J論 by タグマ!

二次元でサッカーを観る日本人。中韓豪の3カ国に日本が勝てなくなった理由とは?

博識の党首・大島和人が日本のフットボールカルチャーに潜む、ある種の問題点を指摘する。

2月24、25日からAFCチャンピオンズリーグが開幕した。2008年にガンバ大阪がこのタイトルを奪取して以降、Jリーグ勢は低迷を余儀なくされている今大会だが、その初戦は3敗1分という惨憺たる結果に終わってしまった。なぜこれほど分の悪い大会になってしまったのか。博識の党首・大島和人が日本のフットボールカルチャーに潜む、ある種の問題点を指摘する。

▼起こっている現象はシンプルだ
 日本人は二次元の世界でサッカーを見ているのではないか?

 そんなことを思うことがある。相手がバーチャルで、リアリティもなく、すべてのストーリーを自分本位で展開させたがる。それがこの国のフットボールカルチャーだ。

 JリーグはなぜAFCチャンピオンズリーグで勝てないのか――。こんなテーマ設定の先に、明るい未来は待っていない。反省も含めた”現実の後追い”をすべて否定するわけではないが、自分たちが後ろを見ているうちに、ライバルたちは先に進んでいくだろう。そしてこの議論の難点は”相手”がいないことだ。

 サッカーは常に相手がいる。しかし日本のサッカー界は”ダメなところ探し”には熱心な人こそ多くても、”相手の強いところ探し”を楽しく語る人が少ない。確かに外国の情報へアクセスする場合には言葉と距離の壁があり、日本のサッカーファンはアジアに対する興味が小さい。だからメディアにとって、それは費用対効果の低い作業なのだろう。しかしその帰結として日本のサッカーファンは、アジアのライバルに対して「お金がある」「フィジカルが強い」というレベルの漠としたイメージしか持っていない。サッカーのクオリティについては、過小評価をしている例が多い。

 昨今のACLで起こっているのは「中国、韓国、オーストラリアのクラブに対してJリーグ勢の分が悪い」というシンプルな現象だ。07年、08年と日本勢が連覇している大会であるがゆえに、”日本がダメになった感”はある。しかし09年に大会の方式が変わって(実績があってリーグが整っている国から多くのクラブが出る方式へ変更)、ACLはお馴染みのメンバーで争われる”4カ国対抗戦”になった。そういった中で、相手も”対日本”の経験値を積んでいった。09年以降の優勝国を見ると韓国、韓国、カタール、韓国、中国、オーストラリアと続いている。つまり中韓豪の3カ国が強くなったのだ。

▼求められる知のバトル
 24日に開幕した今年の初戦でも、G大阪が広州富力(中国)、浦和が水原三星(韓国)、鹿島がウエスタン・シドニー(オーストラリア)に敗れた。日本から4チームが出場して、勝ち点を挙げたのはアウェイで全北現代と引き分けた柏レイソルのみ。リーグ戦の開幕は10日以上先ということもあり、この時期のJリーグ勢はまだ”できてない”ことが多いのだけど、センセーショナルな結果には違いない。

 中韓豪との接点が増えれば増えるほど、分が悪くなる。これはJリーグ勢の学習能力が足りないということだ。相手を分析し、手を打つという”頭脳戦”で敗れている証拠だ。

 私が取材をしたのは柏と全北のアウェイ戦で、無失点にこそ封じられたが、昨季の韓国王者・全北のサッカーは強烈だった。韓国代表で100試合近くに出場したFWイ・ドングッが筋肉系の負傷で欠場していたが、自分が瞠目したのは右サイドMFハン・ギョウォン。スペースを空けると一気に加速してぶっちぎるし、タイトに寄せるとウナギのような身のこなしですり抜けてしまう。”剛と柔”を兼ね備えた高速テクニシャンで、武藤嘉紀(FC東京)に比べても同等以上のサイドアタッカーだと思った。

 センターFWや両サイドをめがけてロングボールを蹴り込み、球際で激しく競って、なるべく自分たちに有利な混戦状態を創り出す。球際の強さと、旺盛なプレスでマイボールを確保し、巧みなドリブルやスピードを生かして縦、縦に仕掛けてくる。全北のスタイルは日本で言ったら流通経済大柏高のサッカーに近い。英国のブックメーカー「ウィリアムヒル」の付けたオッズによると広州恒大、G大阪に次ぐ優勝候補の三番手らしいが、間違いなくグッドチームだった。柏は5バック気味の布陣を採用して相手の強みを消し、アウェイで勝ち点1を得ることに成功した。柏に限っては、知のバトルで一定の成功を収めたとも言える。

 加えて不確定要素の多いアジアの戦いでは、精密に組み上げていくサッカーがなかなか機能しない。守備ではしっかり知的に相手を壊すこと、攻撃はシンプルだけど”キャラの立った”モノを見せることが相手を上回る条件だと思う。

 07年の浦和レッズは序盤戦からセパハンとの決勝戦までホーム戦をほぼすべて見たが、あれはACLにおける一つの理想形だ。闘莉王、坪井慶介、阿部勇樹が最後尾を固め、中盤には長谷部誠と鈴木啓太がいる。前線にはワシントンとポンテ! それに永井雄一郎、田中達也と個でボールを運べる選手もいた。強さ、ドリブルと個の局面で相手を上回る絶対値を持った選手が揃っていた。お互いの強みを潰し合う”塩試合”になれば、あとは個で勝ててしまうという安心感があった。

 強さはもちろんだが、ドリブルもアジアの舞台では武器になる。先述のハン・ギョウォン(全北)もそうだし、07年のACLでは永井雄一郎が大会MVPを獲得する活躍を見せた。

▼必要な人材がいないわけではない
 自分が意外に”アジアでやれるのではないか”と思ったのが昨季の川崎Fだ。韓国の強豪・FCソウルを相手に中村憲剛、大久保嘉人、レナト、小林悠の攻撃陣は違いを見せていた。しかしホーム戦で守備陣が”安い失点”をしてしまったことで、ベスト8進出を逃したわけだが……。いずれにせよ”キャラの立った”チームである。

 今の日本に人材がいないわけではない。ウエスタンシドニーはACLのディフェンディングチャンピオンだが、高萩洋次郎と田中裕介を獲得し、高萩は鹿島を下す立役者になった。ヨーロッパで活躍する日本人選手を見ても分かるとおり、国際舞台で違いを生み出せるレベルのアタッカーが、この国にも十分に揃っている。

 振り返ればスーパーチームだった07年の浦和も、準決勝の城南一和天馬戦はPK戦にもつれ込む紙一重の接戦だった。最終的に勝負を分けるのはディテールの、ほんの少しの違いだ。相手をリスペクトしてその強みを受け止める知的な守備と、攻撃における個の活用、そしてちょっとの運さえあれば、Jリーグ勢もACLを勝ち取れるだろう。

大島和人

出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。柏レイソル、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。