ラノベ作家兼磐田サポ・佐々原史緒が語るJのヒントは『タイバニ』『黒バス』『刀剣乱舞』!?【アニ×サカ特集】
佐々原さんがいちサポーターの観点から考える、Jリーグを盛り上げる一手とは何か。
見習い神官レベル1 ~だけど、この手を離さずに~(ファミ通文庫)
→第三回 ラノベ作家・舞阪洸の視点。「なぜJリーグのスタジアムには○○がないのか?」
▼いつの間にか磐田のサポーターに
「1985年、トヨタカップで初めて生のサッカー観戦をしました。プラティニの幻のシュートを目の前で見られた、幸運な日本人の一人です。『世の中にはこんなすごい競技があったのか!』と開眼。その後、ときどき友達に誘われるままスタジアムに行って、日本リーグを見ていました。当時は特に贔屓というほどのチームはなかったですね」
Jリーグ元年には、地元である東京のJクラブはなし。国立競技場へと通ううち、横浜フリューゲルスのサポーターとなるものの、フリエは消滅。その衝撃がたたり、しばらくJリーグを見なくなってしまった。
再びサッカーへの情熱が持ち上がったのは2002年のW杯がきっかけだった。
「開催地住民枠で当選して日本対ベルギー戦の試合を見に行ったんです。満員のスタジアムと頑張っている選手を目の当たりにし、『いつまでも死んだ子の年を数えていてどうするんだ』『国内リーグを支えることこそが日本サッカーの明日を支えることになるんだ』と割と本気で思い至り、再びJサポに戻ろうと決意しました」
仕事の都合で埼玉県に引っ越していたこともあり、東京が地元という意識ももはや希薄になっていた。片っ端からJリーグの試合を見まくる。単純におもしろいゲームが数多い、好きになれる選手が多数所属している、身近な知り合いが静岡通いをこなしている――という条件が重なり、ゴール裏やサポーターの気質が自分の肌に合うものだったことで、佐々原さんはジュビロ磐田を応援することになった。
▼弱くなってもバルサより磐田
ただ、弱くなったら見限るのかと言えばそうではない。流動的なパスワークで黄金時代を築いた過去とは対照的に「千本クロス」と呼ばれるほどスタイルが様変わりしても、佐々原さんは磐田のサポーターをつづけている。
「地元のクラブだから好き、というのとはちがうのですが、先に好きになったのがジュビロだったから仕方がない」
地域愛ではないが、かと言ってレベルが高い、低いだけで熱狂しているわけでもないのだ。
「実はカンプノウのロイヤルシートでバルサの試合を見たことがあります。美人のお姉さんが王室御用達のブランドの食べ物や飲み物をいつでも運んできてくれて、エアコン完備のガラス張りの中、ふかふか綺麗なシートで試合をのんびり見下ろすという、本当に贅沢極まりないひとときでした。選手の躍動感やテクニックは言うまでもありません。サッカーの完成形としてあれ以上のものはちょっとないし、スポーツ文化としてもあれに比類するものは稀でしょう。
でも、やはりJリーグがいいな、と。ヤマスタや国立でメロンジュース飲みながら、ひどい内容に青筋立てて怒りながら、雨に打たれて風に晒されても、それでもやっぱり自分のチームが何よりいいんだなとその帰り道にしみじみしたのをよく覚えてします。
試合ひとつひとつプレーひとつひとつだけではなく、長く長くチームに寄り添って苦楽を共にできるのがJリーグの魅力だし、Jサポーターの醍醐味なんじゃないでしょうか」
エンターテインメントの送り手として、サッカーのここがすごい、と感じるところを、佐々原さんは次のようにえぐり出している。
「日本に蹴鞠があって、西洋にサッカーが誕生したように、おそらく人間って何か蹴ることとそれを目で追うこと自体が本能的に楽しいんだと思います。
肉眼で追うのにあまり速すぎない、されど、飽きるほどは遅すぎないというボールスピード、それに加え、あまり競技ルールが複雑ではないこと、選手の体力と観客の集中力がほどよく保つ試合時間であること、そしてもちろん、手を使わないという特殊な環境化であるため、極めれば一流の職人芸となり、プロと素人の差がはっきりとした違いとなって出てくること=お金払ってでも見たいと思える。これがプロスポーツとしてのサッカーの強みだと思います。
その中でJリーグが自分にとって特別なのは、やはり『いつも手に取れるほど近くにあったから』ではないかな、と。
晴れた日も雨の日も、心は共に。
磐田が負けるたびに書いてきた言葉なんですけれども、競技者以外がずっとずっと一つのチームと苦楽を共にすることができる幸せ、それがJリーグの魅力だと思います」
▼ACLと審判の改革を
