J論 by タグマ!

順位予想とは『すべり芸』であるが、今季の予想自体は『簡単』だ。Jの快楽は、裏切りにある

博識の党首・大島和人が今季のJを展望する。

3月7日にJ1、8日にJ2、そして15日にはJ3リーグが開幕を迎える。それぞれのクラブがそれぞれの決意を胸に秘め、それぞれの目的地を目指して走り始める。もちろんサポーターにもまた、それぞれの楽しみ(と不安)があるだろう。今週のJ論ではそんな開幕をサカナにして、各論者が好き勝手に語り尽くす。第2回は博識の党首・大島和人が今季のJを展望する。

▼困難極める順位予想
 Jリーグの記事を書いているライターならば、2月末には順位予想の依頼が来る。しかし「何故そうなったか」を後追いで語ることはできても、「何が起こるか」を先取りして語ることは難しい。見どころを語る困難さも、順位予想と同様だ。

 開き直るようで恐縮だが、決して知識があれば読みが当たるということではない。その証拠に元日本代表、元J1監督といった大物が、豪快に外すこともお馴染みになっている。特にうっかりテレビ番組で予想を披露したら酷い目に遭う。キャプチャー画像が保存され、大外しをした方は盛大に晒される。そういうところからお呼びがかかるのは実績、見識ともに最上級レベルの方だが、だからこそ外したときのインパクトも大きい。

 J1全18チームのプレシーズンをすべて取材した人はいないだろうし、少し見たからといって丸1年を占うことなどできない。昨年の順位、有名選手の加入といった話題性、クラブのブランド感などに引っ張られて、何となく”相場”は決まっていく。しかしそれがアテにならないのは、私も含めて多くが上位に予想した昨季のセレッソ大阪がよい例だろう。

 しかし私は気付いたのである。

 予想は外すためにあり、言うならば”すべり芸”を引き立たせるための振りなのだ。アイドルの罰ゲームがエンターテインメントになるのと同じで、普段はエラソーに語っている人が、無様な姿を見せることも、大切なサービスなのだろう。ただ、私のような小物が滑っても面白くないので、この稿では”すべらない話”をしようと思う。

▼さっそく、柏には裏切られた
 もちろん、無難に見どころを語ることはできる。浦和の陣容は見事にバージョンアップしている。左ウイングバックの橋本和はピンポイントの補強だし、ズラタンも1トップとしてかなり期待できる人材だ。高木俊幸、石原直樹もそれぞれのクラブで主力を張っていたアタッカーだから、ACLを見越した選手層の充実が見て取れる。

 G大阪は言わずと知れた三冠王者。16位から首位へジャンプアップした昨季の”セカンドステージ”の勢いそのままに、今季は宇佐美貴史とパトリックが開幕からプレーできる。昨季は3位だった鹿島も柴崎岳、植田直通、カイオと主力に若手が多く、顔ぶれに大きな変化がなくとも、底上げが期待できそうだ。

 ただしJ1は混戦、サプライズが常態化しているリーグだ。昨季のリーガ・エスパニョーラでは10年ぶりにFCバルセロナ、レアル・マドリー以外のクラブが優勝したけれど、J1は逆に連覇が少なく初優勝の多いリーグ。加えて昨季のC大阪、一昨年のジュビロ磐田のように、優勝候補にすら挙げられていたチームが、降格の憂き目にあう。

 今季の見どころ、熱いところは、まず間違いなく”今はまだ見えていない何か”だ。例えば昨季の開幕前に武藤嘉紀のブレイクを予想した人は少ないだろう。パトリックがブラジルから戻ってきて、G大阪優勝の立役者になると予想した人はいないだろう。そしてそれと同じようなことが、今年も必ず起こる。

 サッカーの楽しみは”裏切り”だ。一つ一つのプレーも、監督の采配も、それが我々の予測できるレベルだったら、及第点であっても満点ではない。だから私は「何それ?意味が分からない?」というものに引きつけられる。

 私は今季からエル・ゴラッソ紙の柏レイソル担当になったが、早速”謎”と格闘している。吉田達磨監督はアカデミーの監督、ダイレクターとして何年も観察してきた方だから、「こういうサッカーをやる」という予測があった。しかしある程度はショートパスにこだわるのかと思っていたら、トップチームではロングボールやドリブルも自在に使いこなすスタイルを見せている。ACLのグループステージ初戦は全北現代を相手にいきなり3バックを採用し、勝ち点「1」をもぎ取るシビアな戦いも見せた。

▼覇権の行方は容易に予想できる
 番記者として1年間「こういうことを書くのかな」というイメージは何となく持っていたのだが、その多くは陽の目を見ずに終わりそうだ。しかし裏切られた、騙されたことを気持ち良くも感じていたりする。サッカーにはもちろん悪い驚きもあるが、驚きなくしてチームの成功はない。そのサプライズは結果が出るまで正当化されないが、そこに成功の芽があるという視点があれば、サッカーの楽しさは深まるのではないか。

 メディアは往々にして予定調和を求め、それらしいストーリーを先走って作ってしまいがちだ。もちろん台本通りのドラマも悪くない。しかしJは良くも悪くも毎年、ドラマ以上のサプライズを見せてくれるリーグだ。

 具体名さえ挙げなければ予想は簡単だ――。メディアとサポーターを良い意味で裏切ってくれたクラブが、今季の覇権を握るだろう。

大島和人

出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。柏レイソル、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。