ラノベ作家・舞阪洸の視点。「なぜJリーグのスタジアムには○○がないのか?」【アニ×サカ特集】
自作のメディアミックスを経験し、出版物の編集にも携わったことがあるなど、エンターテインメントの側面から物事を幅広く見る眼を持つ舞阪さんは、現状のJリーグ、そして『アニ×サカ!!』の取り組みをどう捉えているのか。
『ロムニア帝国興亡記VI ─迫り来る決戦の時─』(富士見ファンタジア文庫)
→第二回 『のうりん』関係者激白。コラボの実情と思わぬ波及効果とは?
▼いまのチャンピオンシップは「潔くない」
「子供のころ『三菱ダイヤモンドサッカー』を見ていた者としては、長らく日本にプロサッカーリーグがないことを悔しく思っていました。だからJリーグが始まったときは快哉を叫んだものです。それ以来、ずっとJリーグを追い掛けています。やはり自分の国のリーグ、自分の街のチームというものは、いいものです。観ていて楽しいです」
しかしそのJリーグが存亡の危機とあっては、心中穏やかではない。低迷から脱しようともがいた末の2ステージ制にも、舞阪さんはもどかしさを感じている。
「今年始まった2ステージ制と、それに伴うチャンピオンシップですが、わたしの感想としては『なんという潔くない制度だ!』ですね。2ステージ制なのに通年勝ち点を持ち出したり、2位や3位のチームにチャンピオンシップ出場権を与えたりして、これ以上なくわかりにくいシステムにしたことが”潔くない”と思う原因です」
2ステージ制そのものを否定しているわけではない。その見せ方、工夫が足りないことを嘆いているのだ。
「2ステージにするなら、もっと潔い、つまり、もっとわかり易いシステムにするべきだろうというのがわたしの主張です。今のシステムは、どのチームがチャンピオンシップに出られるのか、条件が細かくなりすぎて、コアなサポーター以外にはさっぱりわかりません。2ステージ制にしたのに、年間勝ち点とかを持ち出すからわけのわからないことになるのです。今の順位表を見ると、ファンは混乱しますよ。セカンドステージの順位の横にファーストステージの順位と通年順位が並んでいるんですから」
「2ステージ制なのだから、ステージの勝ち点だけを見せればいいんです。そうしてファーストの1位とセカンドの1位で、プロ野球で言う日本シリーズ(的な試合)をやればいい。両期とも同じチームが優勝したら、そのチームが年間チャンピオン。これ以上わかり易いシステムはないでしょう。同様に、ファーストの最下位チームは降格。セカンドの最下位チームも降格。残り1チームはファーストとセカンドの16位と17位を混ぜて残留決定戦を行う。この場合、両方で18位と17位が、あるいは16位と17位が同じチームだった場合など、幾つかアレンジが必要になりますが、基本的には今よりもずっとわかり易くなります。ファーストで最下位になったチームのモチベーションが保てないというなら、セカンド優勝で降格は取り消しになるとでもしておけばいいのです。優勝だとハードルが高すぎるのなら、3位以内でもいい。それならファースト最下位のチームでも、セカンドステージは、それこそ死ぬ気で頑張るでしょう。あとはステージ2位と3位のチームでACL出場決定戦をやればいい。17試合の短期決戦ですから、それで消化試合は大きく減るはずです」
『落ちてきた龍王<ナーガ>と滅びゆく魔女の国VIII』(MF文庫J)
▼アマチュアの議論から脱却を
昨年の議論は「2ステージ制は是か非か」という”べき論”に終始した感があるが、1ステージ制であろうが2ステージ制であろうが、どうすればおもしろくなるか、エンターテインメントの視点で語られた機会はそう多くなかったように思う。現状のJリーグが壁を脱しきれないのはなぜか。とどのつまり、試合の開催について、アマチュアの域を脱しきれていないことが問題なのかもしれない。どう演出すればお客さんにわかりやすく注目される興行になるか、サッカー関係者はいまよりももっと徹底して考える必要があるのではないか。
「そういう意味では、もっと数字を前面に押し出すべきだと思います。野球ファンが個人部門の話題で盛り上がれるように、Jリーグもいろんな公式部門を設けて表彰すればいい。まずは(旧日本リーグ時代にはあった)アシスト部門を復活させるところから始めてほしい。プロ野球は、優勝の可能性がなくなったチームのファンも、ホームラン王や首位打者、打点王の話題で盛り上がれるのです。トラッキングデータシステムを使って『最長距離走破選手』とか『最多スプリント選手』を表彰したって楽しいじゃないですか」
