山本雄大レフェリーインタビュー後編:Jリーグでのジャッジ・サポーターの方々への想いと審判ファンへのメッセージ・主審に必要な『強さ』とは?
石井紘人のFootball Referee Journalより、記事を転載させていただきます。
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「サポーターの方々には、逃げたと思われているかもしれません」
その言葉を聞いて、なるほどと思った。
理由は二つある。
一つは、あまりにも急だったこと。
もう一つは、選手も審判もAFC Champions League Eliteでも活躍しているアジアトップのJリーグから、サッカー後進国であるインドネシアリーグへの移籍になったことだ。
前者は契約上の理由から仕方がなかった。レフェリー仲間はもちろん、お世話になった方々にも挨拶出来ずに出国しており、昨年12月22日のPSSI(インドネシアサッカー協会)の会見後にオープンに出来るようになった。「ご挨拶せずに出国してすいません」という謝罪の連絡に対し、返答は「どうしたの?」という疑問がほとんどだったという。
後者に関しては、自衛官時代からの想いを聞いて腑に落ちた。
もちろん、FIFAワールドカップ本大会に選出されていれば、ピークの時期に移籍はなかっただろう。しかし、山本自身、2019年の浦和レッズ×湘南ベルマーレ戦の大誤審で、ワールドカップ本大会に立つ事はないと理解していたと推察出来る。自衛官からトップレフェリーに目標を切り替えたように、新たなキャリアを描くのは自然な事だ。前向きな移籍というのは前編で伝わったのではないか。
後編では山本のレフェリングを形成したJリーグについても訊いた。
【山本さん、また会えてよかった!これからも共にJリーグを盛り上げましょう!】という湘南ベルマーレのサポーターが掲げた横断幕には、
「申し訳ございませんでした。そして、本当にありがとうございます」
と伝えたいと語り、
「実は、埼玉スタジアムでの試合後に、サポーターの方々からJFAに私宛のお手紙が届いていました。お叱りの内容かと思ったのですが、「大丈夫ですか?」と心配してくださっていて…。そういった心配をさせてしまったのも、本当に申し訳ないです。私が適切なポジションから正しく判定を行えば、誰も不幸にならなかった」
と自らを責め、
「湘南×浦和、町田×秋田の得点を認められなかった事実を消すつもりはありません」
と自ら触れる。
サッカー競技規則に記されているように、サッカーは誤審が前提のスポーツでもある。しかし、応援するチームが誤審で勝利を逃せば、怒り心頭になるのも理解できる。
だが、忘れてはいけないのは、誤審は犯罪ではない。スポーツのミスに対して、罪を犯したようにつるしあげるべきではない。何よりも選手同様にミスから立ち直り、トップパフォーマンスを維持した(参照リンク)レフェリーもいるのだから。(取材日:2026年1月16日)
――まだ10試合ですが、インドネシアでの選手との関係性は如何でしょうか?
「ざっくりですが、試合が終われば、同じサッカー仲間という欧州っぽい雰囲気です。インドネシアリーグは、試合後にJリーグのような整列がなくて、レフェリー、アシスタントレフェリー(AR)の3人がセンターサークル内に立っていて、受け入れられれば、選手やスタッフの方々が握手に来てくれる感じです。試合中は、結構色々と言ってくる選手も、握手に来てくれる事が多いですね。」
――組むAR(アシスタントレフェリー:副審)のレベルは如何でしょうか?
「日本人は慮る風潮がありますよね。ARとの関係でいうと、日本だと「これ山本見えているから、発信しなくて大丈夫だよね」「山本見えた上で、吹かないんだよね」という遠慮が起きてしまうこともあり、実際は私が見えていなくて、悪い結果になってしまう事もありました。インドネシアだけではなく、海外の審判員は “ここは主張しないといけない”と思えば、私がどうこうではなく、「〇〇だと思う!」と伝えてきてくれます。もちろん、私からすると「いや、違う」と思う事もありますが、意見の相違だったとしても「いや、俺はこっちにする」で終わりじゃないですか。フィールド上でしっかりとお互いの見解を言い合えるのは非常にやりやすいです。
オフサイドの見極めは、日本の副審と同じ、あるいは上かもしれないと感じています。先日も、(私の試合ではありませんが)映像を確認していると「うわっ! 難しい…」と呟いてしまった得点シーンがありましたが、正確なポジションで正しい判定を下していました。」
――日本の若いレフェリーだと、サポートに引っ張られ過ぎてしまう事もあるかもしれませんが、山本さんのような経験があれば、そういった主張も情報の一つとして巧く使えるから、インドネシアのARとか4thはレフェリングに活かしやすいように感じました。
「ここを見て欲しい、ショートセンテンスで伝えて欲しい、と試合前の打ち合わせ時に伝えておくと、インドネシアの審判員の特徴である真面目さに加えて、主張もしてくれるので、情報はしっかりと入ってきます。特に4thについては、日本と海外の審判員の違いは顕著です。これはJリーグを担当していた時、若手に話をしていましたが、日本の審判員の弱点でもあると感じています。AFCの研修でも4thに求められていること、やるべきことをかなり強く言われていましたし、インドネシアの審判員は日本の審判員よりも忠実に行っています。」
――以前、山本さんにお話しをお伺いした時に、アリレザ・ファガニ(参照リンク)が4thも積極的に活用したレフェリングをしていたと教えて貰いました。「アリレザは強烈だった」というコメントも覚えているのですが、以降、「巧いなぁ」とかではなくて、インパクトあるレフェリーはいましたか?
