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【六川亨の視点】2021年2月27日J1リーグ第1節 浦和レッズvsFC東京

J1第1節浦和レッズ1(0-0)1FC東京
14:00キックオフ  埼玉スタジアム2002  入場者数4943人
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両監督のコメントが如実に物語っていた試合だった。

後半41分に三田啓貴のFKから森重真人のヘッドで1-1の同点に追いついたFC東京の長谷川健太監督は、「勝点1を持って帰れるのはポジティブな結果。内容はけして褒められたものではなかった」と現実を冷静に受け止めた。

一方、小泉佳穂の右CKから最後は阿部勇樹が押し込んで先制した浦和のリカルド・ロドリゲス監督は、「勝点3を取れなかったのは残念。悔しさが少し残りました」と勝利を逃した気持ちを控えめに表現した。

チームを率いて4年目に入り、1月4日にはルヴァンカップを制したFC東京。一方、浦和のロドリゲス監督は今シーズン就任したばかり。チームの完成度は明らかにFC東京が高いと思った。しかし現実は違った。

理由は簡単で、「外国人選手の合流が遅れたのでコンディションがよくない。本調子ではないので前線に起点を作れなかった」と長谷川監督が振り返ったように、スタメンで起用されたディエゴ・オリベイラとレアンドロの出来が酷すぎた。

本来なら屈強なフィジカルを生かし、2~3人がかりのマークをモノともせずに突進する2人だが、ディエゴ・オリベイラは昨年11月27日のACL上海申花戦で受けた悪質なタックルからこの試合が公式戦の復帰となる。しかし得意とする推進力のあるドリブル突破は1度も披露することができなかった。

同じことはコンディション調整で出遅れているレアンドロと交代出場したアダイウトンにも当てはまる。

それでも苦手とする鬼門・埼玉スタジアムで負けなかったこと。交代出場ながら今年1月8日に右肩を再手術して、全治2ヶ月と診断された永井謙佑が思ったより早くピッチに戻れたことは好材料だろう。

今日の試合を見る限り、開幕ダッシュは厳しいかもしれないが、ガマンして勝点を拾う戦いはできそうだ。

対する浦和は、早くもロドリゲス効果が出ている。ピッチの幅をワイドに使うポゼッションサッカーは発展途上ながら、栃木から獲得したMF明本考浩、琉球から移籍したMF小泉は早くもチームにフィットしていた。

4-2-3-1の右MFに起用された明本は中へ流れることでSB宇賀神友弥の攻撃参加を引き出しつつ、屈強なフィジカルで1トップの杉本健勇と2トップを組んでFC東京ゴールを脅かした。ロドリゲス監督も「インテンシティの高いプレープレーができ、いろいろなポジションでプレーできるポリバレントな特長がある」と評価した。

トップ下に入った小泉は、この日は一番ボールに触ったのではないかと思うほど豊富な運動量で攻撃に絡み、攻めのリズムを作っていた。見た目、金髪なのは目立ちたいからだそうで、セットプレーのキッカーを任されるなどチームメイトの信頼を得ている。

琉球時代に一緒にプレーした小野伸二(札幌)に言われた「自信をもってやること」がモットーだそうで、小野が浦和時代に付けていた背番号「18」を受け継いだのも理解できる、クレバーな選手という印象を受けた。

明本のプレーは開幕前のSC相模原との練習試合で見たが、小泉のプレーを見るのは初めてだった。「J2にもこんないい選手がいるんだな」というのが正直な感想だ。おそらく徳島の指揮を執っていたときにロドリゲス監督は彼らをチェックしていたのだろう。

新天地、それも浦和というビッグクラブで出場機会を与えられて張り切る移籍組と、これまでチームを支えてきた選手のプライドを、今後ロドリゲス監督はどう操るのか。これはこれで、とても興味深いテーマであると同時に、まだ1試合ではあるものの浦和にはダークホースの予感が漂ってきた。

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。