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リーグ開幕6連敗。昨季最高順位・5位の大宮は今季、なぜ勝てないのか

さらなる飛躍が期待されたシーズンの序盤になぜここまで苦しんでいるのか。

J1に復帰した昨季は年間順位5位と躍進を果たした大宮アルディージャが今季は開幕から6連敗。勝ち点を奪えないばかりか、6試合で1得点と極度の得点力不足とチーム状況は深刻に映る。清水エスパルスの10番・大前元紀ら有力選手も補強し、さらなる飛躍が期待されたシーズンの序盤になぜここまで苦しんでいるのか。そのバックグラウンドに大宮の番記者・片村光博氏が迫った。

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▼開幕から未勝利、二つの原因


 大宮アルディージャがリーグ開幕から6連敗を喫し、最下位に沈んでいる。昨季はクラブ史上最高順位の年間5位を達成し、今季は家長昭博(川崎フロンターレ)や泉澤仁(ガンバ大阪)といった主力が抜けたものの、下馬評も決して低くはなかった。大前元紀や長谷川アーリアジャスール、J2からも瀬川祐輔ら実力者を獲得しているが、ここまでの得失点は1得点10失点。厳しい状況が続いている。

 これだけの不調が単一の理由から引き起こされるわけもなく、もちろん複合的な原因がある。その中でも取材の現場において最も指摘されるのは、”家長の穴”と”攻撃的スタイルへの転換の失敗”。これだけではシンプルに過ぎる指摘だが、どちらかが間違っているわけではなく、それらが絡み合った結果が現状につながっている。

 まず前者について、川崎に移籍した家長はかなり特殊な能力を持つ選手だ。Jリーグ全体を見渡しても類を見ない抜群のキープ力に加え、ピッチ上のどこにスペースがあるかを瞬時に把握して利用するインテリジェンスとアジリティー。近年は得点意欲も飛躍的に向上していた。そもそも絶対的エースであった彼の慰留が果たせていれば大崩れすることもなかったかもしれないが、移籍してしまった以上は代案が必要で、今季の編成からはその意図も見て取れた。

 ポジションで同じ位置に入るのは大前だが、チームとして彼に家長の役割を求めたわけではない。ポジションもプレースタイルも違うものの、家長の穴を補填する存在として期待された選手は、渋谷洋樹監督から直々の要望もあって柏レイソルから獲得した茨田陽生だ。昨季終盤にブレイクした大山啓輔と組むダブルボランチはポゼッションに秀でており、「攻撃で圧倒しようという狙いを持って」(渋谷監督)今季の開幕メンバーが構成された。

 そしてここが”攻撃的スタイルへの転換の失敗”を指摘される所以だろう。確かにチームの重心は攻撃により傾いた。しかしそもそも昨季、残留が決定したときからチームスタイルは攻守ともに攻撃的なものになっている。横谷繁と大山のダブルボランチがその象徴で、鹿島アントラーズ戦に完勝を収め、川崎戦でも相手に退場者が出たとはいえ打ち合いを制した。

 さらに言えば堅守のイメージを持たれることの多い昨季の大宮だが、終盤は失点が増加し、その分を得点でカバーする戦いになっていた。決して急に攻撃路線に舵を切ったわけではない。ここから見えてくることは、家長に頼っていた部分のある”起点作り”をチーム全体、主に中盤のポゼッション能力で補おうとした結果、チームバランスに乱れが生じてしまった。

 本来のボランチではなく右サイドハーフで12日のルヴァンカップ第2節・柏戦に出場した大山は、「いまは起点をどこに作るか。それが、チームとして定まっていないというか、迷いがある」と現状を捉え、高い位置での起点作りをテーマに掲げていた。新戦力が多いこともあり、中盤でのゲームメークの不調はなかなか解決の糸口を見付けられずにいる。

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▼チーム状況を好転させる打開策は?

 もちろん、3年間にわたってチームの中心を担ってきた家長が移籍した以上、もっと割り切って守備から入り、大前や江坂任の得点能力に懸けるような戦いを志向しても良かったのかもしれない。実際、クラブとして定めた今季の目標は「勝ち点50以上、9位以上」。高望みはせずに安定感を身に着けるという方向性は間違っていない。

 だが、現場レベルにおいてのモチベーションが”昨季以上”という位置に置かれるのは自然なこと。そもそも、そうしたメンタリティーがなければ実績ある選手たちの獲得も叶わなかっただろう。好成績を収めた次のシーズンが難しさは、さまざまなチームが経験してきたことでもある。フロントスタッフ、チームスタッフ、そして選手のどこかに決定的な落ち度があるわけではないが、少しずつ歯車が狂い、今季の大宮は大きな負のスパイラルに飲み込まれてしまった。

 チーム状態を好転させる特効薬はない。しかし先述のルヴァンカップ・柏戦で退場者を出しながらも今季初の無失点を達成し、公式戦連敗を止めたことは一つのきっかけになり得る。大山や岩上祐三、渡部大輔らはリーグ戦の不調に引きずられずに好パフォーマンスを発揮したため、リーグ戦にうまくつなげていくことが現在の最大のテーマだ。

 昨季も1stステージ第4節・サンフレッチェ広島戦で1-5の大敗を喫したあと、ルヴァンカップ(当時はナビスコカップ)での勝利から持ち直した経緯がある。現状を打開するためには、柏戦のように泥臭くとも結果のために助け合い、ワンプレーにこだわっていくしかない。一つの得点、一つの勝ち点を大事にしていくことが、狂った歯車を少しずつ正常な状態に戻していくための唯一の術だろう。

片村 光博(かたむら・みつひろ)

1989年1月26日生まれ。東京出身、東京育ち(途中、豪州キャンベラで5年半)。2002年の日韓ワールドカップを機にサッカーにのめり込み、約10年後の2012年、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』のインターンとしてサッカー業界に身を投じる。編集手伝いから始まり、2013年には栃木SC担当で記者として本格的にスタート。2014年は大宮アルディージャとジェフユナイテッド千葉の担当を兼任し、2015年からは大宮に専念している。効率的で規律のあるサッカーが大好物。