アギーレが求めるのは「本田圭佑」!?なぜ皆川、坂井、田中、扇原が選ばれたのか?
博識の党首・大島和人がサプライズ選出となった坂井達弥と皆川佑介の二人に触れつつ、アギーレ新監督の狙いを推し量る。
▼サプライズ、坂井と皆川を招集
代表メンバーの名前を見てこれほど驚いたのは、20年ぶりではないだろうか――。
1994年、日本代表の新監督にパウロ・ロベルト・ファルカン氏が就任したときを思い出す。彼はそれまで代表と縁のなかった人材を初采配のキリンカップに大量招集し、初戦のオーストラリア戦では、初キャップの選手を実に5名(今藤幸治、名塚善寛、岩本輝雄、前園真聖、佐藤慶明、小倉隆史)も起用した。もちろん”ハズレ”は少なからずあったと思うが、前園や山口素弘といった才能を早期に引き上げたのは彼の功績である。
今回もそれと同レベルのサプライズがあった。一昨日に執筆した”ガチ予想”では、自分なりに堅く予想したつもりだったが、23人中なんと9名を外してしまった。
今回初選出となったのは、DF坂井達弥(鳥栖)、DF松原健(新潟)、MF森岡亮太(神戸)、FW皆川佑介(広島)、FW武藤嘉紀(FC東京)の5名。これに加えてGK林彰洋(鳥栖)、DF水本裕貴(広島)、MF細貝萌(ヘルタ・ベルリン)、MF田中順也(スポルティング)、MF扇原貴宏(C大阪)、MF柴崎岳(鹿島)の6名も、W杯ブラジル大会のメンバーに入っていない選手だ。そして新顔11人のうち、細貝、田中、扇原、柴崎を除く実に7名が、自分が挙げていなかった名前である。
完全に予想外で、誰一人予想していなかったと言えるレベルの抜擢は、坂井達弥と皆川佑介だろう。坂井は大卒2年目(鹿屋体育大学)で、皆川は大卒1年目(中央大学)。ともにJリーグでの出場実績がほとんどない選手だ。坂井は183cm、皆川は186cmと共に大型選手である。
ただ坂井、皆川は決して高さ、強さだけに特化したタイプではない。どちらもスピードは平凡だが、足元の技術に光るものがある。坂井は最後尾から組み立てるフィードの質に強みがあり、皆川は懐の深いボールキープで時間を作り、2列目の攻め上がりを生かせるポストプレイヤーだ。
▼左利きを増やした狙いとは?
また、「大型」であることに加えて、坂井の登用に象徴されるのは「左利き」の重視ではないか。他にも扇原、田中が同じく「180cm超のレフティー」という属性を持っている。
ポゼションサッカーと言っても、実は様々なスタイルの”持ち方”がある。DFの隙間でボールを細かく動かしてもポゼションだし、サイドや自陣の広いスペースに開くのもポゼションだ。とはいえ常にギャップ、スペースを探し続けるというポゼッションは難易度が高い。プレーのテンポを上げればミスの確率は上がるし、足を動かせば選手が消耗する。バルセロナのように間(あいだ)、間で精密にボールを動かせれば文句はないが、それを実現するためには特別な技術が必要だ。
一方で、”パワー型のポゼション”という発想もある。受け手がマークを背負っていても、足元に付けてしまうスタイルだ。もちろん技術と身体の強さはどちらの場合も必要だが、細かいステップやスピード、アジリティは重視されない。これができればテンポを落としてもボールを握り続けられるので、試合中の無理が抑えられる。相手を背負っても、それを受け止めながら、ボールを収めて動かせる。アギーレ監督はそういう選手を探しているのではないだろうか?
左利きの優遇についても、理由はやはりポゼションサッカーへの適性だろう。人間は利き足によって「ボールを蹴り易い方向」が分かれる。右利きながら向かって左側、左利きならば向かって右側だ。数mのキックならともかく、横方向に20~30mを飛ばそうとしたらその差は如実に出る。だからピッチ内に同じ利き足が11人揃うと、パスの方向は自然と片側に寄って、ノッキングを起こしやすくなる。縦方向に蹴るチームならそういう傾向は出ないのだが、横方向につなぐチームだとそういう現象がほぼ確実に発生する。
▼中心に座るのはあの男?
マークを背負っても難なくプレーできる左利きの選手――。
ここまで、まだ名前を挙げていない選手が一人いた。そう考えると182cmの力強きレフティー本田圭佑は、アギーレ監督が好むタイプの選手なのではないだろうか?
攻め急がずじっくりボールを握り、左右と立体的にボールを散らす。そういうスタイルを実現するために、ボールをキープできる選手、左利きの選手を過去のキャリアなど気にせず抜擢する。自分がアギーレ・ジャパンの初招集23名から見て取ったのは、新監督のそうしたビジョンだ。
【日本代表メンバー】
▽GK
川島永嗣(スタンダール・リエージュ)
西川周作(浦和レッズ)
林彰洋(サガン鳥栖)
▽DF
水本裕貴(サンフレッチェ広島)
長友佑都(インテル)
森重真人(FC東京)
吉田麻也(サウサンプトン)
酒井宏樹(ハノーファー)
※坂井達弥(サガン鳥栖)
酒井高徳(シュツットガルト)
※松原健(アルビレックス新潟)
▽MF
長谷部誠(フランクフルト)
細貝萌(ヘルタ・ベルリン)
田中順也(スポルティング・リスボン)
※森岡亮太(ヴィッセル神戸)
扇原貴宏(セレッソ大阪)
柴崎岳(鹿島アントラーズ)
▽FW
岡崎慎司(マインツ)
本田圭佑(ミラン)
柿谷曜一朗(バーゼル)
大迫勇也(ケルン)
※皆川佑介(サンフレッチェ広島)
※武藤嘉紀(FC東京)
※は初選出
大島和人
出生は1976年。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。ヴァンフォーレ甲府、FC町田ゼルビアを取材しつつ、最大の好物は育成年代。未知の才能を求めてサッカーはもちろん野球、ラグビー、バスケにも毒牙を伸ばしている。著書は未だにないが、そのうち出すはず。