後藤勝インタビュー(後編):個人メディアだからできること
大きいメディアからこぼれてしまうものをカバーすることが、存在意義だと思っています。
※後藤勝インタビュー(前編):『トーキョーワッショイ!』の狙いとは?
▼主観と客観、事実を伝える両輪
渡辺:今回は「タグマ!」の取材ということもあるのですが、やはり、有料メルマガを始めた経緯を教えていただければと思います。
後藤:有料メルマガ『トーキョーワッショイ!』をスタートしたのは2011年でした。
渡辺:2011年というと、前年にスタートした堀江貴文さんの有料メルマガが儲かっていることが話題になり、3月に起きた東日本大震災や原発事故をキッカケに、ジャーナリストによる個人メディアが注目された時期ですね。
後藤:マスメディアに足りない情報を書いていけばいいかと思いました。そのタイミングで、有料メルマガをやらないかという誘いがきた。
渡辺:FC東京がJ2に落ちたことで、露出度が減る。それを補えれば、ということですね。
後藤:宇都宮(徹壱)さんが2010年から有料メルマガを始めていますが、サッカー界の中では早かった方だと思います。最初は『徹マガ』のように、総合的な内容にしようと思ったのですが、FC東京に寄せた内容に落ち着きました。
渡辺:確か、田中滋さんの『GELマガ』と同時期ぐらいですね。2011年というと、清水英斗さんや小澤一郎さんも有料メルマガをやっていたななぁ。あとは、木崎伸也さんとか……。懐かしい。有料メルマガを始めるにあたって、参考にしたサービスなどはありますか?
後藤:僕が好きなサッカーのメディアが2つあって、それ以外が嫌いってわけじゃないですけど。1つは、「ペンション チキート」というWebサイトです。バルセロナ在住の日本人がペンションをやっていて、その方がスペインの新聞を訳している。向こうは新聞の記述も、当然、地元クラブよりなんですよ。出場停止なんかがあると、「この控え選手に出番が」みたいな。そういう、そのシーズンのストーリーを追ったような記事が毎日載っている。そういう、ひいきクラブを主観にとらえたものをやりたいなあ、と。日本では、新聞は中立公正ってのがあり、なかなか、そこまで思い切ったことは書けない。
渡辺:東京中日スポーツは、FC東京の情報を比較的多く掲載していますが、そのスペースは限られてますよね。スペイン紙の熱量に比べると。
後藤:確かに、スポーツ新聞の枠内としては頑張ってると思いますが……。もう1つが、「TOKYO FOOTBALL」というPCの有料サイトです。ここは、東京都のユースじゃなくて、女子でもなく、男子の社会人サッカーのサイトなんです。上は、JFL。東京、都のチーム。現在なら東京武蔵野シティFCが最上位ですね。特筆すべきは、順位表とかメンバー表とか、社会人サッカーって公式な情報が充実していないんですよ。そこは、公式よりも、ちゃんと公式的なデータをきちっと載せている。写真や映像もバッチリ撮っていて、戦評とかコメントとかもプロレベルで載っている。
渡辺:公式サイトではなく、有志が?
後藤:有志がやっているのに、やっている仕事のレベルや情報の取り方とかが、もう、公式の代わりになっている。公式サイトもあるにはあるんですけど、公式としての役割を、ほぼ果たしていない。
渡辺:今は変わりましたが、昔は、公式って、Jリーグもどこも、インターネットに対して、積極的ではなかった。
後藤:そうですね。特に下のカテゴリーになると、個人のブログ頼み、みたいな。断片的な情報しか伝わってこない。そこで、JFLから都リーグまで網羅して、各順位表とか、カテゴリー間の昇格・降格とかを、逐一、正確に記載している。この報道量と厳密さはすごいな、と。本来は、Jリーグとかじゃないと、ちゃんとやらないレベルのことを、社会人がやっているってことは衝撃が大きくて。
渡辺:どういうことですか?
後藤:情報量が多いプロのサッカーの方が、新聞記事とか、客観的な報道とか書きやすいんですよ。もともと、ソースがたくさんあるから。それに対して、下の方は、誰もそもそも実態を知らないから、客観的な報道って、しにくいんです。例えば、○○選手がゴールを決めた、といっても、その選手を誰も知らない。そうなると、下のカテゴリーで書きやすいのは、物語なんですよ。誰それ1人にフォーカスした……。
特に今だったら、FC今治にいった岡田武史さん(元日本代表監督)とかが、書きやすい。あるいは、ヴァンラーレ八戸FCならば、市川大祐(元日本代表)にスポットを当てると書きやすい、とかあるんですけど、それだと一本のネタで終わっちゃいますよね。そうじゃなくって、ちゃんと、下のカテゴリーのサッカーを網羅して理解できる本当の記事を出すって、かえってカッコいい。クールだな、と。だって、そっちの方が難しいわけだから。
渡辺:1人に焦点を当てると……。TVの『情熱大陸』みたいな感じですよね。
後藤:そうです、そうです。
渡辺:ああゆうのって、簡単にストーリーが作れますよね。
後藤:作りやすい。基本的には、すごいやりやすいんですけど。安易にそういう手法をとらないで、淡々と厳密に、客観的な報道する手段をとったのは、カッコいいな、と。この主観と客観って真逆に見えるけど、事実を伝えるという意味では、両輪になっている。両方のいいところをとってあげれば、という形でFC東京に踏み込めないかな、と。つまり、FC東京に対して客観報道が少ないから、それはそれで充実させる。その上で、ただ客観的でも面白くないから、ちゃんと主観的な、一枚壁を超えたこともやっている。
渡辺:それは、FC東京がカテゴリーを1つ落としたことで報道が減り、客観的なり主観的なり自分がやる余地ができた、と?
