アギーレジャパンの新エース候補・南野拓実の秘めたる可能性
最年少ながら前任のザッケローニ監督にも才能を高く評価されていた桜色の青年。南野拓実の可能性を探ってもらった。
▼4年後へ若返りは必至
日本代表監督がハビエル・アギーレ氏に決定した。今後4年間、日本はアギーレ監督と共にロシアの地での躍進を目指す。しかし、4年という月日は短いようで長い。そのころ香川真司や柿谷曜一朗はそれぞれ29歳、28歳とキャリアのピークとも言える年齢で大会に挑むことになるが、本田圭佑や岡崎慎司は32才とベテランの域に達している。前線のテコ入れ、新陳代謝は4年後に向けて解決しておきたい必須の課題となる。そこで今回は、アギーレジャパンに一人の若手を推したい。それは、香川や柿谷の後輩であり、現在セレッソ大阪の攻撃を牽引している桜の戦士、南野拓実だ。
Jリーグ、C大阪ファン共に今さら説明不要かもしれないが、南野はトップ下やウイングでプレーする期待の若手選手だ。2012年に当時17歳でトップチームデビューを果たすと、翌年の2013年には、レギュラーに定着。主に、左ウイングでプレーし、通算38試合8得点という実質初年度の若手にしては十分すぎる結果を残した。そして、2014年もレギュラーとしてプレーすると、その活躍ぶりが認められ、4月には日本代表候補合宿にも参加。一躍、多くのサッカーファンから名を知られる存在になった。
最終的に、ブラジルW杯のメンバーには選ばれなかったものの(予備登録)、その高いポテンシャルはザッケローニ監督も高く買っていた。4年後、23歳になっている南野が、2018年ロシアワールドカップに臨む日本代表の中心選手になる。その可能性はどのくらいあるのだろうか。
▼その美点と短所は表裏一体
そんなエース候補生の南野のプレースタイルは、パス、ドリブル、シュート、どれも高い水準でこなすことができる万能型アタッカー。ピッチのどの位置でボールを受けても、ターンを意識しているため、縦への推進力がある。そして、味方を使うべきときにはシンプルにさばけるので、決してボールロストが多いタイプというわけでもない。ミドルシュートを狙う意識も高く、プレーの選択肢は豊富だ。攻撃面で違いを作る選手だが、守備の局面でもサボることがないのも貴重な個性。しっかりとハードワークすることができる上に、ボディーコンタクトも問題ない。これらの特徴はどれも、堅守速攻を志向することが有力視されているアギーレジャパンにフィットする見込みはある。
ただし、南野には課題もある。
その一つ目は、やはり気性面だ。守備の局面で戦える熱いハートは紛れもない長所でもある。だが諸刃の剣であることも否めず、時にヒートアップし過ぎてレッドカードをもらうことも少なくない。直近の例だと、バーゼルに移籍することが決まった先輩、柿谷のセレッソ最終戦で一発レッドをくらって退場。試合後、その柿谷に「こんな大事なときに、退場するアホもいますけど…」と皮肉を言われることに(もっとも、この「アホ」という言葉は皮肉のニュアンスはあれども、関西人的には決して悪口のニュアンスはないことを付け加えておきたい)。
柿谷が続けて「でも、あいつがチームを強くしてくれますし、期待をしてあげてください」と南野に対する期待値の大きさを明かしていることも見逃すべきではない。繰り返しになるが、守備で戦う姿勢を出せること自体は決して悪いことではない。先輩からの期待に応えるためにも、不必要な退場を減らしておきたいところだ。
▼その本職は、トップ下
もう一つの課題は、得点力ではないだろうか。1年目の8得点(うちリーグ戦は5得点)という結果は、実質1年目の若手にしては十分というのは、先にも述べた通り。ただ、一つ上のランク、つまり代表でレギュラーとして活躍するレベルに到達するためにはやや物足りない。実際、南野自身も、昨シーズン、最終節の浦和レッズ戦の試合後、「ゴール数が全然足りない。僕が2ケタ取っていたら、チームの順位も変わっていた」と、自身の課題を明かしている。
しかし、その課題を意識し過ぎたのかもしれない。今季はゴール前で決め切れないシーンが多く、未だにリーグ戦無得点。この得点力不足という大きな壁にぶち当たっている。この壁を乗り越えられるかどうかが、南野のキャリアを大きく左右するだろう。
ただし、これについて過度の心配は無用という別の見方もある。
それは柿谷が移籍したことで、南野がトップ下としてプレーする可能性が高くなったからだ。昨季も今季も左ウイングでのプレーが大半の南野だが、本職はトップ下。実際、昨季の最終節、浦和レッズ戦で、トップ下として起用された南野は、水を得た魚のようにピッチの中央で躍動。2得点の活躍でチームを勝利に導いた。すると、昨季までセレッソを率いた、名将レヴィー・クルピ監督に「今日のように中央でプレーしていれば、(南野は)もっとゴールを決めることができた。今季の数字(5得点)は監督としての私の責任」とまで言わせている。
今年も、ディエゴ・フォルランという大物ストライカーの加入もあり、ランコ・ポポビッチ監督の下、ウイングでの起用が大半だった南野だが、監督がマルコ・ペッツァイオリ監督に代わり、エースストライカーの柿谷も移籍した今なら、本職のトップ下のポジションの起用される回数も増えるだろう。トップ下というゴールに近い中央でプレーできれば、浦和戦同様に得点も自然と増えていくのではないか。
実際、7月27日に行われたサガン鳥栖戦では、最終的に無得点のまま、1-0で試合に破れたものの、南野はトップ下としてプレーして何度も鳥栖ゴールに迫った。あと、数試合トップ下で起用してもらえれば、得点を決められるはず。そして、待望の今シーズンリーグ戦初得点を決めて手応えさえつかめば、2点目、3点目も取っていけるだろう。そうして、得点を重ねながら、ゴール前の冷静さや、駆け引きを獲得していけば、南野はスコアラーという側面を手に入れられる。そうなれば、代表入りはもちろん、その先も見えてくる。
大きな才能を持っているのは間違いない。あとは、少しのきっかけをつかめるかどうか。大阪の地で奮闘する19歳の、今後の成長に期待したい。