ベレーザは飛んで行く
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今回は東京ヴェルディを中心としたWEBマガジン「スタンド・バイ・グリーン」から日テレ・ベレーザに関する記事になります。
【無料記事】【フットボール・ブレス・ユー】第21回 ベレーザは飛んで行く(17.5.24)(スタンド・バイ・グリーン)
2017年05月24日更新
第21回 ベレーザは飛んで行く
2017プレナスなでしこリーグ1部、第9節の時点で首位を走るのは日テレ・ベレーザ。今年も優勝候補の筆頭に挙げられる。
昨季、ベレーザはなでしこリーグとリーグ杯の2冠を達成。皇后杯全日本女子サッカー選手権大会はベスト4。阪口夢穂が2年連続で最優秀選手賞を受賞した。
今季もまた頂点に立てば、3年連続15度目のリーグ制覇を成す。黄金時代の再来と言っても過言ではなかろうが、はた目にはずっと黄金時代だ。過去10年、優勝5回。それ以外はすべて2位である。
育成組織から築き上げたチームの横糸が緊密に張りめぐらされ、ベテランから若手へと受け継がれる縦糸も太い。強いに決まっている。この縦糸と横糸の関係がチームづくりの基本だ。継続的に成果を出せるだけの仕組みが出来上がっている。
当然、女子日本代表にも数多くの選手を輩出。2017年、ベレーザからなでしこジャパンに招集された選手を列挙する。FW田中美南、籾木結花。MF阪口夢穂、中里優、隅田凜、長谷川唯。DF有吉佐織、GK山下杏也加。各ポジションからまんべんなく選出されているのが、レベルの高さの証明だ。
5月7日、なでしこリーグ1部第7節、ノジマステラ神奈川相模原戦は、スコアレスドローに終わった。PKのチャンスを逸し、ゲーム終盤は猛攻撃を加えて相手をサンドバック状態にしたが、とうとうゴールを割れなかった。
森栄次監督は言う。
「思ったより、相手のマンツーマン気味のマークに苦しみましたね。ゴール前まではいけたが、最後を崩し切れなかった。サイドからゲームをつくっていた有吉の不在(故障で長期離脱)がやや響いているかな。チーム全体のゴールに向かう力が試されているように思います」
今季、よりチーム力を高めるために、もうひと伸びを期待するのはどのあたりか。
「長谷川、籾木、隅田、彼女たちの世代がチームを引っ張っていけるようになれば。トレーニングの姿勢を見ても、自分たちがやるんだ、という自覚は感じます」
フリーキックの場面。左から籾木結花、隅田凛。
ベレーザを指揮する森栄次監督。
アタッカーとして卓越した才気を放つ長谷川唯。
10番を背負う、籾木はこう語る。
「相手からのマークが厳しくなっても、点を取り切る力をつけないと。その点はまだまだですね。引き分けで終わる試合をなくしていきたい。10番はあくまで飾りと思っていますが、周りはそう見てくれないし、いままでベレーザで10番を付けたのはめっちゃ巧い選手ばかり。でも、そんなにプレッシャーは感じません」
ベレーザの勝者のマインド、スピリットはどう受け継がれているのか訊いた。
「思い浮かぶのは、(育成組織の日テレ・)メニーナ時代ですかね。テラさん(寺谷真弓メニーナ監督)の指導が厳しかったので。サッカー選手として生きるためのメンタルをつくってもらったと思います」
長谷川は今季の目標を次のように話す。
「獲れるタイトルは全部獲りたい。相手を圧倒して勝つ。そして、観ている人たちが楽しめるサッカーを。ベレーザに昇格してから先輩たちと身近に接し、いつか自分もこうなりたいと思うことはたくさんあります。たとえば、ここぞというときに発する、チームを引き締める声。イワシさん(岩清水梓)のように、存在感が目立つ選手になりたい」
欲張りなところが、たぶんこの人のいいところだ。
長谷川については、寺谷がおもしろいことを聞かせてくれた。
「唯は悪ガキでね。しょっちゅう周りに文句を言っていて、それでシメたことがあります。仲間との関係が悪くなると、その後に響くと思ったので。メニーナに入った中1の頃は、とにかくちっちゃかったですよ。たしか135センチで、体重は20キロ程度。その小さな身体で、まあ自己主張が強かったこと」
やたらと気の強い、キャンキャン吠える、小さな女の子の姿が浮かぶ。寺谷は長谷川をしばらく試合で使わず、中2の夏を過ぎてからチャンスを与えていった。足元のテクニックに偏った選手と見ていたが、やがて全体が広く見える特長にも気づいた。そして、いま長谷川はベレーザの中軸を担い、なでしこジャパンのメンバーにも名を連ねる。
「代表にはもっと早く入ってほしかったです。能力的には、充分そこに値する選手でしたから」
こういったところでも、寺谷は甘い顔を見せない。
厳しさを持って他者と接する人は、すべての人から好かれる可能性を放棄する。ときには心を鬼にして、嫌われ役を買って出るのだ。しかも、寺谷は愛想を振りまけるタイプの人でもない。面識を得てからそれなりに経つ僕ですら、気安く話しかけるのはためらわれる雰囲気がある。
選手は険しい坂道を登り、ふっと息をついて振り返ったとき、自分が手にした広い見晴らしに気づく。そうして、若かりし日に投げかけられた言葉を噛みしめ、感謝する日が来るのだろう。それはとても尊く、幸せなことだと思う。
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