「取材対象から本音を引き出すアプローチとは」森雅史/前編【オレたちのライター道】
“ライターの数だけ、それぞれの人生がある”。ライターが魂を込めて執筆する原稿にはそれぞれの個性・生き様が反映されるとも言われている。J論では各ライター陣の半生を振り返りつつ、日頃どんな思いで取材対象者に接して、それを記事に反映しているのか。本人への直撃インタビューを試み、のちに続く後輩たちへのメッセージも聞く前後編のシリーズ企画。第12回は『森マガ』『サッカー、ときどきごはん』の森雅史氏に話を聞いた。
■原稿を仕上げる上でのこだわり
――J論プレミアムで掲載された山本雄大主審のインタビュー記事が話題になりました。人選はどのようにして決めているのですか?
インタビューの人選については、いろいろな人を見てきて、接触していく中で話してくれそうな時に行って話を聞いてます。それ以上のものはないんです。この時期だから、これをやろうとか、話題に引っ掛けてやろうとかは考えていません。山本主審からは、レフェリーカンファレンスに参加することで私のことを認識してもらっていましたし、山本主審が話してくれそうなタイミングだと感じたので、インタビューを日本サッカー協会にお願いしました。
――なかなか表に出にくいような話もたくさん盛り込まれていました。
まず山本主審が話そうと決めて、その場で話してくれた、その決心をなさった山本主審がすごかったですね。それにこの内容を載せてもいいと決めてくれた審判委員会のおかげです。掲載する中身については、聞いたことをきちんとそのままを出すことが一番いいと思っているので、音声データから文字起こししたものを出すようにしています。いかに正確に記すかということにこだわっていますし、大きく手を加えて劇的に仕上げるようなことはしたくないですね。
――インタビューをする場合、この話に持ち込めればいいなと、少なからず逆算することがあると思うんですが…。
逆算は一切ないですよ。例えば巻誠一郎さんの場合、現役時代の話を聞きたいと思って出かけて行ったけど、巻さんが話したい内容は熊本の震災の話でした。個人的には本人が話したい内容を原稿にしたほうがいいから、雑談ベースで話を聞いて、それを原稿にしています。読者のみなさんに面白いと読んでもらえるものは、話をする人が話したいと思ったものじゃないかなと。
――ミックスゾーンで取材をご一緒させていただくと、挨拶程度で話を終わらせていることもありますよね。
僕の場合、取材をし始めてからインタビューとして話を聞くまでが長いんですよ。試合直後は取材対象も興奮しているから、何日か経つと、『今考えるとこうだ』と話してくれて、それを積み重ねていって、最後に『どうなんですか?』と聞いた方が正確かなと。
僕たちがやっているのはジャーナリストという仕事で、ジャーナルという言葉は記録するという意味です。いかに取材対象者が思っていたことを正確に記録して残せるかに注力しているだけで、インタビューは聞き手の僕が出てくる必要がない。読者が読みたいのは、その人の話ですからね。インタビュアーの人の話も面白ければ、Q&A形式にすると楽しくなると思いますが、僕はどちらかと言うと、黒子に徹したいので、その人の一人語りでまとめています。質問を抜いていくと、あのような一人称の形に収まっていきます。ただそれだけですね。
■取材スタイルの確立に影響を与えた人物は…
――雑談ベースで話を進めるというアプローチをもう少し言葉にしていただけると。
「最近元気でしたか?」とか、まずは近況を話してもらい、向かい合って話していく中で「ここはこうなんですね」と、雑談の中でなんとなく話が広がって終わっているだけです。雑談をする中で心が晴れていく人もいれば、雑談の中で心を閉ざしていったけど、一箇所ポロッと本音が出てきた、ということもあります。
――そうしたインタビュースタイルが出来上がったきっかけは何かありますか?
影響を受けたとすれば、漫画家のあだち充先生かなと。あだち先生は省略のうまさがものすごくあって。ボールと歓声を書くだけで、試合に勝ったことが分かるみたいな。そういう作り方や余韻の作り方がすごく好きで、何にでも説明を加えるのは止めたほうがいいのではないかと考えるようになりました。。
――ちなみに雑談ベースとはいえ、結果的に取材対象とぶつかり合ったことはありますか?
ラモス瑠偉さんがヴェルディの監督になった際に、シーズン前にインタビューを受けてもらいました。最初に「今季はどんなサッカーをしたいのですか?」と聞いたら、「ここで話したことをお前書くだろう。それで研究されて勝てなかったらどう責任を取るんだ?」と言ってきました。昔から知っている仲だったのでこちらもついスイッチが入ってしまい、「ラモスさん言っておくけど、書かなくても勝てないよ。主力選手が7、8人抜けていて、それで勝てるほどJ2は甘くない。それを知っていて、なんで監督を受けたのですか?」と聞いたんです。そうしたらラモスさんは「今の立場では言えないけど、苦しいのは分かっている。でもヴェルディの監督をやるのに誰も手を上げなかったらどうする」と。その時は言い合い…になりましたね。
→後編「ロングインタビュー100人超え。人間そのものに迫る理由とは」
森雅史(もり・まさふみ)
佐賀県有田町生まれ。久留米大学附設高校、上智大学出身。サッカーダイジェストなど、多くのサッカー誌編集に携わり、2009年本格的に独立。11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の日本戦を取材。Jリーグ後任の登録フリーランス記者、日本蹴球合同会社代表。キュートでニートなフットボールジャーナリスト。
郡司聡(ぐんじ・さとし)
編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、エルゴラッソ編集部を経て、フリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、エルゴラッソやサッカーダイジェスト、Number Webなどに寄稿。タグマ!の『ゼルビアTimes』編集長。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド・刊)。