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高く、強く、そして速い。鹿島の”モノノフ”『植田直通』の真価とは?

鹿島アントラーズから、群を抜く身体能力を持ち、武道的なアプローチで成長を期す期待のセンターバックを取り上げたい。鹿島の番記者が観た、19歳の真価とは?

日本代表の新監督にメキシコ代表の元指揮官で、スペインでの指導経験が豊富なハビエル・アギーレ氏が就任した。次なる4年間を託された新指揮官の下で日本代表のメンバーは刷新されていくことも予想される。あらためて今、Jリーグを取材する記者たちから「俺は、アギーレに、この男を、推したいっ!」と題して、この指揮官に推したい新顔を選んでもらった。3番手は若返りを進める鹿島アントラーズから、群を抜く身体能力を持ち、武道的なアプローチで成長を期す期待のセンターバックを取り上げたい。鹿島の番記者が観た、19歳の真価とは?

▼186cm、屈指の俊足

 植田直通は、高身長=鈍重というCBの常識とは一線を画す存在だ。186cm・77kgという恵まれた体躯だけでなく、速さも併せ持つ。

 所属する鹿島アントラーズの測定では、10m走がチーム2位、30m走がチーム1位というタイムを記録。これまで日本人のCBは、強くて高いけれど遅い、速いけれど低い、というように、どこか1点をあきらめなければならないことが多かったが、ゴール前で驚異的な仕事をこなす「強くて速い」世界のFWと伍することができる、新しいタイプの日本人CBとして期待されている。

 そのキャラクターはなかなか独特なものがある。

 選手プロフィールを見ると、自分の武器は?「ヘディング」、永遠のライバルは?「自分」、一緒にプレーしたい選手は?「プジョル」、特技「格闘技」、尊敬する人「菊原志郎、岩政大樹、大山倍達」、好きな漫画・アニメ「グラップラー刃牙」と書かれている。過去にはテコンドーにも打ち込んでいたという経歴を思い起こすだけでも、かなり”ガチ”な人物像が浮かんでくる。その風貌と木訥とした雰囲気『北斗の拳」のケンシロウや『タッチ』の原田正平を思わせる(古くてすいません)。どちらも格闘技の達人であることは偶然ではないだろう。

▼経験不足も、あふれる素材感
 熊本の名門・大津高校から加入した2年目の19歳は、第9節のサンフレッチェ広島戦で先発の機会を得ると、それから9試合連続でその座を守り続けている。今季に入って一気に若返りを図っているトニーニョ・セレーゾ監督の意向を象徴する選手の一人だ。

 初先発の広島戦では、前半27分にイエローカードを受けている。フィールド中央で楔のパスを受けようとする佐藤寿人に対し、かなり遠い位置から飛びかかり、そのポストを潰すプレーだった。佐藤の出足に対応が遅れただけの褒められたプレーではないのだが、試合後、セレーゾ監督は相手のエースに対して闘争本能を剥き出しに襲いかかった植田のプレーに一定の評価を与えていた。背後からのチャージは危険なプレーとなり得る。だが、それを恐れて避けるばかりではFWに対して優位を保てない。1対1で勝負が決まる格闘技をたしなんできた植田ならではのプレーだった。

 細かな部分はまだまだ粗削りで、経験不足を露呈する場面も多い。持ち味である強さを発揮できないまま、つまりは相手に体を当てることも出来ないままゴールを奪われる経験も少なくない。第13節の川崎フロンターレ戦では、代表選考前の最後の試合だったこともあり、気合いの入りまくっていた大久保嘉人に翻弄された。試合中、「ガキ」呼ばわりされただけでなく、大久保の2ゴールを含む4失点と、心身ともにボコボコにされている。

 ゴール前での駆け引きや、周囲へのコーチングなど、CBとして求められる要素に足りない部分があることも確かだ。ただ、それでもなんとかしてしまう身体能力の高さは魅力。第17節の浦和レッズ戦では、柏木陽介のフェイントで完全に逆へ振られたが、柏木が左足でシュートを放とうとするところに、驚異的な反転力で足を伸ばしブロックしてみせた。

▼鹿島の武士(もののふ)として
 ハビエル・アギーレ氏が日本代表の新監督に就任することが決まったあと、植田直通は日本代表について問われて次のように答えている。

「まだまだ上のレベルに行く実力はない。もっと練習して選ばれるために鹿島で試合に出続けないといけない。日々の練習をしっかりやりたい」

「もっと練習したい」というのは植田の口癖だ。鍛錬を怠らなければ必ず道を極めることができると考えるのは武道的アプローチにも思えるし、それを貫く精神的な強さがあることも植田の大きな魅力である。

 リオでの五輪を睨み、春先から始まる手倉森ジャパンの活動にも初期から参加している。昨季からずっと休みがないことについても「高校のときも休みはなかった。気にならないです」と事も無げ。「高校のときから休みがないから遊びたい」という一般的な考え方とは、やはり一線を画している。

 昨今、ポゼッションサッカーが好まれる潮流により、CBの物差しはビルドアップ能力に比重が移りがちだった。だが、ラインを下げて戦おうが上げて戦おうが、最後の勝負は1対1で決まる。ラインを下げれば雨あられと飛んでくるクロスをCBが跳ね返さなければならず、ラインを上げればオフサイドラインギリギリで突破を狙うストライカーとのスピード勝負は避けられない。CBの能力によって、チームの戦術は大きく変わるのだ。

 最後になったが、植田直通のマイブームは「ももクロ」である。彼女たちの熱狂的なファンが”モノノフ”と呼ばれるのは偶然の一致だろうか。鹿島の武士(もののふ)・植田直通に注目してほしい。