新生日本代表、ラジカル選考の裏にある意図をポジション別で冷静に解き明かす

週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合う『J論』。今週は「アギーレ・ジャパン最初の23名から見えたものとは?」と題して、28日に行われた新生日本代表発表を踏まえて、ワンポイントで日本代表の現在と未来を読み解いてみる。第四回目は、編集長の川端暁彦が、サプライズの興奮も冷めてきたこのタイミングで今一度「最初の23名」の狙いを分析する。極めて急進的に見える選考から見えてきたものとは......?


<写真>ミランで結果を残しつつある本田。代表でも右ウイング起用か?

▼"大型化"という狙いは明確だが......
 サプライズ選出があったこと自体はサプライズではなかった。

 代表監督が「最初の招集」にメッセージを込めるのは珍しい話でもない。しかし、Jリーグでの実績がほとんどない大卒ルーキーの皆川佑介(選出時のリーグ戦先発はわずかに1試合)と大卒2年目で今季リーグ戦4試合しか出ていない坂井達弥の招集は、確かにホンモノのサプライズだった。そこで今回は、ポジション別に「最初の23人」について考えてみたい。

【ゴールキーパー】
川島永嗣(スタンダール・リエージュ)
西川周作(浦和レッズ)
林彰洋(サガン鳥栖)

【主な落選】
権田修一(FC東京)、東口順昭(G大阪)、林卓人(広島)

 川島と西川の選出は順当というか、誰も驚かない選考で、林の招集も予想していた人も多かっただろう。195cmの長身は日本人としては規格外。リカルド・ロペスGKコーチが直接視察しての招集決定とのことで、日本代表の新首脳陣は大きなGKが好みかもしれないという推察も可能だ。"大型化"は他のポジションでも顕著に読み取れる傾向であり、新指揮官の大きな方向性となるかもしれない。

【センターバック】
水本裕貴(サンフレッチェ広島)
森重真人(FC東京)
吉田麻也(サウサンプトン)
坂井達弥(サガン鳥栖) ※初選出

【主な落選】
今野泰幸(G大阪)、塩谷司(広島)、山下達也(C大阪)、鈴木大輔(柏)、昌子源(鹿島)

 ザック体制におけるレギュラーだった今野が選外となったのが大きなトピックだ。31歳という年齢がネックになった可能性もあるし、178cmというサイズがアギーレ監督の好みに合わなかったのかもしれない。その今野に代わって左センターバックとして呼ばれたのが、鳥栖の坂井達弥。左利きのDF不在はザック体制時代から一つの問題点でもあったので、招集の狙いは分かりやすい。突出してフィードが上手いわけではないが、183cmと大柄の割には俊敏。そして戦える選手であることが評価されたのだろう。また28歳の水本を選んだのも、ちょっとしたサプライズだ。対人能力に特長を持つタイプであり、以前よりも向上したとはいえ決して"上手い"選手ではない。センターバックに関してはビルドアップ能力よりも対人能力を重んじるのかもしれない。

 落選組では塩谷司は選出時にチームで先発落ちした状態でアギーレ監督がプレーを観る機会はなく(第22節・徳島戦で先発復帰)、自然な落選だった。もともとセンターバックは日本の泣き所。坂井抜擢の背景には、この位置の人材難という日本サッカー界自体の問題点も見え隠れする。

【左サイドバック】
長友佑都(インテル)
酒井高徳(シュツットガルト)

【主な落選】
太田宏介(FC東京)、藤春廣輝(G大阪)、橋本和(柏)、安田理大(鳥栖)、下平匠(横浜FM)、大野和成(新潟)、丸橋祐介(C大阪)

