杯を皮切りに2014年ブラジルW杯まで継続取材中。日本サッカーの過去を知り、未来への情熱を絶やさぬオールドカメラボーイ。