『アニ×サカ!!』仕掛け人・バンダイビジュアル廣岡祐次が語る真意と狙いと秘めたる野心【アニ×サカ特集】

そもそも、アニメ界の人々はどういう思いでこの『アニ×サカ!!』に取り組んでいるのだろうか。スタート時の記者会見を除くと、それを伝える機会はほとんどなかった。最終回となる今回は、『アニ×サカ!!』を仕掛けた一人、バンダイビジュアル株式会社の廣岡祐次さんの話をもとに、このプロジェクトの意義についてお伝えしたい。アニメとかに詳しいライター・後藤勝によって明かされる秘められた意図と中長期的な視点とは――?


_MG_7943.jpg第四回 ラノベ作家兼磐田サポ・佐々原史緒が語るJのヒントは『タイバニ』『黒バス』『刀剣乱舞』!?

▼契機はフィギュア
 そもそもは水戸ホーリーホックと『ガールズ&パンツァー(以下ガルパン)』単独のコラボレーションがきっかけだった。廣岡さんは言う。

「『ガルパン』のキャラクターである五十鈴華(水戸出身)がユニフォーム姿になっているフィギュアを水戸サポの方が作ってくださり、常盤良彦さん(『ガルパン』の舞台となった大洗町の経営者で、作品と地域の橋渡しに奔走した)を介して水戸ホーリーホックの沼田邦郎社長のもとに届けたところ、2年前の秋、最初のコラボマッチにつながりました。最初お話を頂いた際、ぼくはもともとJ2が大好きなので『やりましょうよ!』と即決でした」

 大洗町は水戸市周辺8市町村のひとつで、水戸ホーリーホックのホームタウン推進協議会の一つ。鹿島アントラーズのサポーターも多いが、これからのクラブである水戸を応援したいという判断だった。

 応援すると決めたからには覚悟を示すべきと、看板スポンサーになりました。本腰を入れ始めると、FC岐阜は『のうりん』と、東京ヴェルディは『とある科学の超電磁砲』と、偶然それぞれコラボを始めた。2014年末、各クラブ関係者が一堂に介した際、3クラブが合同でアニメコラボイベントを開催することが決まり、これに呼応して3クラブ3作品の関係者が全員、バンダイビジュアル本社に集合。顔合わせをした結果、『アニ×サカ!!』が生まれることとなった。

DSC_8318_R.png
▼大切なのは恒常性
 アニメコラボをしていないチームを相手に独り相撲をするよりも、コラボをしているチーム同士で戦ったほうが対決色も出る。しかし3作品を束ねてグッズをつくるとロイヤリティ(※もしくは使用料)が倍加するなど、決していいことばかりではない。できることとできないことを模索しつつ、グッズ販売、着ぐるみや人気声優の来場、地域特産品の参加など趣向を凝らした。

 どちらかと言えば人気が低迷しているJ2クラブを、メジャーなアニメメーカーが後押しする構図である。となると、アニメメーカー側はまったく得をしないのではないかという疑問も起こる。実際、廣岡さんは学生時代、どんなに忙しくても『スーパーサッカー』だけは毎週欠かさずに見るようなJリーグ好きのサッカーファンだったことを告白している。いまではすっかり水戸のサポーターになったという廣岡さんをはじめ、サッカー好きが多いアニメ界の厚意に支えられている部分はたしかにある。

 しかし、ただ好きだから応援しているというわけではなく、もう少し思慮深い。

「コラボを始めたときから一貫しているのは、最終ゴールは、アニメ作品のファンの皆さんが『恒常的にスタジアムに来て』クラブを応援すること。そしてクラブのサポーターの皆さんにアニメ作品を好きになってもらうこと。この二つです。だから、ただグッズが売れればいいなどという気持ちはみじんもなく、最終的にサッカーを見て好きになってもらいたいということが、最初からの個人的な思いなんですね。実際やってみて驚いたのは、女性やお子様含めかなりのサポーターの方が、コラボユニフォームなどを着用して頂いていることですね。少なくともこの2年で認知はして頂いているかなと」

 現実の施策と矛盾するように聞こえるかもしれないが、たとえば、有名な芸能人をスタジアムに呼び、その試合に一万人来たとしても、次の試合からまた観客動員が三千人に戻ってしまうのなら、それは廣岡さんが最終的に目指すところではない。二つのゴールに向かって大切なのは継続性だと、廣岡さんは言う。

「一万人のうち七千人が初めて来たとして、そのうちの七十人がサポになってくれればいいと思うんですけれども、でも、現実にはそんなに簡単ではない。七十人と言ったら一%じゃないですか。それでも厳しい。去年のコラボマッチは三回開催すると最初から決めていました。これは受け売りなんですけれども、人間は三回同じ行動を繰り返すと習慣化する土壌が出来る、というのを何かの本で読んだんですよ。次の年に何かがあったとき、じゃあ見に行こうかなというきっかけになるのではないかと思って。

