『ゼロックスの呪縛』から抜け出す事は出来たのか?木村博之主審のジャッジから今シーズンを占う【石井紘人の審判批評】
近年で最高の流れで開幕に臨む。
週刊審判批評(参考記事:FootBallRefereeJournalとは?)内では「ゼロックス杯(FUJIXEROX SUPER CUP)の呪縛」という言葉がある。
ゼロックス杯は、”今季のJリーグのレフェリングの基準を示す場”であり、以前は経験のあるレフェリーたちが割り当てられていたが、2013年の東城穣(参考記事:論点はレアンドロ・ドミンゲスへのオレンジの判定)から、2014年にはさらに下の世代の佐藤隆治(参考記事:栗原のハンドリングはオレンジ色?)、2015年の山本雄大(参考記事:ミスだった平川へのオフサイドと遠藤のファウルの理由)、2016年の飯田淳平(参考記事:ミスだったハンドリングの適用)と審判員のハイライトと言える41歳より下の世代が割り当てられた。が、難しい判定が続き、得点やカードに微妙な判定が起きた。それでも審判委員会は日本サッカー界の将来のためにブレず、今年も35歳の木村博之を割り当てた。
21分、鹿島アントラーズのカウンターを浦和レッズ選手がファウルで止めに行く。当然、「カードだろ」と鹿島アントラーズベンチが飛び出したが、木村主審は影響されることなく、ボールが繋がる可能性を考え、笛を吹くのをワンテンポ待った。そして、ボールは繋がり、チャンスに。アドバンテージを採用し、プレーが切れた所でしっかりと警告を与える。ナイスジャッジである。
さらに、43分のオフサイド判定も秀逸といえる。しっかりとしたポジションから、整理されたプライオリティで体半個分オンサイドポジションにいるのを見極めている。
一方でミスジャッジだった28分のボールアウトのシーン。「コーナーキックとした判定をGK西川周作のアピールでゴールキックと判定を変えた」という意見が多くリツイートされていたとのことだが、事実は異なる。
というのも、木村主審のポジションからは、選手の足が重なってしまい、西川の手にボールが当たったかどうか見極められなかったからだ。ただ、ボールのコースが変わったようには感じた。しかし、見えなかった事象に関して判定をすることは出来ない。迷った末に、ゴールキックとした。ミスジャッジ以上に問題なのは、迷った素振りをみせてしまったこと。『強さ』をみせる『表現力』に欠けており、アピールする隙を与えてしまった。それがサポーターの憶測を生んでしまった。妥当な判定が多かっただけに、日本人レフェリーの課題である『表現力』が浮き彫りになった。
その反面、PKを獲得した興梠慎三が「自分から(足に)掛かりに行った」と語ったことで、微妙な判定と思われているジャッジは妥当である。小笠原満男の最初のアプローチの足は影響していないものの、最後の足の動きで引っかけてしまっている。木村主審は、縦の位置から、接触をしっかりと見極めた。上川徹JFA副審判委員長も「興梠選手が脚をわざと外に向けて、接触を起こしにいけばシミュレーションではあるが、この足の動き方だと、小笠原選手の足が不用意なチャレンジになってしまう。競技規則上はPKです」と説明している。この判断に不満のある方は、競技規則を一読すれば理解できると思う。
チャンピオンシップに続き、興梠がPKを獲得したことで、鹿島アントラーズ側からすると不満があるだろう。ただ、競技規則上から見れば木村主審のレフェリングは妥当だった。Jリーグ担当審判員たちは、「ゼロックスの呪縛」を解き、近年で最高の流れで開幕に臨む。
石井紘人 Hayato Ishii
ベストセラーとなった『足指をまげるだけで腰痛は治る!』(ぴあ)に続き、サッカーに特化し、『SOCCER KOZO』(ガイドワークス)編集部と作った『足ゆび力 つま先を使うだけで一生健康でいられる』が絶賛発売中。また、審判批評に特化した『FootBall Referee Journal』も運営。ご意見やご感想はツイッター:@FBRJ_JPまで