J論 by タグマ!

「ロングインタビュー100人超え。人間そのものに迫る理由とは」森雅史/後編【オレたちのライター道】

“ライターの数だけ、それぞれの人生がある”。ライターが魂を込めて執筆する原稿にはそれぞれの個性・生き様が反映されるとも言われている。J論では各ライター陣の半生を振り返りつつ、日頃どんな思いで取材対象者に接して、それを記事に反映しているのか。本人への直撃インタビューを試み、のちに続く後輩たちへのメッセージも聞く前後編のシリーズ企画。第12回は『森マガ』『サッカー、ときどきごはん』の森雅史氏に話を聞いた。
→前編「取材対象から本音を引き出すアプローチとは

 

■業界のパイを広げる働きかけを

――ちなみにサッカー業界での出発点は、サッカーダイジェストでしたよね。

六川享編集長に拾っていただいて。今でも頭が上がらない大先輩ですし、師弟関係が続いています。ダイジェストでは編集記者をやっていました。六川さんは厳しい方でしたよ。六川さんの原稿チェックが戻ってきたとき、チラっと見たら赤字が少ししかなかったので、ラッキーと思ったんです。そうしたら「これ面白いの?」ってだけ書いてありました(苦笑)。

――赤字を入れられるレベルの原稿ではないと。僕も通ってきた道ですが、ゾッとします。

締め切りも近いので焦りましたが、それで鍛えられましたね。僕がいた頃は週刊誌でしたからだいたい週2日は徹夜があったんですけど、好きなサッカーのことを書ける仕事ですから、苦ではありませんでした。

――そもそもはサポーターだったともうかがっています。

今でもサポーターですよ。サポーターとか、報道とか線を引くことは違う気がするんです。サポーターとか報道とかという立場の前に、自分がやるべきことをきちんと残さないと、という使命感を持っています。

――あとから続く、この業界を目指す若い世代に伝えたいことはありますか? 個人的にはこの業界を志望する若手が減ってきている印象です。

業界がシュリンクして狭いパイを取り合っている感じですからね。サッカー業界だけに限ってしまうと決まっているところからしかお金が出てこないので、お金を持っている業種・業界にサッカーのコーナーを作ってもらったほうがいい。

これからはサッカーの記事が掲載されていない媒体にサッカーのコーナーを作ってもらって、パイを広げていく、みんなが活躍の場を増やしていけるような発想を示す、というのも僕の仕事かもしれません。ぐるなびさんのオウンドメディア『みんなのごはん』の中にコーナーを作ってもらえたので、飲食・食品業界で他にも作ってくれるところがあるかもしれない。そういう発想で、みんなでパイを広げていければいいと思っています。

若い人たちの存在は貴重で、業界が長いと、頭でっかちになりがちだし、僕たちが見落としていることを若い人たちならば気付けることがあるかもしれない。現場でも若い人たちの熱量はすごいですし、彼らを見ていると僕自身も熱量を持ち続けないと置いていかれると焦りますね。

 

■一番やりたかった取材対象者

――ちなみに書くという仕事にこだわりは?

書く仕事をやっているのは、サッカーのそばにいるための一つの手段であって、話すことでそれができるのであれば、それでもいいと思っています。ただ僕たちは「本当のところはどうか」「本当はどうだったのか」に近づける立場にある。それをどう残して伝えていくか。書き残したいことはたくさんありますね。

――現在はどんな取材対象に興味がありますか?

取材したい人はむちゃくちゃたくさんいますよ。山のようにいます。ちなみに一番やりたいと思っていたのは、ヨハン・クライフさんで。もうお亡くなりになりましたからダメですけど。

――ちなみに自分の中でお気に入りのインタビュー原稿はあるのですか?

これまで100人近くにロングインタビューをしていますが、インタビュー原稿に優劣はつけられませんね。どれも好きで。書いたものは相手が話してくれたことで、話してくれたこと自体が貴重だと思っています。こんな話をしてくれてありがたいなと。みなさんに感謝してますからどれも同じです。

――インタビューではすごく人間に迫りますよね。

ピッチの上で最後に出てくるのは人間性だと思ってるんです。例えばゴール前でボールを持った選手がなぜシュートを打ったのか、なぜ打たなかったのか。そこに人間が出てくると思いますし、その瞬間の心の動きとか、人間の力が知りたいんですよ。選手はみんなその人間の力に向かい合っているとも思います。それで僕の場合は、人間を書くパターンが多いかと思いますね。

 

森雅史(もり・まさふみ)

佐賀県有田町生まれ。久留米大学附設高校、上智大学出身。サッカーダイジェストなど、多くのサッカー誌編集に携わり、2009年本格的に独立。11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の日本戦を取材。Jリーグ後任の登録フリーランス記者、日本蹴球合同会社代表。キュートでニートなフットボールジャーナリスト。

 

郡司聡(ぐんじ・さとし)

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経て、フリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、エルゴラッソやサッカーダイジェスト、Number Webなどに寄稿。タグマ!の『ゼルビアTimes』編集長。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド・刊)。