後藤:それはあります。本当なら、東京中日スポーツや日刊スポーツが報道して間に合っているところを、たぶん、そこも足りないくらいだから、自分が客観報道しても全然OKだと。
渡辺:そういう自負もあって『トーキョーワッショイ!』を始めた、と?
後藤:はい。
渡辺:有料メルマガを始めた際の反響は?
後藤:ちょっといったんですが、そこでピタッと止まっちゃったんです。あまりに採算が取れないんで、一回、値上げをしたんですね。
渡辺:2012年2月に『トーキョーワッショイ!MM』から『トーキョーワッショイ!Z』へ、2012年10月にから、現在の『トーキョーワッショイ!プレミアム』へリニューアル。値上げは、「Z」から「プレミアム」のタイミングでしたね。有料メルマガで、値上げするのは珍しい。自分のコンテンツに自信がないとできない。サッカーライターさんは、サービス精神が旺盛すぎて、値下げしたがる人が多い。
後藤:ピタッと止まった後は、微増が続いてたんですが、値上げ以後に増加ペースが速まったのは、「J’s GOAL」がなくなってからですね。
渡辺:それは内容が支持されていたことの証明ですね。サッカーライターさんは、自分の記事に対してデフレマインドになる傾向が強いと感じるのですが、自信を持ってもらいたいですね。それだけ、Jリーグクラブの情報には需要があるってことですから。
▼『トーキョーワッショイ!』の意義
渡辺:『トーキョーワッショイ!』は、必ずしもFC東京の話題だけ、じゃないですよね。そこは後藤さんのパーソナリティーが生かされていると思います。
後藤:自分なりにこだわるラインがある。Jリーグだったら、FC東京以外ならこれっていうのがある。そういう部分は大切にしたいと思っています。個人メディアなので、得体のしれない料理屋みたいなものと思っていただければ良いかなと。いつ開店しているのか、どんな料理が出されるのかも、主人の気分次第。
渡辺:良い記事を提供しようと思うと、自然とそうなりますよね。特に、今年のFC東京はAFCチャンピオンズリーグ(ACL)にも出場していて、平日に試合が開催されるなど、日程も厳しい。中2日とか、中3日とか、選手が厳しいのは当然として、メディアも厳しい。まして個人ならば。
後藤:最近は、味スタも閉まる時間が早い。そうなると、試合後の原稿を書くスペースを確保するのも大変です。
渡辺:サッカー専門新聞『エルゴラッソ』で連載していた「東京書簡」が、タグマ!で復活しましたね。
後藤:海江田(哲朗)さんから、有料Webマガを始めるにあたって相談されました。
渡辺:私も、海江田さんのブログ記事を読みましたが、正直、デリケートな問題ですね。
後藤:Jリーグの規制が厳しくなったというよりは、ある意味、これまでいい加減なところのあったJリーグが、しっかりと管理するようになった、という流れだと思います。以前は、よく分からない人も記者席に出入りできてましたからね。
渡辺:テロ対策などを考えると、仕方がないですよね。実際、サッカーはテロの標的になっている。先ほどの、味スタの閉まる時間が早くなったとかも、そういう流れですよね。そろそろFC東京のキックオフ時刻が迫っているので、最後に1つ締めの質問を。ズバリ、『トーキョーワッショイ!』の意義は?
後藤:副読本ですね。メインじゃない。大きいメディアからこぼれてしまうものをカバーすることが、存在意義だと思っています。
渡辺:ありがとうございました。
渡辺文重(わたなべ・ふみしげ)
1973 年生まれ。福岡県北九州市出身。フリーランス編集者/ライター。有限会社ブンヤ取締役。パソコン雑誌のライターを経て、2003年に有限会社ブンヤ設立。 携帯サイトの企画、運営、編集、執筆などを行う。主な分野は、サッカー、ゲーム、アニメなど。メールボックスに届く有料メルマガは、1週間で約100通。 ちなみに、アニメの視聴時間は1週間平均1500分となっている。『渡辺文重の有料コンテンツ批評』