 泣き所という意味では、左サイドバックも一つの課題だ。最も左利きのメリットが大きいこの位置でその適材が見付けられていない。ザック体制でのレギュラーは長友佑都だが、右サイドバックや左右サイドのより高い位置でもプレーできるので、彼をこのポジションで使うことにこだわる必要はあまりない。また「4年後」を考えると、28歳という年齢も気掛かりの一つ。今回はアギーレ監督が選ばずに前任者の選考を踏襲したと言われる海外組で二つのポジションが埋まってしまったゆえに新戦力の抜擢がなかったが、10月のシリーズでは「左利きの左サイドバック」の抜擢があるのではないか。新潟の大野和成のようなセンターバックを本職とする大型選手を左に置くといった奇抜なアプローチもあるかもしれない。

【右サイドバック】
酒井宏樹(ハノーファー)
松原健(アルビレックス新潟)※初選出

【主な落選】
駒野友一(磐田)、丹羽竜平(鳥栖)、森脇良太(浦和)、西大伍(鹿島)、米倉恒貴(G大阪)、吉田豊(清水)

 長友、酒井高が共に右利きの「左右兼用サイドバック」であり、内田篤人(シャルケ)が近い内に復帰してくるであろうことを思うと、意外に枠がないポジションである。同様の左右兼用タイプとしては清水の吉田豊の名前が挙がるかもしれない。今季前半戦のプレーで言えば鳥栖の丹羽竜平が外せないが、4年後を思うと、1986年生まれの彼ではなく、もっと若い選手を探すだろう。

 今回、松原健が抜擢されたのはその先鞭とも言える。一部では「アジア大会のU-21日本代表から落選したにもかかわらず」といった語られ方をしているが、これは誤解だ。同大会はJリーグ開催期間中のため、1クラブ1名に選出が限定されていた。前線の柱である鈴木武蔵が外しがたかったため、泣く泣く松原を外したというのが真相だろう。後ろから組み立てができて、上下動でもできる松原を外す理由はない。

【アンカー】
長谷部誠(フランクフルト)
細貝萌(ヘルタ・ベルリン)

【主な落選】
阿部勇樹(浦和)、高橋秀人(FC東京)、小林裕紀(新潟)、米本拓司(FC東京)

[4-3-3]と言われるシステムの肝は、二人のセンターバックの前方に位置するこのアンカーのポジション。守備に強く、なおかつ組み立てもできる選手が望ましい。このポジションも左サイドバックと同じく海外組で「枠」が埋まってしまったのかもしれない。長谷部誠のみがW杯からの継続選出だが、ザック体制でも継続してメンバー入りしていた細貝萌の復帰も、特に新規性はない。

 機動力に富み、飛び出していくプレーを得手とする長谷部のアンカー起用は意外な印象もあるが、30歳(4年後には34歳)という年齢を思えばむしろ新しいプレースタイルを確立できるかどうかが問われる段階なのかもしれない。

【インサイドハーフ】
田中順也(スポルティング・リスボン)
森岡亮太(ヴィッセル神戸)※初選出
扇原貴宏(セレッソ大阪)
柴崎岳(鹿島アントラーズ)

【主な落選】
遠藤保仁(G大阪)、中村憲剛(川崎F)、高萩洋次郎(広島)、長谷川アーリアジャスール(C大阪)、清武弘嗣(ハノーファー)、茨田陽生(柏)、土居聖真(鹿島)

 前政権時代から「候補」と目されていた柴崎岳と扇原貴宏の選出は予想の範囲内だった。長身かつ左利きという扇原の個性が買われたのは容易に想像がつくし(候補になりそうな左利きのボランチタイプは扇原くらい)、柴崎は現在のJリーグのパフォーマンスを見れば選ばない監督のほうが珍しいだろう。34歳の遠藤保仁は選外になったが、将来性だけでなく現時点でのプレーぶりという意味でも柴崎に軍配が上がるのは否めない。

 初選出の森岡亮太は純粋なトップ下タイプのファンタジスタ。周りが見えるタイプなのでインサイドハーフとしても攻撃面での問題はないだろう。あとは守備面で違いを出せるかどう。左足に特別製のキャノン砲を具備する田中順也はFWの印象が強いかもしれないが、この位置で個性を出せる選手だ。