サッカーを仕事にすると厳しい部分が出てくるし、思い入れがありすぎてうまく書ける気がしなかった、という佐々原さん。しかしフットサルの短篇(ファミ通文庫部活アンソロジー「青」収録の「サルと踊れば」)を書いてみると思いの外楽しく、今後はサッカーを題材にした作品を書いてみたいという気持ちも湧いてきたという。やはりサッカーは物語文化との相性がよいのかもしれない。
もしサッカーを題材にした作品が生まれればそれだけの経済効果があるということになるが、現実にはJリーグの危機が叫ばれ、2ステージ制を導入するなどして打開を図っている状況だ。改革案として、佐々原さんはまず審判とACLを挙げた。
「レフェリーの育成にはもっと力を注いで欲しいと思います。できることならもっとお給金をアップしてあげて欲しいし、その分、レベルの揃ったレフェリングをお願いしたいです。ミスジャッジは人間である以上仕方がないと思うのですが、一つの試合の中で笛の基準が定まらないのは技術の問題。しかし、残念なことにしばしば見受けられます。
あと、ACL対策。磐田がこれに参加できていた時代はナビスコ全出撃の横でリーグやって海外行って、でもっとひどかったんですけれども……。他国リーグはACLのために国内リーグを日程変更してまでチームコンディションをそこに完璧に合わせてきます。対して、Jリーグはほぼ通常運転というか、チームによってはACLを捨てるしかない状態。ナビスコと天皇杯ですらベストメンバー制に縛られていて、ターンオーバーすらままならない状況です。いろいろと厳しいのは判っていますが、もう少しリーグの日程調整をできないかなと。
Jリーグは見ないけれど日本代表戦は見るという層にACLはもっとアピールできる気がします。また、大会の権威付けを国内で高めて、地上派などでも積極的に流すなどしていかないと、いつまでたっても『J1上位チームの罰ゲーム』状態でもったいないです。日本のチームがこれから中国、韓国、中東のチームと戦いますよ、という眼で見てもらえれば、内容が観賞に耐えうるかは別にして、Jリーグのマニア以外にも楽しめるものになると思うんですが」
▼露出と人気回復の一手は『黒バス』?
話を訊いていくうちに「朝のテレビ番組で昨日のJリーグをやってほしい」という言葉が出てきた。たまに映るとすれば、横浜FCのカズに1点を獲られた、という採り上げられ方だ。しかし勝った磐田が引き立て役であっても、ニュースで採り上げられないよりはいい、と佐々原さんは言う。関心を持ってもらうためのフックが必要なのだ。その一手として、『アニ×サカ!!』も十分有効だと、佐々原さんは考えている。
「『ガルパン』と水戸ホーリーホックのコラボマッチを観に行き、水戸のサポーターになっったわけではありませんが、サッカーに興味が湧いて近所のクラブのサポーターになった人は知っています。FC岐阜に通うのは無理でも近所に○○があるから観に行こうという人がちょっとでも増えるのであれば、フックはなんでもいい、コラボができるところがあるのであればどんどんやったほうがいいと思います」
『アニ×サカ!!』だけでなく、J1のサガン鳥栖も『アイドルマスターシンデレラガールズ』とのコラボを発表したが、今後こうしたクロスオーヴァーの試みが加速していくかもしれない。
佐々原さんは言う。
「『タイバニ(TIGER & BUNNY)』にあったアニメ内企業広告みたいに、映像作品内にチーム名を入れてもらえないだろうか、と思うんです。サッカーのアニメ側への進出ですね。また、『アニ×サカ!!』は三作品と三クラブのコラボですが、Jクラブすべてを巻き込める試みがあってもいい。たとえば、どこかの船や刀のようなJ1全18チーム女子擬人化。キャラ付けもけっこういけると思います。チームカラーや県民性、サポーター気質などキャラクターが立ちそうな要素はいっぱいありますよね。Jクラブ側からは川崎フロンターレの『カワサキまるこ』という発信がありますが、これをリーグ全体でやっていけないかと」
さらには萌え分野での展開だけでなく、よりメジャーな取り組みも欲しいと、佐々原さんの言葉はつづく。
「サッカーが強いのは『キャプテン翼』があったこと。若い頃に『キャプテン翼』を読み、サッカーを好きになり、お嫁さんにいっちゃって自分では見なくなったが、子供に習い事をさせるときにはまずサッカー……という女性がユースのサッカーを支えているんです。『キャプテン翼』や『ホイッスル』のようにメジャー誌にサッカー漫画を載せ、そこにJリーグが協力することは急務だと思います。『黒バス(黒子のバスケ)』の流れで女の子にも読んでもらえたら」
『キャプつば』が連載を始めてから34年の月日が経っている。再び狂熱をブーストするために、サッカー界は人気向上策を仕掛ける時期に来ているのではないだろうか。