【水戸】取材は「ケーズデンキスタジアム」より
【黄色い瞳】Note16:取材は「ケーズデンキスタジアム」より(川本梅花 フットボールタクティクス)
この写真は、11月5日に行われた明治安田生命J2リーグ第40節のV・ファーレン長崎戦後、選手たちがいなくなったスタジアムの風景です。
実は、このコラムを書くべきかどうか迷っていました。結局、書けないまま日々が過ぎていきました。僕が何を書こうとしたのかと言えば、先頃、辞任報道があった西ヶ谷隆之監督の限界説を述べようとしたからです。誤解がないように前置きすれば、水戸ホーリーホックでの西ヶ谷監督は、やれることをやり尽くした、という意味です。おそらく、J1のクラブで、ある一定の技術と戦闘能力がある選手には、もっと可能性があると思います。それだけ、レベルの高いサッカーを目指していたと思うのです。
長崎戦だけではなく、全ての試合で感じたのは、選手交代の際の決断の遅さ。そして起用した選手のミスマッチが目に付きました。例えば、長崎戦の65分に佐藤和弘選手を白井永地選手にチェンジしたのですが、過去の記録と記憶をたどれば、白井選手が後半から出てきても効果的な交代になったことは、ほとんどないのです。
次に、試合中のシステム変更が、スムーズにいかない場合が多いことです。長崎戦でも、4バックから3バックに変更して、再び4バックに戻しました。しかし、監督の期待していた動きを選手ができない。トレーニングでは十分に落とし込んでいるはずなのに、肝心の実戦ではうまく機能しない。そうしたもどかしさを一番感じていたのは、西ヶ谷監督だったのではないでしょうか。サポーターならば、水戸のクラブの厳しい状況の中でなんとか、やりくりをしてくれた監督と捉えるのでしょう。
僕も同じように、厳しい状況の中でも相当にチームと選手のレベルアップを成し得た監督だと思っています。しかし、僕は、サッカーライターなので、どうして22チーム中の14位なのかを考えなければなりません。戦術的にどうなのか、采配はどうなのか、選手交代はどうなのか、という試合中で見られる事象を検証しなければならないのです。
心情的には、西ヶ谷監督の辞任は寂しいものがあります。僕は、試合後の監督会見で、選手の質の問題や戦術的な質問をしました。その際に、とても丁寧に返答してくださいました。船谷圭祐選手の適正ポジションについて質問した際は、逆に「どこが適正ポジションだと思う?」と聞かれたこともありました。ある時は、質問をしなかった僕に、会見が終わってから「今日は質問がないの?」と言ってくれたりもしたのです。
水戸ホーリーホックがJ1のライセンスを獲得して、次のステップに進むためには、新しい監督の下で、別のやり方を受け入れていかなければ、クラブのレベルアップはできません。西ヶ谷監督のおかげで、そうした第1歩を踏み出せる場所にきた、と僕は思います。監督の功績はとても大きい。でも、いくら優秀な監督であっても、いつかは別れの時がきます。
あえて言えば、水戸ホーリーホックで西ヶ谷監督が自身の能力を発揮できるのは、ここまでだった。それが14位という結果で表された。
すぐにまた、僕は、監督会見の席で西ヶ谷監督に出会う気がします。最近では珍しい、厳しく選手にアプローチする監督です。選手に厳しく接するには、自分自身にも厳しくあらなければならない。西ヶ谷監督は、そうした人です。心から、「ご苦労さまでした」と告げたい。
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