【右ウイング】
岡崎慎司(マインツ)
本田圭佑(ミラン)

【左ウイング】

武藤嘉紀(FC東京)※初選出
柿谷曜一朗(バーゼル)

【主な落選】
大久保嘉人(川崎F)、永井謙佑(名古屋)、香川真司(ドルトムント)、小林悠(川崎F)、乾貴士(フランクフルト)、齋藤学(横浜FM)、原口元気(ヘルタ・ベルリン)、宇佐美貴史(G大阪)、南野拓実(C大阪)

右ウイングは岡崎慎司と本田圭佑が定位置を争うという前政権時代は考えられなかった形になるかもしれない。本田はミランでまさに右ウイングとして結果を残しつつあり、違和感はなさそう。初選出となったFC東京・武藤嘉紀は負傷辞退者に代わって呼ばれたとアギーレ監督が明言しているので、辞退した香川か原口の代わりということだろう。

 後述するように、センターフォワード以外での起用が考えにくい選手が他に二人も入っていることを思えば、柿谷曜一朗も(そして岡崎も)ウイング起用を考えられているのではないか。アギーレ監督は典型的なセンターフォワードを中央に据えるタイプのようだ。落選組の中央で起用したくなる選手(大久保、永井、宇佐美)をウイングのカテゴリーに含めたのは、このためだ。

【センターフォワード】
大迫勇也(ケルン)
皆川佑介(サンフレッチェ広島)※初選出

【主な落選】
豊田陽平(鳥栖)、興梠慎三(浦和)、ハーフナー・マイク(コルドバ)、工藤壮人(柏)、川又堅碁(名古屋)

 柿谷や岡崎をウイングの候補と見なしたのは別の理由もある。大型化を目指す傾向が顕著な今回の選考を思えば、日本代表の新指揮官は最前線の柱であるセンターフォワードに関しても、柿谷や岡崎のような裏への飛び出しに秀でるタイプではなく、高さのある選手を置くのではないかと考えたからだ。実績の乏しい皆川佑介を選んでいることからも、彼のような屈強な肉体を持つ長身FWを探していることの反映のように思える。もちろん、もっとオーソドックスな選択肢として「2トップ採用」という可能性もあるだろうが、これもまたフタを開けてみなければ分からない。前線の選手配置は、初戦の注目ポイントと言えるだろう。

▼アギーレジャパンの10月に嵐あり?
 新たに選ばれた選手や代表での実績がない復帰選手が軒並み1990年以降に生まれた選手であることを思えば、アギーレ新監督が来年1月のアジアカップ以上に、4年後の「ロシアW杯」を見据えながら選手発掘に努めていることは想像に難くない。むしろ今回は、アジア大会に出場するU-21代表の選手たちを選ぶことができず、時間不足で海外組については前任者の選考を踏襲する形になったがために「穏やかな選考」だったのではないかという推測すら成り立つ。

 10月のシリーズでは、よりラジカルなメンバーの入れ替えがあると見る。強い競争意識にさらされる現メンバーには小さからぬ影響があるだろうし、「代表」という目標が見えたJリーグの若手選手たちにとってはモチベーションに火がつく材料となったはず。その効果を最大化するには、今回初選出となった選手たちが9月5日のウルグアイ戦、9日のベネズエラ戦でその力を見せること。まずはそれに期待している。

※この記事は最新の情報を踏まえ、9月3日に改稿いたしました。


川端暁彦(かわばた あきひこ)

1979年、大分県生まれ。2002年から育成年代を 中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画し、2010年からは3年にわたって編集長を 務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴ ラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『月刊ローソンチケット』『フットボールチャンネル』『サッカーマガジンZONE』 『Footballista』などに寄稿。近著『Jの新人』(東邦出版)。

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