 クラブの方には『新グッズはスタジアムで最初に売りましょう』と言いつづけています。スタジアムに来て、グッズを買っただけで試合を見ずに帰る人も、もしかしたらいるでしょう。でも、とっかかりはそれでいいと、ぼくは思っているんです。習慣づいていけば『きょうは試合も見ていこうかな』と思うかもしれない」

 アニメのファンもサッカーのサポーターも、ひとつのことに熱中する気質が共通しているので、好きになると、その対象をとことん好きになる。近い存在なのではないか──と、廣岡さんは考えている。本名は互いに知らなくとも、逢えば挨拶して話し込む関係は、スタジアムでもアニメのイベント会場でも起こりうる。

B2Poster_ol.jpg
▼まず「注意」から
「仮に大洗町でいつも会っているというコミュニティが5人、6人いたとして、そのまとまった人数がスタジアムに足を運ぶ。逆にサポーターの方がコラボを機に大洗町に遊びに行く。そういう行き来を発生させられればいいな、と」

 AIDMAの法則というものがある。

A:Attention(注意)
I:Interest(興味、関心)
D:Desire(欲求)
M:Memory(記憶)
A:Action(行動)

 注意を引いて、関心を持ってもらい、欲求を掘り起こし、記憶に刻んでもらって、行動に移してもらう。廣岡さんは社会人になって、接客業に従事している時にこれを学んだ。

「行動に移すまでに、まず認知段階があります。『ガルパン』が好きで大洗に通っているひとのうち、水戸にクラブがあると知っていたひとが何人いるのか。そこからのスタートなんですけれども、コラボがなかったらスタート地点すら生まれない。まずやってみる、注意を惹く」

 スタジアムに戦車がやってくる、コラボグッズを販売する、という情報発信で興味、関心を持ってもらう。それが、グッズがほしい、声優さんに逢いたいという欲求に変わり、何月何日にスタジアムに行けばそういうことができると記憶に留めて行動に移す。そのためには最初のAが始まらないと何も始まらない。

「新たなファンを呼ぶ、そのきっかけの一つがアニメだっていいじゃない──それは自分がアニメに従事する人間だから思うわけです。お互いがお互いを知ってもらう幅が拡がったのだと、ポジティブに捉えています。コラボマッチの観客が仮に三千人だったからと言って失敗だとは全然思っていない。終わったあとの情報発信という手段だってあるわけです。例えば『内山昂輝さんという声優さんが、応援する東京ヴェルディの0-3からの大逆転勝利にはしゃいでいた』、というニュースは『アニ×サカ!!』をやらなければ載らないわけですよね。また取り組みを通して、もしかしたらアニメにもサッカーにもライトなホームタウン在住の方が、何か面白そうだから次に行ってみようという行動につながる可能性もある。目先の試合の観客動員が少なかったからと言って、コラボをやめるつもりはさらさらないです。むしろ継続的に取り組む事で、とにかくきっかけ作りをし続けていきたいなと」

 今シーズンでアニメ作品とJクラブのコラボは、確実に規模が拡がった。来シーズン以降、廣岡さんはこの取り組みをさらにリーグ全体へと拡げていきたいと考えている。

「単純に参加クラブ・タイトルを増やすという手段も勿論ありますが、他にもJリーグを取り巻く様々なモノがあると思いますので、色々考えて広げていきたいですね。そしてアニメとのコラボが気になる地域の方、各クラブの方、もしご要望があれば、もれなく巻き込まれますので、お声がけをお待ちしております(笑)! できるだけJ2で継続するつもりですが、J2じゃなくても!」

 本年度『アニ×サカ!!』の締めくくりはケーズデンキスタジアムで開催される9月27日の水戸ホーリーホックvs.FC岐阜、10月18日の水戸ホーリーホックvs.東京ヴェルディの二試合。総決算であるここが、今後に向けた指標となるのかもしれない。

 もともとのアニメへの関心のなさ、目に見える観客動員増効果があまりないことから、現時点で『アニ×サカ!!』に対するサッカー側の反応が鈍いのは当然かもしれない。実際、わたしは、面と向かって「観客が増えなきゃ(やっても)仕方がないじゃないか」とサッカーメディア関係者に言われたこともある。

 それはもっともだ。だが、次世代のファン育成を何代にも渡って繰り返してきたアニメ関係者の、先を見据えた地ならしを、もっと歓迎してもよいのではないか。百年構想と言いながら短期的な迷走に終始するのではなく、腰を据えた地道な作戦があってもいい。なにより、大手のアニメメーカーが実績ある作品の人気を背景に、経営に苦しむJ2クラブを後押ししようという施策は、めったにあるものではない。アニメ関係者の熱意をむだにすることなく、将来につなげたい。

RANKING

タグマ! RANKING

    RECOMMEND

      Facebook