「アリレザは強烈でしたね(笑)ウズベキスタンのメンバーは、(ワールドカップトーナメントレフェリー常連だった)ラフシャン(参照リンク)がいるからかもですが、若くてもパーソナリティーの味付けが濃かったです(笑) 普段は“そうだね。そうだね”と話を聞いているのですが、フィールドに入ると、絶対的な自信を持っていて、揺るがない、良い意味での強さを感じました。今後、ワールドカップのトーナメントを担当するようなレフェリーには当たり前のように求められる要素なのだろうなと感じました。」
――なるほど。山本さんは、日本の若手レフェリーと触れ合う機会はありましたか?
「はい。京都府に所属する審判員と少し関わらせて頂いていたのですが、「私は審判指導者ではなく、同じ現役のレフェリー仲間」という立場を伝えた上で、話をしていたのは「まずは審判を楽しもう」です。というのも、サッカーを楽しめなくなってしまったら、審判として関わる意味がなくなってしまいませんか?」
――トップレフェリーとして辛い経験をされた山本さんの「審判を楽しもう」は目から鱗です。
「SNS等との向き合い方も話をしていました。試合を担当して、自分は巧く試合を終えられたと思ったとします。今は、育成年代の試合でも、SNSに書き込まれる事もありますよね? SNSでの評価を気にしても、レフェリーの自己評価と他己評価が乖離している事は稀ではなくて、結構多い。サッカーはAとBというチームが戦うので、試合が終わった後、どちらからか、または両チームの関係者やサポーター、保護者から不満の声が聞こえてくることが多々あります。そこを気にしすぎてしんどくなるのは避けたい。けど、不満の声があるということは、自分にも変えられることがあるよね?!と。」
――100-0の明確な判定なんて、ほとんどないですしね。それこそ分かりやすいオフサイドでも、選手のリアクションに引っ張られて、誤審のような雰囲気になる事もあります。応援されない特殊なポジションだと思っています。
「はい。ですから、その不満や他己評価を全部受け止めてしまう人だと、続けていけないですし、レフェリーというポジションは成り立ちません。だから、SNSを見るのは自由だけども、見たとして、しんどくなるのであれば見る必要あるのかな?という話をします。
そして「本当に大失敗した俺が審判をやっているのだから」という話もします。」
――ミスをしたらトレーニングして次に繋げるべきで、心を壊す事ではない、と。
「インドネシアのレフェリーたちも、小さなミスであっても心配になるくらい落ち込んでしまっている仲間もいます。ですから、試合を終えた後の空港等では、“コーヒーでも飲みに行こう”といって話を聞いています。」
――レフェリーにおいて、42歳はベテランの年齢ではないけども、山本さんが、そういった役回りを買っているのですね。インドネシアのレフェリーたちには、どのように指導をしていますか?
「指導という上から目線ではなく、絶対に「こうした方が良い!」と言い方はせずに、「僕だったら、こうするかな。でも、レフェリーには絶対解はないから、山本スタイルはこうだけど、あなたはこのスタイルも良いかもしれない」という話をします。
あとは、「結果どうだった?」と聞いて、「ちょっと違うかな」となれば、「同じシーンは二度とないけども、似たような状況があれば、こういったやり方もあるのでは?」と伝えています。」
――ポイントで言葉を入れる感じですね。ひとまずは一年半の契約ではありますが、今後はどのような展望を描いていますか?
「まずは残りの半分のシーズンを、怪我をなく、しっかりとレフェリングしていく。そして、翌シーズンは、初めて一年間フルにインドネシアリーグに関わるので、インドネシアのレフェリーと一緒に成長したいと思っています。私が何かを教えるというスタンスではなくて、私も一緒にレフェリングを磨いていきたい。彼らと一緒に過ごして、インドネシア語も勉強して、もっとコミュニケーションをとっていきたい。そして、一年半後に、契約が継続されれば、さらに次のシーズンに向けて、を続けて行きたいです。」
――2017年に山本さんにお話をお伺いした時には、年齢的にもFIFAワールドカップという目標があり、そのためにはビッグマッチでの経験が必要にもなってきます。インドネシアでは、チームレフェリーの成長はもちろん、レフェリーの成長がリーグにも寄与するので、山本さん自身がスキルを磨くのはもちろんですが、もっと大枠で見ているような感じでしょうか?
「昨年の6月のワールドカップ予選で、インドネシア代表が日本代表に0-6で敗戦したじゃないですか?一昨日、インドネシアの方々と食事をしていたのですが、“新しい監督に変わったし、次に日本代表と試合をした時は引き分けくらいまではいけるはずだ!” “まずはASEANでナンバーワンになるぞ!” と多くの方々がインドネシアサッカー界を発展させていきたいという気持ちが凄く強く、私も少しでも協力できたら良いなと思っています。私がワールドカップにアポイントされるチャンスはありませんが、(一緒に活動している) 彼らにはあります。インドネシアのレフェリーがチャンスを掴むためにも、私も一員として頑張っていきます。」
――リーグという話で、昨年、Jリーグは『標準を上げる』というメッセージを発信しました。15年間、J1で笛を吹いてきた山本さんは、その都度、審判マネジャーから『今季のターゲット』の指導を受けてきたと思います。その中で、『標準を上げる』は、経験が少なく、選手にも顔を覚えて貰っていないレフェリーは、ファウルを積み上げていく中で、覚えていく塩梅(参照リンク)じゃないですか。山本さんからすれば“このグレーはゲーム的にもノーファウルにする”と流せるでしょうけど、経験の浅いレフェリーにどのように声をかけましたか?
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