舞阪さんの思考は、観客動員の質についても及ぶ。
「最近、よく観客動員数の伸び悩みが云々されますけど。まぁ2ステージ制もその流れから出てきたわけですが、けれどそれは、数字だけを見て論じても本質が見えてきません。日本におけるサッカー観戦の最大に欠点はスタジアムに屋根がないということです。雨が降っただけで自動的に観客動員数は落ちるのですから。技術的にヨーロッパの一流リーグに及ばないのは、リーグが始まって10年、20年では仕方のないことですが、スタジアムに屋根をつけるのは、サッカーの技術や経験とは関係のない話です。雨が降ったら中止になる野球ならともかく、雨が降っても試合が行われるサッカーでは、屋根がないと安心して前売り券を買えませんよ。少なくともわたしは札幌ドーム以外では安心して買えない。コアなサポーターは雨が降ろうが槍が降ろうが駆けつけてくれるでしょうけど、ライトなファンはそうじゃないことを理解するべきです。雨に濡れてまで試合を見たいとは思わない。そういうライトなファンをどれだけ確保できるかが観客動員数に大きく影響するんです。ライトなファンというのは裾野です。裾野が広がらないと頂上は高くなりません。ライトなファンが、やがて熱心なサポーターに育っていくんですから、まずはライトなファンを開拓するところから始めるべきなのに、そこをチームもリーグもおざなりにしている気がしてなりません」
システムとハコを整備するだけで、観戦環境はぐっとよくなる。自ずと、おでかけの対象にもなりやすい。Jリーグに足りないのは、居心地がよい、あるいはほかにはない楽しさがある、そうした「場」をつくろうとする努力なのかもしれない。その意味で、『アニ×サカ!!』の舞阪さんは『アニ×サカ!!』の取り組みをこう評価する。
「いいと思いますね。出発点として、むしろサッカーの試合は見なくても、コラボのグッズは買うというアニメファンを大事にするべきでしょう。彼らはお金を持っていますからね(笑)。それで観客動員が増えなくてもいいんです。例えば四国や九州のアニメファンが水戸までサッカーの試合を見に来られますか? ふつう来られませんよ。でも、彼らはガルパンTシャツなら買ってくれるかもしれない。『アニ×サカ!!』のコラボグッズはアニメショップに売ってないレアものですからね」
舞阪さんは札幌市で活動する立場から、地元企業の『クリプトン・フューチャー・メディア』が開発したボーカロイドの歌姫、初音ミクを引き合いに出してこうも言った。
「そういう意味では、なぜコンサドーレ札幌は初音ミクのコラボTシャツを出さないのかということを、わたしは声を大にして言いたいわけです(笑)。世界に冠たる札幌の歌姫をもっと使うべきだろうと。そのくらいの営業努力はしようよと。ということを野々村社長にはお願いしたいと思います(笑)。初音ミクのコラボTシャツ出たら、一人で5枚くらい買いますから!」
ドラマCD『落ちてきた龍王<ナーガ>と滅びゆく魔女の国』(ツクル(ノ)モリ株式会社)
▼成長のヒントは意外なところにある
舞阪さんの、目標から逆算した考えはおもしろい。Jリーグに活況をもたらそうと思うなら、熱心なサポーターを増やす前に、もっとライトなファンを増やそうよ、同時にサポーターやライトなサッカーファン以外にも手を広げて売り上げを増やそうよ――それが、舞阪さんの主張の根幹だ。
「そこはスタジアムに屋根を付けるのと違って、それほどお金をかけなくても、営業努力でなんとかできる範囲なのですから……まだまだ言いたいことはあるし、アイディアもあるので、もし記事を書かせてくれるメディアがあれば、あるいは、どこかのチームの営業さんがアイディアを聞きたいと言うのなら、いつでも応じます」
あれやこれやと、次々にアイディアの奔出を求められる作家の提言には、『アニ×サカ!!』に近い、Jリーグを外から揺さぶろうという熱意が感じられる。ともすれば埒外の民と見過ごされがちなサブカル方面の声に、もう少し関心を持ってみてもよいのではないだろうか。それが成長のヒントになる可能性がないと、誰に言えよう。