首位と勝ち点4差。オシム氏の薫陶を受けた間瀬秀一監督率いる『新生・愛媛』下馬評を覆す好調の理由とは?
個々が過去最高のパフォーマンスを発揮するべく、新たなエッセンスを加えた。
▼変革を迫られたシーズンオフ
第18節終了時点で勝ち点『30』のリーグ7位。しかも、混沌の今季J2リーグの中で首位に勝ち点『4』差という事実はまさに”サプライズ”と言っても過言ではない。
愛媛FCは15年にリーグ5位へと躍進し、クラブ史上初のプレーオフに進出。続く昨季は順位こそ10位に落としたが、2季連続のシーズン勝ち越しを遂げるなど確実のその力を付けていた。しかし今季、周囲の愛媛に対する評価は芳しくないどころか、降格候補にも挙げられるほどに評価が暴落していた。
もちろんそれには理由がある。直近の2年間でチームの指揮を執った躍進の立役者・木山隆之監督がチームをモンテディオ山形へと移籍しただけでなく、そのあとを追うように絶対守護神のGK児玉剛、二桁ゴールを挙げた阪野豊史、瀬沼優司の攻撃の2枚看板と、若手成長株の茂木力也、さらに木山監督の腹心である青野慎也コーチが一気に山形へ流出した。加えて、貴重な左足のプレースキッカーである内田健太が名古屋グランパスへ、覚醒間近の期待の星であった表原玄太も湘南ベルマーレへと移籍。何と監督、コーチほか、昨季最終節・FC町田ゼルビア戦の先発のピッチに立ったバリバリの主力6選手を失ってしまったのだ。
さらに状况を難しくさせたのがクラブの資金難により積極的に補強に力を注げなかったことだ。クラブは一昨季に続き昨季も赤字決算となり、今季も赤字になると3季連続となり、クラブライセンスを剥奪される危機的状况。放映権料高騰で各クラブへの分配金が増えてライバルチームが積極補強をする中、愛媛は例年以上に財布のヒモは固く引き締めなければならない状况となった。結果、これといった目玉の補強もなく、25選手というコンパクトパッケージでのシーズン船出。客観的に見れば周囲に低評価をされても何ら不思議ではなかった。
▼強気な姿勢を崩さない新指揮官
ただ、この難しい状况にも今季より新たに就任した間瀬秀一監督の振る舞いは違っていた。新チームのタクトを握る新指揮官はギラつくその眼差しで「不安はゼロ」と言い切り、視線の先に「プレーオフ進出」を明確に見据えていた。
Jリーグ監督としてはまだ駆け出しレベルの”3年生”。しかし、名将イビチャ・オシム氏の語録を紡いできたこの男の言葉は人の心を惹き付け、しかもそれらの言葉は結果から逆算された確かな説得力を持っていた。
主力の大量流出も間瀬監督は意に介さなかった。監督就任会見でも質問が飛んだそのことをあらためて尋ねると、声高に次のような言葉が返ってきた。
「昨季のサッカーにおける戦力がダウンしただけで、今季のサッカーはまた別のもの。私自身、戦力ダウンをした意識は一切持っていないし、それはハッキリしておきたい。そして、シーズン前に言ったことをもう一度繰り返すが、今季目指すサッカーの本質という意味ではチームに残ってくれた選手のほうが高いと思っている。そして、その本質をいま表に出すことができている」
だからといって勝手に結果が出るほど甘い世界ではない。目標を実現するために間瀬監督が絶対的なタスクとして掲げたことは「全員が過去最高のパフォーマンスを出す」というもの。すなわち、プレーオフという目標は今季の戦力が成長し、過去最高のパフォーマンスを出した上でのものである。当然それは決して容易なものではないが、シーズン折り返しを前にした現時点で首位と勝ち点4差の7位という成績は、ここまでの道のりが概ね順調に進んでいることを表しているはず。
チームは昨季のスタイルをベースにしながらも、個々が過去最高のパフォーマンスを発揮するべく、新たなエッセンスを加えた。それは”見る力”だ。相手の状况をしっかり確認し、素早く判断、適切なアクションを起こす。今季の愛媛のトレーニングでは決め打ちのパターン練習は一切行われず、すべては選手個々の見る力に委ねられている。
それを養うためにシーズン始動当初からオシム仕込みの多色ビブスでのポゼッション練習や、眼球の動きを向上させ、動体視力を鍛える眼筋トレーニングなどを行なってきた。当初はその新たな試みに選手たちも戸惑いを見せていたが、それらを反復することで見る力は確実にアップ。加えて、選手個別に新たな課題克服に取り組むことで、成長することは当たり前のこととなり、成長スピードの速さをそれぞれが競い合うほどになった。
「マイナスと感じたことを自分たちの取り組みで一つひとつプラスに転換できている」(間瀬監督)
チームは現在好調を維持しているが、その姿はまだ成長の途中段階に過ぎない。残った伸びシロを今季最終戦まで目いっぱい伸ばすことができた暁には、本物の”ビッグサプライズ”が待っているはずだ。